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出力の価値と、プロセスの価値

一般の中小製造業に比べて印刷の制作工程が長くて複雑なことは、他産業が印刷への参入するのを抑制する効果をもたらしていた。というのはアナログの時代のことであって、デジタル化でこの制作の中間工程はどんどん統合化されて、時間短縮や材料削減という大きなメリットをもたらしたものの、印刷会社・DTPの売上は減っていった。これは価値を産まない中間プロセスが削減されたことを意味している。

では途中のプロセスには全然価値がなかったのか? 例えば校正は品質を保証するとか高めるという価値を産む。しかしそれは制作側ではなく発注側での作業で起こることで、制作側で何らか貢献できるとすると、校正履歴が残るようにするとか、校正のワークフローが確実に周るような仕組み作りである。つまり一点の仕事のうちに価値を産む仕掛けができるのではなく、確実に仕事ができるように環境を整備することに価値が産まれる。

こういう仕事の環境整備によって価値を高める要素は実は多くある。それは制作プロセスの短縮化とともに校正の回数は減り、品質のチェックは漏れが起こりやすくなったからで、それを埋め合わせるために原稿やグラフィクス素材など材料の段取り作業の重要性が増えている。とはいっても手作業の段取りではリスクが高まるので、制作作業のメインは確実な工程設計・作業設計ができる環境つくりにシフトしていく。

例えば原稿やグラフィクス素材を取得する段階では、データの出所や権利者などのメタデータを持てば管理に役立つ。外部から取得したデータはそれが作成された環境に依存するので、画像ならホワイトバランスなど正規化してマスター画像にしなければならない。マスター画像を繰り返し利用するには利用履歴管理やキーワードをつけるなど検索のためのメタデータを持たせなければならない。

この後に利用局面を想定してオーサリングの段階があり、いわゆる編集・レイアウトを行う。編集ではストーリーに基づいてバラバラの情報をつなぎあわせる。つまり素材のセレクトと使用順序つけがあり、バラバラのテキストや画像などに構造を与えるようなことである。レイアウトは2次元のエリアを区切って素材をマッピングして配列するものである。こういうことを口説く表現しているのは、それが次第にアルゴリズムに基づいて行われはじめているからで、表層的には自動組版の進展がある。

だが自動組版を本当に合理的に行うには、素材からページ完成まで必要なメタデータを管理できるようになっていなければ、自動組版後にまた校正して赤字直しということにもなりかねない。出力結果を急ぐ自動組版ではなくて、制作プロセスが価値をもつような方向でシステムを考えていかないと、投資対効果を期待することはできないだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 2006年8月号より

2006/09/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会