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フォントのチカラ その1

10/23に「小林 章の欧文タイプ・セミナー『フォントのチカラ』」が、東京タイプディレクターズクラブ(TDC)主催で開催されました。

現在デザイナーの間で愛読されている『欧文書体―その背景と使い方』(美術出版社)の著者であり、そしてライノタイプのタイプディレクターである小林章氏を講師に招き、ゲストには、アートディレクターの葛西薫氏、嘉瑞工房の高岡昌生氏、そして後半のフリートークでは、グラフィックデザイナーの祖父江慎氏、中島英樹氏がパネラーとして参加。フォント選びや使い方の基本を押さえながらも肩肘張ることなく、終始気軽な雰囲気の中、プログラムは進められました。

イントロダクションでは、サントリー株式会社が2004年に、自社のロゴデザインをリニューアルした際の選定経過が紹介されました。このプロジェクトは葛西薫氏が推進役の一人を務め、小林章氏は、高岡昌生氏と、世界的に有名なフォントデザイナー マシュー・カーター氏と共に、アドバイザーとして関わっていたのです。国際的にも通用するロゴタイプにするために、欧文フォントの専門家の意見が必要だったということです。
新ロゴタイプのプロジェクトについては、「デザイントーク in TOPPAN 2005」でも紹介されています。

新しいロゴタイプの元になった書体は、オーソドックスなサンセリフ体ですが、ブラッシュアップしていく過程で変化していきます。

特に「U」「N」は小文字によく使われる「u」「n」の形になりましたが、それによって、ロゴタイプ全体にバランスと動きを与え、「水と生きる SUNTORY」というコーポレートメッセージにふさわしい、みずみずしいイメージを作り出しています。
「T」の形にもちょっとした工夫があったそうです。この横角は、長方形ではなく右側が斜めにカットされています。これには、硬いイメージを和らげる効果もありますが、それだけではありません。文字と文字とのアキを見た目に均等にする、これはスペーシングを呼ばれ、文字組を見やすく美しくする上で重要な作業です。しかし、「SUNTORY」という文字列の場合、「T」と「O」のアキを他の文字間と同じように詰めると、「T」の横角が「O」にぶつかってしまいます。斜めにカットしたのはそれを避けるためのテクニックだったということです。

イメージを効果的に伝えるためには、「欧文フォントはこうでなければならない」という縛りは、あまりないようです。
しかし、英文字の筆法に照らして自然かどうかという点は気にするようです。サントリーの新ロゴタイプ案についても、特にスクリプト体を使っている場合、手書きでは普通こういう書き方はしないとか、この文字とこの文字とを組み合わるのにこの筆法はあり得ないというところは修正の対象になったそうです。

ロゴデザインにおいては
見やすい、読みやすい、不自然に見えない
イメージがダイレクトに伝わる
それが満たされていれば、後は自由に発想してもよいのでしょう。

イントロダクションの後、小林章氏によるセミナー 第1部「フォントって何?」、第2部「フォントのチカラ」が行われましたが、それはまたの機会に紹介します。

2006/10/28 00:00:00


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