2006年9月にスペインで「2006 HP スーパーワイドフォーマットThink Grandeイベント」が開催された。これはHPの大型インクジェット・プリンタの新技術と新製品の発表会で、世界中から1300人のユーザーと関係者が、HPの大判プリンタの製造拠点であるバルセロナに参集した。日本からも約30名のユーザーが参加していたが、オフセット印刷会社の参加は1社のみで、残りはスクリーン印刷など屋外広告の製造会社からの参加であった。
海外では10年ほど前から工業用の大判のプリンタによって大型の屋外広告を制作するようになってきた。印刷幅が3.2m以上の機種はスーパーワイドと呼んでいるが、ビルボードなどと大型の広告は、遠距離で見る用途なので出力解像度も50dpi程度と低いものでよかった。7〜4年前になると、バスや電車さらにはビルへのラッピング広告が登場して大判市場が拡大してきた。しかし屋外広告はさまざまな法令規制があるので、掲出できる総量は制限されてしまう。

そこで大判のポスターなどの屋内への掲出が始まっている。店舗内の装飾や販促印刷物に大判出力物を利用する用途開発である。国内では遊戯施設への利用、イギリスでは店舗内の定期的な装飾や販促物の更新などの用途が報告されている。一品生産のテキスタイルや壁紙、またボードなどの硬い素材への直接印刷などの用途が拡大してきた。これらの出力物は屋内であるために至近距離から見ることになるので、高解像度にしておかないと、網点の荒れが目立ってしまう(上図)。
また、さまざまな素材に印刷するために、柔軟性も要求されてくる。このような用途に合わせて、大判プリンタであっても800dpi以上の高解像出力できるような技術開発と製品開発が行われている。ここで紹介するHP Scitexの新しいインクジェットプリンタのプリンタヘッドX2と、これを搭載した大判プリンタはその一例である。
2機種のX2ヘッド搭載プリンタを参考出品
(1)HP Scitex XL2200
XL2200(参考出品)は最大幅5mのプリンタで、X2ヘッド128個を搭載したモデルである。インクジェットのヘッド部分にインク乾燥用のUVランプが内蔵されているが、反射板にダイクロック(分光)ミラーを使用して熱線成分をランプ後方に逃がしているので、紙面温度は36度C以内に収まり、熱による紙シワが起こらない工夫がされている(写真下)。


新たに開発された次世代プリンタ用プリントヘッド
新しいHP ScitexX2プリントヘッドはクレジットカードを一回り大きくして3枚ほど重ねた程度のコンパクトな設計とシンプルなプラグインインタフエースにより、大型高性能インクジェットノズルの配列への組み込みに適している。HP ScitexのUV硬化インクによる大判プリンタに対応するよう設計開発されたX2プリントヘッドは、生産性、信頼性、そしてイメージの品質を、新世代の工業用プリンタが求めるレベルになっている。

工業用インクジェットプリンタでは1時間に数百平方メートルの印刷が可能であるが、鮮明な色で高品質、且つ優れた耐久性が求められるPOP、屋外用ディスプレイ、建物やカーグラフィックス等の印刷市場ではより高い生産性が求められる。どのようなインクジェットプリンタの場合においても、プリントヘッドとインクが主要コンポーネットであるため、生産性の高度化は、高速印刷時でも信頼性の高い性能と高品質な印刷イメージを実現するプリントヘッドとインクテクノロジーに大きく左右される。 生産性の高度化とは、時間当たりの印刷面積を伸ばすことであり、これを実現するには印刷メディアへのインク送りの高速化が必要である。プリントヘッドの製造工程では、一貫したインクドロップの噴出性能を実現するために、特長や特性が厳密に統一された装置の製造が必要とされる。
簡単な取り付け及びメンテナンス
HP ScitexX2プリントヘッドの特長は、プリントヘッドを所定の位置へ差し込み、2本のビスで止めることで機械的、インク、電気的な接続が可能なことです。HP ScitexX2プリントヘッドの取り付けや取り外しは簡単である。
単体のプリントヘッドは100dpiであるが、8個のヘッドを少しづつシフトさせながら並べることによって、800dpiの解像度を実現できる約33mm幅の1色分のヘッドが1組できあがる。これを組み合わせることで4色、6色、8色などの出力が可能となる。下図は64個のプリントヘッドを並べたモジュール(マゼンタ2色、イエロー2色)の概念図である。

プリントヘッドチップ
新しいHP ScitexX2プリントヘッドは、HP独自の設計・開発・製造によるシリコンおよびガラス製の画期的なプリントヘッドチップをベースにしたコンパクトなモジュール設計されている。ピエゾ式インクジェットテクノロジーにより、インクを多量供給している状況下でも優れたイメージング性能を提供している。シリコンベースのMEMSテクノロジーによって、多量のインクドロップ噴出の安定性と性能が確保されている。
プリントヘッドチップは128個のノズルで構成され、ネイティブ解像度は1インチ当たり100ノズルで、さらにこれをマルチヘッドモジュールに組み立てることによって最高800dpiまでの解像度を提供することが可能となっている。
1ノズル当たり最高毎秒30,000ドロップ、1ドロップ当たり50plを噴出するHP ScitexX2プリントヘッドは、毎秒2メートルまでの直線印刷速度で、毎分10ml以上のインク送りが可能である。高い信頼性と工業用インクジェットインクへの耐化学性が実現されている。
シリコンチップの両面に64個のノズル、インクチャネル、ピエゾ式アクチュエータが配列されている。接着剤を使用することなく、シリコンに薄いガラス板を接合することでインクチャネルが密閉されていて、ここからインクドロップが噴出される。MEMSテクノロジーによる集積回路に相当する精度での組み立てによって、プリントヘッド前の保護スリーブ(LCP)がノズルの配列を揃え、保護されている。これらの部品の組み立てにはインク耐性を持つエポキシ樹脂が使用されている。
ヘッドチップは微少電気機械システム(MEMS)テクノロジーという、集積回路の製造に開発されたプロセスをベースとしてシリコンウエハ上に製造されている(写真下)。

一つのプリントヘッド、また複数のプリントヘッドを通して、全く同一のインクチャネル、ノズル、ピエゾアクチュエータを製造することが可能で、これによって高品質印刷を実現するためのドロップ量、ドロップ速度、ドロップ軌道の均一性が得られる。 HP ScitexX2プリントヘッドでは、薄いガラス板をシリコンウエハの上下面に接合するために陽極接合を用いる。このプロセスでは、ガラスに接着剤を使用せずにインクチャネルを密閉する。多くの部品を同時製造するために陽極接合をウエハの段階で行うことが可能で、プリントヘッドのドロップ噴出装置の均一性および精度に貢献する要素のひとつになっている。
高速性と高解像を両立
今回の発表の目玉である新開発されたX2プリントヘッドの高速印字性能は、現状では200平方メートル/時であるが、能力的には10倍の2000平方メートル/時が可能な設計がなされているという。分かり易く言うと200平方メートルとはA全判400枚/時であり、2000平方メートルとはA全判4000枚/時に相当する面積の印刷が、大判長尺のプリンタから800dpiの解像度で出力できるようになるということであり、印刷技術の可能性がまた広がってきた。
2006/10/29 00:00:00