本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

W3Cプリントシンポジウム2006 参加報告

2006年10月17日および18日にドイツのハイデルベルグにおいて、W3Cプリントシンポジウム2006が開かれ、参加する機会を得たので報告する。

ハイデルベルグ市は人口14万人の都市で、戦災をのがれたために古い町並みが残っており、ドイツで最も歴史のあるハイデルベルグ大学がある美しい古都である。また、世界最大規模の印刷機器メーカーであるハイデルベルグ社の企業城下町でもある。
今回のW3Cプリントシンポジウム2006は、ハイデルベルグ社の研修センターであるプリント・メディア・アカデミーを会場に開催された。

W3Cとは

World Wide Webコンソーシアム(W3C)は、Web関連で使用されるさまざまな技術の標準化をおこなうために設立された世界的な組織である。現在、MIT(マサチューセッツ工科大学)、ERCIM(欧州情報処理数学研究コンソーシアム)、慶応大学が中心となって運営され、世界各国のITベンダー、研究機関、政府など約450の組織が会員として活動に参加している。
Web関連技術の標準仕様やガイドラインの策定をおこなっており、HTMLやXML、XHTML、CSS等の標準を策定している。標準化のプロセスは公開され、最終的には「勧告(Recommendation)」としてまとめられることが多い。

W3Cプリントシンポジウム2006

今回のシンポジウムは、次世代のWeb関連プリント・テクノロジーを考察するものであった。W3Cの会員、非会員ともに参加することができ、約80名の参加があった。日本からの参加者は、キヤノン、アンテナハウス(2名)、ジャストシステム(2名)、JAGAT、W3Cスタッフの7名であった。

現在、W3Cで協議・検討されているプリント・テクノロジーには4種類のものがある。
Webのレイアウト技術であるCSSの最新版CSS3の一部であるCSS Paged Media。ハイエンド印刷を目的としたXSL。SVG Print、XHTML Printである。これらの最新動向についてのプレゼンテーションが行われた。

CSS Paged Media

CSS はスクリーン表示だけでなく、印刷レイアウトのための技術でもある。すべての HTML ページの2/3は CSS を使用している。また、CSSはXMLなどHTML以外のドキュメントフォーマットにも使用される。
従来のCSSに関する開発の大半は、Webブラウザのためのものであった。しかし、大部分はフォントや色、マージン、背景に関するもので汎用的な機能である。最近では、モバイルデバイスやプリントのための開発もおこなわれている。
CSS level3では、スクロール可能なレイアウトから、より印刷に近いページ単位の機能が期待されている。CSS level3の印刷関連のモジュールには、Paged Media、CSSプリントプロファイル、Paged Mediaコンテンツ生成、マルチコラムのレイアウトなどがある。

Paged Mediaは、ボックスモデルに基づきページを定義するものである。ページ・サイズや余白、ヘッダー・フッター、ページ番号などの設定を可能にする。2006年10月にワーキングドラフトになっている。
CSSプリントプロファイルは、インクジェットやレーザーなどの低価格プリンタのファームウェアに利用される向けのCSSサブセットである。2006年10月にワーキングドラフトになった。

Paged Mediaコンテンツ生成とは、リーダー、脚注、相互参照、ページ・フロート要素などである。
マルチコラム・レイアウトとは、CSSでマルチコラムを定義するものである。

CSSを利用することにより、既に本(記事、アルバム、Webページ)等のシンプルなドキュメントを印刷することは可能である。さらに、ハイフネーションや縦書きなど開発中の改善項目もある。
外部ソフトウェアを使用することにより、インデックス、目次、図版目次などを自動生成することも可能である。

XHTML-Print

デジタルカメラや携帯電話、PDA、テレビとプリンタを接続して印刷を行うデバイスプリンティングの必要性が高くなっている。デバイスプリンティングでは、メモリやプロセッサなど限られたリソースによる、また開発コストを最小化する新しい普遍的なプリンタインターフェイスが必要である。

XHTML-Printは、XHTMLをモジュール化することよって規定されたXHTML言語の体系の1つであり、モバイルデバイスや低価格プリンタ向けに設計されている。CSSによるレイアウト指定を利用することができる。
UPnP(Universal Plug and Play)、Bluetooth、DLNA(Digital Living Network Alliance)などの規格と相互に関連している。

SVG Print

SVGは元々、Webページを対象とするグラフィックス規格として生まれた。しかし、SVG1.1へと進展する段階では、PCやPDA、携帯電話などのデバイスのスクリーン表示に関するものに焦点が当てられた。SVG1.2の段階では印刷環境におけるSVGの拡張が図られている。

SVG1.0では、SVG1.0ファイルを印刷するSVG Printデバイスについて規定されている。SVG1.1では、Tinyと、BasicとFullという3つのプロファイルレベルに応じたSVGモジュールが取り入れられた。SVG1.2では、SVG Printのためのページセット、ページ要素、ストリーミング可能なSVG要素を含んでいる。
SVG Printデバイスはこれらの機能をサポートする必要がある。

XSL 1.1

XSL(Extensible Stylesheet Language)は、プロフェッショナルプリンティングのためのスタイルシート言語であり、Webページの他、書籍やカタログ・パンフレットなど表現することができる。バージョン1.1が、2006年10月にW3C勧告となった。XSLではCSSと違い、主としてページモデルの印刷用途を目的として拡張されている。

Web上で日本語組版・縦組みをサポートする提案

今回のPrint Symposiumに併せて、XSLワーキンググループ、SVGワーキンググループを中心としたメンバーによるXSL-FO 2.0ワークショップが開催された。

ワークショップの冒頭に、日本から参加したジャストシステム、アンテナハウス、JAGATは、Web上でJIS 4051相当の日本語組版や縦組みをサポートするタスクフォース検討結果のプレゼンテーションを行った。
XSLやCSSにこれらの日本語組版や縦組みのための機能を反映することができれば、日本だけでなく東アジア圏のWeb表示の可能性を大きく拡大することが可能となる。
脚注や割注、圏点などに関する細かい質問もあり、大いに参加メンバーの関心を集めることができた。プレゼンテーションの結果は上々で、将来的な検討項目として取り上げたいという意見が多く表明された。

ワークショップでは、XSL-FO 2.0の検討項目に関するディスカッションが続けられた。

また、アンテナハウスからは「CSSとXSL-FOとの互換を図るべき」という提案があり、意見が交わされた。しかし、重要な課題ではあるが、すでに多くの機能が実装されており実現困難との見通しが示されていた。

日本語組版や縦組みをWebに反映するためのタスクフォースは、当面継続して検討を行い、要件をまとめる方針となっている。

2006/11/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会