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モノづくりを大きな目で見る

もう21世紀に突入して6年が経っているが、前世紀と根本的に何かが変わったという印象を持つ人は少ないかもしれない。実際には大きな変化は続いているのだが、それらは何年も前から言われていたことなので、新たな出来事であると改めて認識し難い面がある。一般の印刷は益々オフセット輪転機の方にシフトしている。それは枚葉オフの仕事の一部にかげりが見えていることからもわかる。しかしオフ輪の会社が急速に増えているわけでもない。一方で枚葉よりもフレキシビリティが高くITと結びつきの強いデジタル印刷の応用が広がっているとはいっても、枚葉オフの仕事とのバッティングが表面化しているわけでもないが、長い変化の途上にあることは理解できる。

振り返って考えると1970年代にアメリカのオフ輪メーカーハリス社から、これからはオフ輪の時代になるというレポートが出されたことが、30年近くかかってようやく現実のものになったといえる。今日のオフ輪の優位性はほとんどそのレポートに書かれていたのだが、そのことを素直に納得してオフ輪経営に進んだ人もいれば、気にしなかった人もいた。21世紀に入って印刷メディアの能率がデジタルメディアと比較されることが多くなると、印刷におけるオフ輪の優位性はより明確になり、さらにもっと高能率の生産方式を模索する時代になっている。

以上のことは、印刷業が置かれている条件が、他の製造業と基本的には同じであることを示している。今まで優れた職人が現場を引っ張ってきたのだが、今後それは期待すべくもなく、異なるアプローチが求められる。日本国内は製造業の縮小により現場の人減らしや団塊の定年で弱体化が危ぶまれているからで、日本の強みであった現場力を向上させるために何が必要かが問われている。製造業でも世界に製品を供給している業種では、グローバル競争の中で新たな成長を目指して、従来の製造業の壁を破るイノベーションに挑戦する積極的な経営戦略をとっている。トヨタは3年で製造コストを15%削減する原価低減活動を始めるなど、製造業の基礎体力の強化をさらに進めている。

しかしすでに自動化・省力化が世界の先端レベルにある日本においては、単純な設備導入による生産性向上の余地はほとんどなくなった。印刷でいえば、オフ輪の中でも生産性の高いサンデープレスを入れれば勝てるというようなものではないし、現場のモチベーションに依存したような終身雇用制度時代の技能向上や改善活動にとどまることもできず、経営のイノベーションの中に位置付けたモノつくりを指向しなければならない。

日本の代表的製造業の革新とは、トヨタの看板方式とか、SCM(サプライチェーンマネジメント)など、受注・販売、調達、物流を含め、ビジネス全体にわたった見直しが行われているのが特徴である。かつては量産指向をしていた一般製造業においても、きめ細かな受注対応の生産システム、つまり売れるスピードで作れる製造体制を目指すようになった。もともと印刷は受注一点ごとに仕様の異なる生産であることを特殊事情のように考えていたが、IT化が進む中では一般製造業でも似たようなものになりつつある。

ちょうど印刷においてはJDFを使うことによって、顧客の短納期・小ロット化、必要な時に必要な部数だけが欲しいというオンデマンド志向の印刷市場環境対応に向かっているように、モノつくりのFA化CIM化というのは、経営的にはモノつくりのサービス化と同義であり、サービス化という視点で、オフ輪も、枚葉印刷も、デジタル印刷も使い分けられなければならない。これに対応して、単なる作業者としての人材ではなく、現場が経営戦略に呼応して自律的に動けて、現場がイノベーションの推進力になり得るような、ワンランク幅の広い仕事に取り組めるように、モノづくり全体を広い視野で見ることができる人材育成も大きな課題である。

12月13日(水)に開催されるJAGATトピック技術セミナー 2006では、プレミア・プログラムのシリーズの中で,印刷工場のFA/CIMをテーマにして、より高い生産効率をあげるための工場づくりに役立つ新しい技術の流れを、今年話題となった製品を通してお知らせします。また特別講演として、自社の競争力は組み立て工程にあると位置づけ、組み立て工程における付加価値の最大化に取り組むと同時に、価値を生まないプロセスを徹底的に省力化・削減してコスト競争力をつける生産技術革新活動を展開しているアイシン・エィ・ダブリュ梶@ものづくりセンター長池田重晴氏から、ユニークな事例の発表をしていただきます。ふるってご参加ください。

2006/11/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会