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大きな目標が、現状に疑問を抱かせる

自分の仕事の現状に何も疑問を持つことができないとしたら、仕事の進歩はないし、退屈な仕事になっているだろう。普段何気なくやっていることや、先輩から当然のように教えられたことに、どうしてそうなんだろうか、もっとよい方法があるのではないかと疑問が湧くと、それは新たに勉強をするエネルギーになる。日本人のこだわり意識がモノ作りにうまく働くことは多い。だがこだわりだけで堂々巡りをしないか注意が必要だ。

プロジェクトX風にいえば、改善のアイディアが浮かんでやってみて思い道理にはいかなくても、それを執念や忍耐で乗り切って、誰もやったことがないところに到達する場合がある。では耐えながら走り続けられる場合と、途中で断念するありがちな場合とでは、どこか人の意欲面での差があるはずだが、何が違うのだろうか? それは使命感の強さや、その使命感を支える大きな目標意識であろう。

揺らぐことのない大きな目標を持つことができれば、アイディアをふるいにかけて効率よく取り組むことができるし、大きな目標に向かう途中の中間目標も定めやすくなる。ちょっとした改善のアイディアでも、会社の戦略や時代の流れに沿って練り直すことが、大きな成果に結びつく。今の日本の製造業の課題としては、単純な設備導入による生産性向上の余地はほとんどなくなり、モノづくり全体を広い視野で見なおすことができる人材が求められている。

現場のイノベーション実践力を高めた事例として、自動車用自動変速機(A/T)やナビゲーションシステムの開発・製造・販売を行うアイシン・エイ・ダブリュー株式会社で、池田重晴氏が率いる「ものづくりセンター」の、池田流「モノ創り」がある。アイシン・エイ・ダブリューは、自社の競争力は組み立て工程にあると位置づけ、組み立て工程における付加価値の最大化に取り組むと同時に、価値を生まないプロセスを徹底的に省力化・削減してコスト競争力をつける生産技術革新活動を展開している。

池田氏は工程間のモノの移動には付加価値がないのに、電動搬送台車が必要で大きなコストがかかっていることに疑問をもった。トヨタのジャストインタイムの考え方では、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」であるにもかかわらず、電動搬送台車は不必要なほど大げさなメカニズムであったからだ。自動化・省力化を進めてきた工場においては、必要なことと、そのための装置のアンバランスがいろいろ生じていた。

池田氏は、従来のモーターやシリンダーなどで作動する生産自動化を「大鑑巨砲」式ととらえ、斬新な発想と工夫でそこから脱却することを考えた。自分が小さいころ感動した日本古来の「からくり人形」をヒントに発明・改善を行ない、部品の重量を動力源にして無動力で搬送し、次工程に運び終わると自動的に元に戻る「ドリームキャリー」を開発した。

このように工程や製品と徹底的に向き合うことで、「目から鱗」の発想で資金や物的資源に頼らずに、自社の「組み立て」の競争力を高めてきた。アイシン・エィ・ダブリュ鰍フ「ものづくりセンター」という生産技術開発拠点は、生産設備への投資を減らし、コストもスペースも半減させる技術と、品質向上のための要素技術の両面を追求するとともに、文字や数値に置き換えることが難しい技能の伝承にも力を入れている。

開催迫る!!!
12月13日(水)JAGATトピック技術セミナー2006 特別講演 「温故知新のモノ創り」
講師:アイシン・エィ・ダブリュ梶@ものづくりセンター センター長 池田重晴氏

2006/12/07 00:00:00


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