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美しい国、日本を目指す⇒「美しい」とは何か?

社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎

平成19年明けましておめでとうございます。皆様にとって今年がより美しく、よい年でありますように祈願いたします。

表題は、昨年7月に自著『美しい国へ(文春新書524)』を出版、9月には日本国内閣総理大臣に就任、「美しい国創り内閣」を組織すると所信表明した安倍晋三首相の(ガバ メント)スローガンであることは、皆様すでにご案内の通りです。

このスローガンに対し、国民の中からは「美しい国」の定義があいまいであるとか、具体性に乏しいなどの意見がいろいろ聞こえてきました。しかし、「美しい国」それ自体 に反対という声は聞かなかったと思います。筆者自身は、戦後生まれの初めての総理大臣である安倍首相には、わが国の戦後史をしっかりと総括してから「美しい国創り」を 表明して欲しかった、と思いました。そして、修辞的には「より美しい国」が正しいのではなかろうか、などと考えました。

高度情報化とグローバル化が急速に進む中にあって、日本が21世紀にふさわしい「より美しい国」への再構築を目指すのであれば、私たちひとり一人が「美しい国」とは何 か? そもそも『美』とは何か? を考え、自らの日常の行動に反映させて行くことが何よりも重要なことは論を待ちません。

私の結論は、日本人ひとり一人が『より美しい自己実現』を目指す、というものです。そのためには『和魂洋才』の再構築が必要であると考えます。

変なことを言うようですが、読者の皆さんにはこのレポートを読むことをいったん中止して、ご自分の今のお気持ちで『美しいとは何か?』をじっくりとお考え頂いた上で、 長文となったこのレポートを読んで頂きたいのです。そうすることで私の意見に賛成・反対など、あなたのお役に立つ情報を得ることができると思います。

[注] このレポートでは、皆さんの必要に応じて情報源へのアクセスを容易にするために、ネット上で閲覧できる情報については、基本的にGoogleの検索機能を活用することと し検索キーワードを本文中で表示するようにしました。[・・・]マークが付いているものは、それも忘れずにご入力下さい。該当情報は、トップページの上位にランクされているはずです。その他、都合でサイトのアドレスを表示してある項目もあります。

もう一つの工夫は、Wikipediaを活用できるようにした点です。Wikipediaは皆さんがご存知のように、世界中の識者が協働して充実を目指すネット上のフリー百科事典であり、記事の内容が中立的であると考えたことに加え、項目によっては日本語版Wikipediaと英語版Wikipediaの記事内容を比較検討することで、私たちの理解を更に深めることができる、と思いました。『協働』は、21世紀の重要なキーワードです。

■美しい印刷とは何か?

美しい印刷をキーワードとしてネットでGoogle検索すると、昨年11月12日の例で250万件のウエブ・データ(以下データ)が得られました。

その検索トップページの2列目に登場したのは、凸版印刷(株)印刷博物館のデータで、同館が昨年春にギャラリー展示した『世界で最も美しい本 1991-2005』(ドイツのライプッィヒ市で毎年春に開催されてきた伝統あるブックデザイン・コンクール)の記録でした。

この『世界で最も美しい本コンクール』の運営は、ドイツ・エディトリアルデザイン財団が行っているもので、審査は専門家7名によってデザイン・コンセプト、機能性、タイポグラフィ、素材の選択、印刷、製本などを総合評価し賞が決定されている(印刷博物館 寺本芙奈子学芸員による)そうです。

このような事実からも、印刷と『美』は密接に関わる技芸の一分野であることが分かります。本やその他の印刷物の物づくりにあって『美』は、人間が語るのではなく物が語る(物語る)のだ、と筆者は考えています。物が語る『美』をわが身で受け止めるのが『審美眼』ということになります。

この『審美眼』に関連し、当協会の島袋徹副会長(元凸版印刷株式会社専務取締役)がすでに『印刷物の感性評価』と題して意見を発表しており、全文はネット上でいつでもご覧になれます。

電子画像分野出身である筆者には、この意見が大変参考になりました。そこで文章の一部を引用して皆さんに読んでもらってから私の話を先に進めることにします。

↓クリックしてお読みください。
1]印刷物の感性評価
2]新聞カラー印刷はどこまで美しくなるか?



--目次--  目次に沿って、クリックしてお読みください。 >>


■科学と工学技術が『美』を捉えるまで
1]自然科学と工学技術の協働〜電子メディアの急速な進歩
(1)自然科学と工学技術の協働
(2)電気信号の単純さ
(3)印刷出版の貢献
2]測光・測色科学の歴史〜カラーテレビが美しくなるまで
3]電子カラー画像の現在
4]新時代の科学と調和ある美を求める工学技術のチャレンジ
(1)日本発、感性工学の創設
(2)新時代の科学に期待する
(3)早道は、私たちが「より美しく生きよう」と自覚すること
(4)マイパートナーロボット実用化の夢
■歌詞に見る美しい国
■哲学における『美』について
1]『美』
2]美学
■物が語る『美』とは何か?
■より美しい自己実現の構図
■『和魂洋才』の再構築が必要である
1]『和魂洋才』とは何か?
2]『和魂洋才』と時代の変化
3]21世紀の『和魂』と『洋才』
4]日本人の『感性』と『理性』
5]『論理的コミュニケーション』とは何か?


■むすびに代えて

高度情報化やグローバル化が日進月歩の勢いで進んでいます。そして私たちの身の回りには種々雑多な情報が氾濫しています。他者からの問いかけや社会からの問題提起に対し、私たちは自らの意思と必要に応じて一時情報を遮断することが必要です。自分自身は、今どのような認識と仮説がもてるのか?何も見ないで、何も聞かないで、自分の頭で考えてみることが極めて重要なのです。

問いかけや問題提起に対して反射的に反応し、バタバタと資料や前例を探し回ることはやめましょう。問いかけや問題のキーワードが定まっているのであれば、現在では関連する情報を集めようとすると、短時間で大量に集めることが可能なようになっているのです。

従って、問いかけや問題提起に対し自らの仮説を持ち合わせなければ、情報洪水におぼれて自らを見失ってしまうことになります。それよりもより美しい自己実現の構図を念頭に、日頃から自分自身に対して問いかけや問題を提起し、とことん自分の頭で考える習慣を付け、自らの仮説を持つことを実行するようにお願いします。

これが自分を知るということなのです。自分自身は何者なのかの仮説を持たずに、高度情報化された世界を泳ぎ回ることほど無駄の多いことはないのです。昔のことわざにもある'己を知り、敵を知らば、百戦危うからず'の言い伝えは今後も生き続けることは間違いありません。重要な情報は原典を調べてください。それが英語ならば、可能な限り原文を読んで下さい。翻訳では真意が伝わらないことがかなりあります。

自然とのふれあいなどで自らの審美眼や豊かな『感性』を伸ばすと共に、異文化の『悟性と理性』の長所に学びましょう。全ての目的は『より美しい自己実現』にあることを肝に銘じて人生を楽しんでください。

2007/01/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会