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美しい国、日本を目指す⇒「美しい」とは何か? -2-

1]印刷物の感性評価

・・・・・長い印刷の歴史の中で変わることなく中心課題であり続ける「印刷物の評価・感性評価」について述べてみたいと思います。

21世紀に生きる私たちは生活する上での必要なものは殆ど確保し、次への対象を見極める価値観は多様化しています。このような社会環境では「感性」と呼ばれる様々な要素が重要になってきます。これからは色彩や音など人間の五感(視・聴・嗅・味・触)に関わる領域、さらにはライフスタイルや価値観など、人々の感性領域をうまく捉えることが市場競争力になると思われます。

15世紀半ばに発行されたかの有名なグーテンベルク「42行聖書」を見ますと、活字印刷の本文にイニシャルや朱書きの彩飾が施されていて、実に個性豊かな作品になっているのに驚かされます。これはグーテンベルクの時代から『印刷物は発信された情報を受け手に心地好く伝えることが使命である』との考えに基づいて作られたからでしょう。印刷業は誕生した当初から情報発信者である顧客の意図を的確に捉え、受信者が好ましいと感じる「美しい」印刷物を作ることを生業としてきました。・・・・

ところが印刷物全体の評価に用いられる「美しさ」を物理量で表すことは出来ません。したがって現在でも大多数の印刷物は見る人の感性の判断に任されているのです。すなわち、印刷の総合評価が感性的表現による情緒的把握のレベルでなされているのであります。

印刷物の総合評価に使われた言葉を例示してみましょう。

  • 色がなじんでいる
  • 滑らである
  • しっとりしている
  • メリハリがきいている
  • 力強い
  • 重厚感がある
  • 透明感がある
  • 冴えてる
  • くすんでる
  • 質感がある
  • シズル感がある
  • 品格がある
(凸版印刷・小嶋、渡辺共著・文化面から見た印刷表現技術より)

一方、印刷物は製造工程を経て作られる工業製品です。主観で左右される言語で工程を管理するわけには参りません。そこで印刷物の評価をもう少し物理量に置き換えやすい表現が使われますが、それを例示してみましょう。

  • ハイライトの再現が不足している
  • シャドウ寄りのトーンの分離が良くない
  • むらがある
  • グレイバランスが良い
  • シャープである
  • 肌色のバランスが揃っている
  • モワレが目立つ

このような評価言語であれば、印刷された画像属性との結びつきがある程度解明されているので、かなりの確率で製造工程へのフィードバックが可能になっています。・・・・・

印刷業は「美しさ」という「感性」を基調に時代を超えて発展してきました。今後は紙メディアに留まらずクロスメディアをビジネスの対象に組み入れることになりますが、そこでも「感性」を的確に取り扱えれば、有利にビジネスを展開できるでしょう。印刷業はその歴史からみて「感性」を扱う点にかけては他産業より強い競争力を持っているのではないでしょうか。

[美しい印刷]をキーワードとした検索データ21,000の中で件数が多かったのは、印刷企業のホームページと印刷機材サプライヤーのホームページ情報でした。例えば印刷企業では、弊社は豊かな知恵と鋭い感性、厳しい審美眼を併せ持って、常に「美しい印刷」でお客様にご満足いただける・・・・、と言ったPRが多く見られました。このことは前述した当協会島袋副会長の意見を実際に裏付けるデータだと思います。

次に筆者が注目したサイトと情報は、朝日新聞社広告局『美しいカラー新聞広告のための朝日新聞印刷ガイドブック』(PDF版18ページ)で、独特の印刷技術を持つ新聞メディアにあって、美しい画像表現を実現するための注意事項が平易に解説されていたことです。

2]新聞カラー印刷はどこまで美しくなるか?

商業印刷では意図した色が再現できない場合、納期の範囲内で紙の厚さやインキなどを変えることができます。しかし新聞印刷の場合は、時間上の厳しい制約と安定した大量印刷体制の確保のため、紙やインキの変更はできません。さまざまな制約の中で、できるだけ美しい印刷を目指すのが新聞印刷の特徴です。

特殊要因の一つとして新聞オフセット輪転印刷機では、

印刷方向が縦方向であること、色調整は4色×8分割であり、調整によってその場所の上下も同じ濃度バランスで調整されます。

また、新聞網点印刷のドッドゲインの特徴として、

中間調(30〜60%の網点)で顕著な傾向があり、15〜30%の割合で太ります。そして新聞印刷では80%を超えた網点はベタとの識別が難しくなります。・・・・従って10%程度の間隔を持ったステップを指定することで、階調が綺麗に表現でき、美しい印刷となります。

さらに、

新聞用紙のような表面のザラついた比較的インキを吸いやすい紙では、スクリーン線数をむやみに上げすぎると暗部の画像がつぶれるおそれがあります。朝日新聞社では、数々の印刷テストを重ね、通常のスクリーンでは100線以下が現在の朝日新聞の印刷に最適で美しい印刷を実現すると判断しております。

などと解説されていました。

新聞のカラー印刷画質は、10年前に比較すると格段に良くなっているように筆者は感じていますが、一般のカラー印刷画質より見劣りするのも事実だと思います。しかし必要は進歩の母です。社会が望むならば、科学と工学技術と経済の結びつきによって、日々改善され進歩し続けていくことになるでしょう。善し悪しは別にして、これが現代文化の大きな特徴の一つです。

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2006/12/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会