本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

2006年最後の肌色談義

理想の肌色は湯上りピンク

日本の印刷業界で言われている理想の肌色は、旧くから「湯上りピンク」と呼ばれていた。抽象的ではあるが、なんとなく湯上りの浴衣姿の美人を連想させ個人的には納得している(好きなだけ??)。色っぽい和服姿を撮影する場合は、少々お酒をたしなんだ後に撮影に入るというエピソードは、ピンク肌に対する日本人の嗜好性を示すものである。
YMCKの網%で示すとY25~30%M15~22%C2~7%Bk0%というイメージだろうか?ここでBkが入ると墨っぽくなってしまうし、C×M=30度モアレとM×Bk=30度モアレで出来る二次モアレであるロゼッタが問題になるので、肌に墨とシアンが入るのはご法度になっている。いわゆる影の部分に亀の甲模様のザラツキが出てしまうのである。

CMYK的な理想肌

 日本人の嗜好がピンク肌ならYMの網%が同じでも良いではないか?と思われるかもしれないが、あくまで基本はY>Mを守らなくてはいけない。これは色の絶対値というより印刷が暴れた場合の安全係数と考えるべきものだ。インキを盛れば盛るほど、つまりインキ皮膜圧が厚くなればなるほど、グレーバランスのYMとCの差は開いてくる。ということは「インキを盛れば盛るほど赤が浮いてくる」ということなのだ。このこともあって印刷でいわれてきた理想の肌バランスというのは決められてきた。
 つい先日もある有名な写真家の方と話して「自然色」ということについて議論した。その写真家の方曰く「フィルムは自然色だが、デジタルの色は人工的だ」ということらしい。私の知る限り、ネガカラーもリバーサルフィルムもメーカーの開発コンセプトの強弱は合っても「色を忠実に出す」なんていうことはしていなかったはずである。ある会社などは「肌色再現」を相当PRしていたのを記憶されている方もいらっしゃると思う。

デジカメはデジタルレンズ付フィルム

デジタルカメラだって、色演出エンジンの性格によって色再現は大きく異なってくる。最近の高級機は色再現モードを数種類持っているので、「肌色モード(ポートレートモード)」などという名前に合わせると、キレイな肌色に再現されたりするものも多くなっている。注意しなくてはいけないのは、肌色が忠実に再現されるわけではなくレタッチされるということである。「湯上りピンクモード」とでも名前を付けてもらえば分かり易いと思うのだが、「料理写真には風景モードが最適?」などということが、TIPS(ノウハウ)としてまかり通っているのである。
しかし、色相環というチャートを撮影したものをCIExy色度図上で分布させるとデジタルカメラの色造りがよく分かる。次に掲載するものは日本を代表する二社のデジカメだが、一つは演色性の強いもので他方は演色性の弱いものだ。後者を測色的な色造りと呼ぶが、グラフも掲載しておく。
図1:演色的グラフ

図2:測色的グラフ


測色的図版

 CIExy色度図上で放射線状に伸びていれば「測色的」で、複雑に交差していれば「演色的」ということになる。その複雑に交差している場所が色度図で右下部分なら暖色系部分、つまり肌色をレタッチしていることになる。演色的なデジカメで撮影した色黒と色白がペアになった女性漫才師の写真を見たことがあるが、二人とも同じ肌色で湯上りピンクっぽい感じに仕上がっていた。この肌色を善しとするか?しないか?は判断する方の嗜好に任せよう。しかし印刷サイドで演色性の強い写真データを製版でさらに加工する場合には「トーンジャンプや反転というトラブルにつながるケースが多くなる」ので注意を要する。

広色域印刷での肌色は

 またデジカメ時代にハイエンドカラースキャナに代わるRGB(=銀塩フィルム)データをCMYK変換(スキャナ)するものが、色変換エンジンであるCMMである。そしてその基本マスキング回路がICCプロファイルに当たる。この二つを印刷人は認識しておく必要がある。先日も印刷界をリードする方たちと広色域印刷について議論した。私からは広色域印刷の品質を評価する場合、「インキの評価以前に、分版したときの品質の問題の方が大きい。つまりプロファイルがポイントである」という意見を発言した。
Hexachromeの場合、Pantone社で提供されているICCプロファイルは濃いバター味で、どうも醤油味に慣れている我々には馴染まなかった。このままではHexachromeにトライして、これから広色域印刷をPRしていこうとするのに問題になることから、コンソーシアムで醤油味のICCプロファイルを作成してコンソーシアム内でそれを使用することとしたのである。 醤油味のポイントとして代表的なものに肌色がある。つまり肌色をYMで出すか?YO(イエローとオレンジ)で出すか?はたまたYMO(ミュージシャンではない)で出すか?ということだ。これは技術的には難しく、色のつながりが悪くなってトーンジャンプや反転の原因になってしまう。そこで醤油味のプロファイルでは肌色にO(オレンジ)が入らないようにチューニングしてある。多色印刷の場合このような問題は常について回るものである。多色インキジェットの場合も、八色などと言ってはいるが、実際には薄マゼンタだったり薄シアンだったりする場合がほとんどである。

このように肌色について現場的な問題を語っていけば時間が尽きないが、JAGATではそれを科学的に、工学的に、医学的に、化学的に突き詰めていく フォーラムを2007年1月24日に予定している。お時間があれば是非参加いただきたい。


[関連情報] →2007年1月24日(水)肌色シンポジウム

2006/12/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会