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「標準」の意味とその活用−改善の起点は標準設定−

デザイン部門の原価把握事例

売上、収益性低下が続く印刷業界では、詳細に原価を把握し管理に活かしていこうと考える企業は増えてきている。しかし、原価把握自体の問題、特にプリプレス部門やデザイン部門の原価把握はどの会社にとっても悩みの種である。しかし、そのような問題は、ネットワークの普及と各種アプリケーションの開発によって解消されつつある。 原価把握が不可能といわれるデザイン部門において、実績データに基づいた原価把握、マネージメントを実践している企業、あるいは緻密な原価計算による利益把握とそれに基づく対策によって適性利益を維持している企業もある。
2007年1月24日開催予定のセミナー「緻密な経営実践のためのデータ活用事例」ではそのような事例を紹介する

PDCAに欠かせない「標準」

同セミナーで紹介する事例の特長は、原価の把握手法自体とともに、改善へのフィードバックである。管理の細部は、経営者の考え方によって各社異なる点がいろいろあるだろうが、共通項としては「標準」が重要な役割を果たすということである。
管理の基本がPDCAであることは、企業人なら誰でもが知っていることだろう。管理の目的は改善でありそのためにPDCAサイクルを回す、といわれる。まず計画(Plan)を作って、その達成を目指して実行し(Do)、その結果を点検して(Check)、さらなる改善策を施す(Action)。

ここで、管理の対象がたとえば生産性ならば、「計画」とは「目標値」になるはずである。単に「生産性を向上させる」というだけでは計画とはいえない。例えば「10%アップする」あるいは「現在の準備作業時間を30分から20分に短縮する」というのが計画である。そして、ある期間の実績データをとって、その結果として「5%アップした」あるいは「準備作業時間が8分短縮できた」といった事実を把握し、計画、つまり目標値と対比することになる。この「目標」は「標準」とも言い換えることができる。例えば、「現在の準備作業時間を30分から20分にまで短縮する」は、より正確に表現するならば「現在の『標準』準備作業時間30分を20分に短縮する」となる。そして、この場合に目標と対比される実績値は「平均値」である。

軽視されてきた標準とその理由

しかし、印刷業界では「標準」というものが軽視、あるいは無視されることが多い。印刷物は1点1点製品仕様が違うから「標準などはありえない」、したがって、「『社内仕切り価格』(生産現場が営業に売り渡す標準価格)など不正確で意味が無い」、「標準工数などは使えない」という言い方が出てくる。
もしそうなら、営業マンが見積もりをするとき、あるいは請求金額を算出するときに、一点一点の仕事に対して算出した原価をもとに計算するのだろうか? 実際にはそのようなことはできないから、ある製品仕様ごとに設定した単価に基づく料金表を作って、それを使っているはずである。
それでは、その単価は何なのだろうか?どのように単価を設定したかということではなく、それが持つ性格のことだが、それは間違いなく「標準」あるいは「目標」である。

「標準工数(標準時間)など無い」というのならば、工務担当者が日程計画を立てるとき、各仕事の予定時間はどのように設定するのだろうか?サイコロを振って決めている会社があるわけないし、何の根拠もなく担当者がひねり出したものでもない。その根拠は別にして、当然のことながら担当者の頭の中に仕舞い込まれているデータを使っているはずである。担当者の頭の中では製品仕様がいろいろに分類されて、それぞれの括りごとに設定された時間、つまり「標準時間」があり、それを使っている。

以上のような実態にもかかわらず、「標準」という言葉を聴いた途端に拒否反応を示す業界人は多い。当然のことながら、それにはそれなりの理由はある。
「標準時間」についてみると、作業者の技能依存が高かったために、同じ仕様の製品でも作業者によって掛かる時間がかなり違っていたという状況が長く続いていた。しかし、最近の自動化が進んだ生産機械ではそのような差は非常に少なくなっている。ただし、プリプレス工程の中で標準作業が設定できない部分については、従来と同じ悩みはある。
標準が重視されなかったもう一つの理由として、大きなバッファの存在がある。例えば、印刷の工程日程として2日をとるといったように、各仕事の工程日程をあらかじめ設定しておいてその枠に入れることである。価格面で見れば、全体としての収益性が高かったから標準原価云々と言わなくても利益は十分に確保できた。つまり、ラフな運用が問題として表面化しにくかったということである。
また、「標準」を決めるために必要なデータ収集・分析にかなりの労力を要したことも大きな理由である。
以上を一言でいえば、標準データを使うことの費用対効果にメリットが感じられなかったということである。それはそれで理解できることである。

いまこそ「標準」を管理に活用しよう

しかし、いまは生産設備の自動化が進み、パソコンとネットワークも安価に使えるようになって「標準」を有効に利用できる場面が大きく広がった。JDFは少ない労力で精度の高い実績データ把握を可能にし、標準と実績との対比、さらに標準の設定を容易にする。
その一方で、供給力過剰の中で価格が低下、それにつれて収益性が年々低下し、収益性を確保するためには緻密な管理が不可欠になってきた。
そこで、「標準仕様」、「標準手順」「標準工数」、「標準価格」という4つの標準を使ったシミュレーション・ソフトを使うことによって、日常管理のかなりの部分の精度を上げつつ業務軽減ができる、というのがJAGAT提唱の「標準手順を軸としたMIS」である(図)。(「標準手順を軸としたMIS」については、(「標準資料が不可欠になる理由」を参照下さい)


管理リサイクルにおける改善とは?

部門別原価データを下に標準価格を設定、実績データと付け合せて商品別、得意先別、さらに営業マン別など、より細かな単位で、「利益」を管理することができる。標準価格を社内仕切価格として設定、運用すれば営業と生産各部の利益を管理することができる。 標準価格を設定する基礎になるのが「標準仕様(項目)」ごとに設定された「標準手順」(どのような工程、設備で生産するのか)、「標準工数」(どれだけの時間がかかるのか)だが、それらの標準を使って生産計画や見積もりの「シミュレーション」を自動化することもできる。

業界では「標準」が軽視される一方で一つひとつについてかなり神経質な面がある。例えば、1点ごとの売価と事後原価がどうだったか、つまり1点ごとの粗利がどれだけだったかに拘るということだが、その結果はどのように使うのだろうか?
この場合、対比するデータはいずれも「実際」であるから、いろいろな理由で普通でないことが起こる。そのような中で粗利が少ない仕事があってその理由もわかったとき、どのような形で日常に反映させるのだろうか? 
ある請求項目への請求が抜けていたとか、生産現場でやり直しがあったという場合ならわかりやすいが、原価が高すぎた、あるいは請求金額が低すぎたといった場合はどのようにするのだろうか? 生産担当者あるいは担当の営業にそれを示すことで何らかの意識をさせることはできる。しかし、仕組みとして日常運用の中で活かすことは、1点1点の集積の中から明らかな傾向を捉えてその分析結果を「標準」に反映させない限りできないはずだ。
管理の目的である改善をPDCAによって行なうとき、Pにあたる「目標」を順次高めて改善を継続していくことが管理の「サイクルを回す」ということである。

2007/01/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会