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未来から逆算すると突破口がみつかる

このサイトは技術革新とか、それに伴うメディアビジネスの変化を考えることがテーマである。1980年頃から、脱工業社会、第三の波、高度情報化社会、が叫ばれ、ニューメディア云々が取り沙汰されて、メディアビジネスの大変化と可能性が常に語られるようになったからである。今日では印刷産業を構成する上位の会社は何らかのデジタルメディア制作に関する業務を行うようになった。ところが制作の立場から変化の先にどのような未来があるのか見通すことは難しいといわれた。本当にそうだろうか?

デジタルメディアが「パイロットシステム」であった時代は、運転免許を取る勉強のようなつもりでデジタルメディアに取り組んでいれば済んだが、今はインターネットもケイタイも十分に普及して、勉強の目標もビジネスとしての将来性まで含んだものである必要がある。例えばAppleの Steve Jobs は、「パソコンで、あれも、これも…できるぞ」というビジネスから脱皮して、iPod, iPhone, iTVなど情報端末のビジネスにシフトしてきた。パソコンはあくまで手段であって、人はそれで何をしたいのか、というところからAppleは戦略を建て直したのだろう。

他のパソコン屋さんはなかなかそうはいかないが、SGIは、例えばビジュアライゼーションとか以前ワークステーションの用途であったところに特化するなど、「何でもできるハード」から「ソリューション」にビジネスをシフトしてきたメーカーもある。これらはどういうことなのか? まだ他社があまり手がけていない先端技術をビジネスの武器にできる期間は非常に限られているということだ。それを応用して社会に役立てることの方が定着したビジネスになる。極度に技術依存したビジネスは長続きできず、世の中の情報技術の障壁が少なくなってくるにしたがって、「サービス」提供に経営の軸足を置き換えなければならない。

紙メディアに軸足のある人には、例えすでにデジタルメディアのビジネスを始めていても、クロスメディアはまだ未熟な分野とか、冒険的、先端的なビジネスでリスクが多い、技術がこなれるのをまだ待った方がよい、などと考える傾向もあるが、これらは技術依存の裏返しで、技術から遠い自分の立場や自分の能力という自分の視点から見ていることをあらわしている。しかしサービス提供という点ではIT業界よりもずっとビジネス経験が深いはずなので、その姿勢でクロスメディアも考えた方がよい。

つまりクロスメディアが当たり前になった時に、どんなサービスをする業者がどれくらいのビジネスをしてるだろうかと考えるのである。その状況の中に自分を位置づけて、そこから逆算して今の取り組むべき課題を考えてみよう。すでにメディアをクロスして使うことはいろいろな分野で行われているが、まだこなれたものにはなっておらず、似たような作業を繰り返し行うとか、従来のアナログのワークフローを踏襲しているとか、いろいろな課題があって、クライアントからみると販促は多様化したいがコストが見合わない、あるいは制作側からすると利益が出ないことにつながっている。

デジタルメディアが使いやすくなればクライアントが使うようになるのは当然で、印刷物の保存もPDFに切り替えるところがあるほどである。クライアント側から紙オンリーを求められることはどんどん減っていき、今から5年経てば、「そんな時代もあったな」と思うほど、過去とは異なった行動形態を身に着けているかもしれない。10年前の名刺にはメアドのない人もいた。何年か前には、誰かと会うのにmailでアポイントをとるのは失礼だといわれることもあった。そのようなメディア利用の習慣は、メディアのインフラが変われば変わってしまうものである。

しかしその奥に変わらないものもある。例えば販促をしたいというメディアの利用目的である。クロスメディアは何も先端技術の話や根拠の薄いビジネスの話をしているのではない。今のクライアントの動向から察して、近未来に当然そうなって当たり前のことに対応できるように2〜3年先の状況を想定して、一旦そこに自分を置いて考えてみると、今のデジタルメディアによっても現状の問題を突破できる糸口が見つかるようになるのではないだろうか。

2月7日から始まるPAGE2007コンファレンスでは、デジタルメディアトラックで、これから2〜3年の重要な変化の要因ごとにセッションを設けて、それぞれの分野で先端的な活躍をしておられる方々がプレゼン・ディスカッションをします。未来から逆算する目で各自のビジネスを考える絶好の機会です。

2007/01/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会