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まさしくメディア2.0(紙メディア2.0、印刷2.0)

Web2.0に代表されるように何かに2.0を付けるのが大流行しているようだが、Page2007のテーマであるメディアはWeb2.0に最も影響される分野であり、まさしくメディア2.0(紙メディア2.0、印刷2.0)というものである。そんな環境下での基調講演トラック2セッションを紹介する。

■A1) 脱三原色 分光的色再現技術の可能性

日程:2月7日(水) 13:00-15:00
モデレーター:日本印刷技術協会 郡司秀明
スピーカー:千葉大学 羽石秀昭助教授
株式会社NTTデータ 橋本勝氏


基調講演トラック最初のセッションだが、脱三原色というと色の勉強を一生懸命された方ほど何のことかと不思議に思われるかもしれない。日本人は世界的に見ても、信心深いとはいえないまでも無宗教というほどでもない。よく言われるように結婚式は神道かキリスト教、葬式は仏教という具合に実にフレキシブルであるし、歴史的にも八百万の神々を自然に受け入れてきたのである。ところが色再現となると、とたんに頑固になり十字軍とイスラムのように唯一絶対の拠り所を守ろうとするようである。印刷関係者はCMYKを、写真関係者はRGBをというように、それぞれを一神教として排他的に信じている。

このような原理主義ではなく、科学的な思想を持ったCIE(色の基準を決めている世界的な権威である国際照明委員会)的なカラーマネージメントであるICCの会員や理解者であっても、三原色的な考え方が唯一絶対という色世界観を持っている。

しかし、よくよく考えてみると同じ五感の中でも聴覚と色覚(視覚)では根本的に異なるのだ。音の場合は耳がセンサーになり、音波という波形を頭で認識し、ギターの音色の波形と三味線の波形を区別している。しかし色の場合は錐体というRGBセンサーが三原色の刺激値として認識し色を判断しているのだ。つまり色も光波という波のスペクトル分布(波形)で区別されるべきなのに、人間の色覚メカニズムをモデル化して、その色再現モデルに合ったように色を再現・複製しているのがCIE的な色再現モデルだ。これはニュートン先生以来、ずっと人類が信じて疑わなかったことなのだが、三原色といっても人間にとって三原色なのであって、人間以外の動物では違って当たり前なのだ。例えば犬はRGの二原色という具合だ。

例えば、色の異なる二種類の猫の縫いぐるみを賢い犬に見せて、一つはワンと一回、他方の色の縫いぐるみはワンワンと二回吠えるように仕込んだとしよう。そして、二つの縫いぐるみを撮影・カラー印刷して、その印刷物で同じことをやったとする。いくら賢い犬でも「ワン」「ワンワン」と区別するのは難しいのだ。もともと犬の色覚が優れていないということもあるが、カラー印刷は人間用の三原色モデルの上に成り立っているもので、二原色の色覚を持つ犬にとってはCMYカラー印刷の判別自体に無理があるのだ。このようにCIE的な色再現というのはインチキとまでは言わないが、映画やテレビと同じような人間用のトリックを利用したものだ。ちなみに映画は残像を利用したものだが、優れた動体視力を持つスーパーマンだったら、ただの分解写真(旧くて申し訳ないが、コマ送りの静止画)にしか見えないはずだ。

人間にも個体差があるし、三原色そのものがトリックなので、色に関した問題というのは尽きないのが実態だ。それではトリックを使うから色の問題が無くならないなら、トリックではなく色を波形のまま、分光スペクトルのまま記述し、再現してやれば問題ないという発想で考えられた色再現方法が「ナチュラルビジョン」である。ナチュラルビジョンはこれまでの三原色的色再現で問題となる医療・デザイン・工業分野での問題解決を目的として設立されたTAO傘下の研究プロジェクト名である。本セッションではこのナチュラルビジョンを紹介することで、分光的な色再現をモニターやプリントへの応用を考えていきたい。CMYKやRGB論議から離れ、根源から色を考え直すことにより、これまで以上に色再現についての見識が高まり、色再現2.0時代に備えることが出来ると信じるものである。

■A2) CGが変える写真の世界

日程:2月7日(水) 16:00-18:00
モデレーター:日本印刷技術協会 郡司秀明
スピーカー:株式会社アマナ 進藤博信社長
株式会社キャドセンター 山形康弘事業部長


DTPが当たり前になったが、そのDTP・デジタルを推進してきたリーダー達の中にも「デジタルカメラのDTPへの普及」、いや「銀塩写真の衰退」がこれほど早いと断言した者はいない。その背景には納期短縮やコストダウン、クロスメディア環境(ワンソースマルチユース)という経済原則が大きく働くのはいうまでもないことだ。したがっていくら「デジタルカメラの品質は好かん」といっても経済原則には打ち勝てる訳もなく元には戻れないのだ。 そして広告の目的が商品の特徴(特長)をアピールするものなら、もはや銀塩がデジタルカメラにかなうはずはないくらいに、デジタルカメラの品質は高くなってしまった。しかし、高級ブランド腕時計、それもデザイナーブランドを想像していただきたい。そういう時計の金色はCMYKをレタッチしたくらいで表現するのは難しい。つまりブランドによって金色の光り輝き方が違うのだ。広告担当のグラフィックデザイナーではなく、腕時計のデザイナーには「このヒカリ方がポイント」というものが明確にあるはずだ。そのヒカリ方を印刷物上に表現するには、最高級デジタルカメラとレンズ、ライティングを使用して撮影し、日本で一番腕の良いレタッチが画像演出しても及第点をもらえるまでには相当の工数を要するだろう。むしろ撮影なしに腕時計デザイナーのポイント(こだわり)をCG(コンピュータグラフィックス)技術で一から造り上げた方が簡単だ。

Photoshopは素材の質感を強調させたり、弱めたりとコントロールするものだが、CGは質感そのものをゼロから作り出すものなのだ。少々オーバーかもしれないがCGは「本物より本物らしく仕上げる技術」なのだ。もちろんコストやその自由度を考えれば、テレビCM、ハリウッド映画を見ればCGのメリットは疑うべくもないだろう。工業製品のようにCADデータがすでにあるものを3DCG化することは、コンテンツビジネスの理想であるワンソースマルチユース以外のナニモノでもないのだ。現実を見ていただければ、自動車・清涼飲料水のCMのほとんどはすでにCG製だし、ハリウッドではスタントマンやマッド画(肉筆による古代エジプトなどの背景)はなくなりつつある。(香港・インドは?)

このように広告宣伝業、メディア作成ビジネスに携わるためにはCG技術は避けて通れないものなのだ。本セッションでは「貸しポジ業」からスタートして、総合的な画像コンテンツ業に成長した株式会社アマナ、建築関係のCG制作から広く事業展開している株式会社キャドセンターを招いて、CGを取巻く昨日・今日・明日について語り、コンテンツ2.0を占う。画像を主たるビジネスとしている方には必見である。

2007/01/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会