本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

印刷モノ作り2倍-1/2変革のススメ

印刷業は成熟化した産業であるため、ビジネスのコアである生産設備としてどこも似たような設備を持っています。得意先からの発注では作り直した方が早いようなデジタル原稿も受け取らなくてはならないし、受注後もいろいろな変更に対応し、工場はクレームによる再刷の割り込み作業をなんとかこなして、やっと納品するという作業を繰り返しています。

このような環境で差別化するための社内の仕組みが「印刷CIM」です。印刷物というモノ作りを工業的に進めるためのデジタルネットワークであり、取り組みの内容は「MIS再構築」、「MISと生産設備との連携」、「外部組織との連携」、「組織、役割分担の変更」などで、ITで間接業務を大改革して競争力を強化する仕組みということもできます。

○「下版が追い付かない!」
新しくワンパス型の印刷機を導入して、1時間4〜5ジョブを生産している印刷会社の現場から聞こえてくるようになった悲鳴です。最新鋭の枚葉オフセット印刷機は段取り替えの効率化が進んでいて、コロやハケをなくして紙サイズや紙厚をキー入力して横針調整するだけでフィーダー・デリバリ調整が完了する機構、ローラ上のインキ量を平らに減らしてからJDFなどでインキキープリセットすることで早いインキの立ち上がりと損紙を削減する機構、さらに色彩管理装置も一般化して早い刷り出しを実現しています。

ある印刷会社の現場では、CTPと両面8色機で台数物を印刷するのであれば、刷り出しと校了紙との色調確認を含めても約15分で段取り替えを終えて本刷りに入っています。数年前の同クラスの印刷機に比べ、同じ時間で1.5倍以上の印刷ジョブがこなせ、片面機の2倍以上の生産性が得られています。

○旧態依然の「必要以上の人と機械を揃える」体制
印刷機に限らず、最新鋭の設備で差別化しようとしたときのボトルネックの一つが間接業務であることに改めて気付かされます。プリプレス工程でも、直接作業以外に、ファイルを探したり集めたり、指示情報の確認問合せ作業など、多くの煩雑な間接業務を行っています。デジタル印刷による小ロット対応では、間接業務のコストはさらにシビアな算定が求められます。特に差がつくのは見積、受注・校正、工程管理、業務など、旧態依然の業務形態です。

←全体像は図をクリック

しかし間接業務に、これ以上コストの高い人件費を投入し続けても課題解決にはなりません。もっと根本的な業務改革にまで踏み込む「印刷CIM化」への取り組みが必要です。フルデジタル化による一貫した仕組みで業務改革に取り組まないと、相変わらず営業マンは見積もりを持参して、校正を持参して、変更が起こると得意先発注元や工場と電話連絡して、工務や現場は用紙など資材や機械や外注先に変更を手配してなど、全て人が走り回って対処することになります。結局は、最小コストで生産できたか、最短納期であったかなどは不明のまま、いつも必要以上の人と機械を揃えて対応する古い体質から脱皮できません。

○印刷CIMによる間接業務の効率化は大きな差別化
印刷生産という類似のビジネスの中で差別化するには「他社よりも早く正確に注文を得て、関連部署と情報を共有し、速やかに校正をやり取りし、変更に少しでも早く対応できる」、「生産コストと工程納期が最小化するルートを選択する」という当たり前の業務をデジタルネットワークと標準化(社内ルール化)でスピードアップと精度向上を図り、情報不備に起因するミスロスの最少化を実現する工場管理のデジタル化、すなわち印刷CIM化の重要な視点です。

○生産性2倍の新鋭機導入で間接人員も2倍にするの?(試算)
下表で簡単な試算をします。既存印刷機・before印刷機1 台を、生産性が2 倍の最新鋭機・after印刷機に置き換えると間接業務がどのように増えるのかの試算です。印刷機は1日10 時間100%稼動させて1 種類の印刷物を、同じ部数だけ、DTP 制作から印刷まで一貫受注する。このために必要な間接業務(見積り・受注・工務・業務)の工数(人数)を、新旧2タイプの印刷機で比べるというものです。結果は旧タイプ機では年間1,250 件生産可能で間接人員10.4 人、新鋭機では2,500 件で間接業務に21 人が必要という計算になりました(オペレータなど直接時間は除く)。

←全体像は表をクリック

【試算の内容】(細目は次ページの表を参照)
・試算の印刷物として、DTP制作から印刷・製本までの一貫受注で、「A4判表裏4色、32ページ冊子、4,000部(菊全判8ページ・表裏16ページ、2折り)」という同じ仕様の印刷物を想定し、既設の菊全4/0機【before機】と最新鋭の菊全8P機【after機】での生産に必要な、間接業務の工数(人員数)を計算。

・【before機】(菊全4/0 16,000sph、色彩管理装置なし)は段取り替え30分、本刷り30分(4,000枚)の計1時間で16ページ1折り(両面)が生産できる。受注1件は32ページ物なので2折り分、1日10時間稼働で10折り、5本の受注がこなせる。1年250日稼働として、1,250本(2,500折り)の受注。全て新版なのでDTP制作は40,000ページである。間接業務の見積もり・受注・校正のやり取りや工程管理、変更対応などを各々1,250本分行うので、10.4人の間接人員(営業・工務・業務など)を投入していることになる。

・【after機】(菊全8Pまたは4/4 16,000sph、色彩管理装置などフル装備)に入れ替える。段取り替え15分、本刷り15分(4,000枚)の計30分間で16ページ1折り(両面)が生産でき、1日10時間稼働で20折り、受注10本分と2倍の受注量がこなせる。1年250日稼働として、2,500本(5,000折り)の受注を生産でき、DTP制作は80,000ページ分が必要となる。間接業務は2倍 の2,500本となり、21人の間接人員(営業・工務・業務など)が必要となる。

○印刷CIM化に向かう
試算のケースで、間接人数を当初の10.4人から大きく変えない対策が印刷CIM化です(上表、右端の項目)。印刷モノ作くりの効率を2倍に、工数を1/2にするような変革を実現できるのが、印刷CIM(標準+MIS+デジタルネットワーク+自動化機器)への取り組みということになります(下図)。標準には業界標準のJDFやPDF/Xなどと、社内の標準工数や標準手順などがあります。
MIS/JDFによる工程情報のリアルタイムな共有化、PDF/JDFによるリモートプルーフ化や面付けワークフローの自動化、購買や外注とのEC/EDI連携など、間接業務をデジタルネットワークで連携します。管理システムと生産システムの連係(MIS/JDF連携)により速やかなジョブの進捗や設備の負荷状況の把握、変更済み指示の作業直前での配布ができ、受注するかどうかを工程ごとに納期やコストなどを瞬時にシミュレーションして正確に判断できます。
DTP工程についても制作するページ数が、beforeの40,000ページから、afterでは80,000ページと2倍になるので、間接作業を削減するためにJDFと連携した効果的なサーバー管理が必要となります。
印刷CIM化に取り組む意味はここにあります。ただし、組織や役割分担の変更など業務改革を伴なうのでベンダーに頼るだけでなく、積極的に取り組む社内リーダーの存在が成否を制します。

←全体像は図をクリック

                *         *         *

PAGE2007に出展されているJDFとは印刷関連のメーカー互換のシンボルであり、IT接続するときの共通フォーマットを表しています。 自社でどのように印刷CIMというITによる業務改革をどう実現していくのか、PAGE2007展示会場のMIS/JDF ZONEで無料配布される小冊子「JDFガイド」を参考に、会場内ではぜひとも実際の機器やシステムをご確認ください。

PAGE2007展示会 MIS/JDF ZONE
展示会場では「JDF」ロゴで示したMIS/JDF Zoneは、印刷CIMに向かうためのさまざま製品がご覧いただけます。

PAGE2007コンファレンス・MIS/JDFトラック(E-1、E-2、E-3):2月8日(木)
「MISのJDF対応の道筋」、「受発注におけるJDF利用の可能性」、「JDFの規格動向と実装」の3テーマで印刷CIM化に迫ります。

PAGE2007コンファレンス・MIS/JDFトラック(E-4、E-5、E-6):2月9日(金)
「WebToPrint/デジタル印刷とCIM」、「JDF利用に向かうユーザ」、「印刷FAの行方」の3テーマで印刷CIM化に迫ります。

【関連ページ】 MIS関連情報のページ

【関連記事】 MISとは何をするものか?


【参考記事】 (プリンターズサークル2007年2月号−2/10発行−記事の抜粋)

ドイツの経営環境も厳しいが、JDFを生産の自動化などに活用

2006年10月にドイツの印刷会社、7社を訪問する機会を得た。規模は70人〜200人で平均125人である。
どこの経営者も日本に比べて非常な危機感をもって会社を経営していることが第一印象である。
ミュンヘンの印刷経営者は、「印刷会社数は3年前の4分の3に減少しており、数年後には半減するのではないか」と語る。また、「この地域の技術者は時給20〜30ユーロであるが、車で2時間半のチェコに行くとその10分1、3ユーロで工場が動いている」と言う。
ドイツでは16%であった付加価値税は、2007年から19%に上がってしまうという状況がある。

○生産の自動化とJDFの利用
生産工程についても、社内で手間を掛けないためにJDFによる自動化に力点を置いている。「JDFワークフローによる効率化なしには、人件費の高いドイツの印刷会社は生きていけない」(Color Offset社)、「入稿PDFのメタデータ(JDF)により55%の面付け作業は自動化している、JDFの実装は2年掛けて終わった」(Sommer社)、「刷版部門のIT化で人員28人(4年前)〜6人(現在)になった」(biering社)、Web入稿のデータがいまだ多岐にわたるので、そのままJDFに落とし込むところまでいってないが、「とにかく手間は掛けたくないので自動化」したい。オフセット印刷とデジタル印刷との振り分けは、「Web入稿→一部手入力してJDFへ→自動的に振り分け」ということで行っており、用紙はEC発注しているので印刷の2〜3時間前に配送されるようになっている(MPS社)。

JDFの効果は人員を削減して仕事を増やせることで、「CTP部門では人員は6人のまま、以前の月間1万5000版から現在では2万5000版を出力」している。JDFなしに印刷会社は生きていけない(ColorOffset社)など実用の域である。 顧客ごとに3人チーム(営業2人+工務1人)が8チームある。ここでJobチケットを作ってしまう。このチームは50〜80件ほどの顧客をもち、常時は10件ほどの仕事が流れている。チームで「顧客からの引き合い→見積り提出→確認→入稿」をすべて行う(biering社)。

○IT専門は別会社
ABT社はAktivComm、Kuthal社はEMSなど、IT専門の別会社をもつところ、または別部門にしているところが多く、ITの役割分担を明確化していた。そしてノウハウに投資している(MSP社)、大学とも提携している(ABT社)など、各社とも共通して、IT能力を重要な経営のコアコンピタンスと位置付けていた。

○印刷だけ売れる時代の終えん
収益源は印刷であっても、印刷だけが売れる時代は終わったというのが経営者の共通認識である。マーケティング志向、ワンストップサービスを提供していく方向に動き出しているが、下支えとして持っている強力なIT開発機能は、社内向けには印刷CIM化をそれぞれの方向で実現させつつあり、また得意先への提案にもITの力を添えている。さらに、現物としての印刷物と関連する物品までをまとめて物流管理するロジスティックスのインフラが伴うことによって、印刷メディアのワンストップサービスを、現実的に入口から出口まで提供している姿を見せ付けられてきた。


2007/01/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会