本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

未来は見えてきたが、成長はこれからのデジタルメディア

クロスメディアコンファレンスの内容を事前に発表するプレイベントが1月25日にデジタルハリウッドで行われ、デジタルハリウッド(株)の石田謙太郎氏、編集工学研究所の太田剛氏、(株)ロフトワークの林千晶氏、テレビブログの(株)メタキャスト・井上大輔氏、クリエイティブコモンズの野口祐子氏の5名の発表の後、Kanda News Network の神田敏晶氏、清水メディア戦略研究所の清水計宏氏を交えてディスカッションが行われた。以下その発表内容の要旨を紹介する。

デジタルハリウッド(株)石田謙太郎氏

デジタルハリウッドはクリエータ養成スクールとして成長し続け、全国主要都市を中心に10ヶ所でスクールを展開しています。約3万5千人を超える卒業生の多くは、各種コンクールなどで数多くの賞を受賞しています。クリエーターネットワークは、全国の隅々まで発達し、多くのITやコンテンツスキルを提供しています。2004年4月には、日本初となる株式会社で運営される大学院を設立し、起業を目的にした人が集まっています。21世紀は、デジタルコミュニケーションがあらゆる産業界で応用されるようになっています。私たち生活者にとって、リアルライフとデジタルライフがともに協調していくようになってきています。その中で多くの知識や人々が出会うことになります。
開校当初杉山学院長が提言していたことは今でも変わっていません。1994年にデジタルの世界に参入しましたが、これからは、ロボットとセンサーがより身近になり、ネットワークを通じて、あらゆる産業を横断していく近未来を考えています。現在100万人以上が参加するバーチャル空間セカンドライフでは、全世界の人々がコミュニケーションするようになり、その中でクロスメディアが起り、3次元でWebの世界に奥行きが体験できるなど、表現方法が変化しています。既に、IBM、日産、トヨタなどでもこのセカンドライフを研究していますが、デジタルハリウッドでは、セカンドライフ内にデジハリランドを設け、クリエイター養成のための研究を進めております。 PAGE2007クロスメディアコンファレンスでは、こうした事例も紹介できるかと思います。

編集工学研究所 太田剛氏

ISIS編集学校では、知識やコンテンツを取り巻く環境を個人知、共同知、世界知の3つにわけ、それらを横断的につなぎながら、ひとつのコンテンツを作っていくことを編集と捉えています。共同知は、家庭、仲間、企業その他、言葉の文脈などがあります。世界知においては、自然、国際、自由平等などがあります。私達の編集工学は、この3つからひとつのものを作るのに、さらに8段階の編集方法を持っています。そしてそれぞれの段階をより詳細な編集方法のカリキュラムに落とし込んだものが編集工房です。2000年以降に、自発的精神つまりボランタリ経済がいわれ始め、上記3つの隙間を埋めていくものとして動き始めています。その間を埋める方法を身につける編集学校は2006年までに3500人の卒業生を輩出し全国で活躍しています。ISIS編集の国という実験では、NTTドコモ、ソニーミュージックエンターテイメント、資生堂、凸版印刷、日立インターメディックスなどにも協力いただきました。
松岡所長の千夜千冊は月間170万ビューのアクセスがあり、今回全集本の形で世に出ることとなりました。これもクロスメディアかと思います。独立行政法人情報通信研究所と一緒に図書街というサイトを運営しています。電子空間上に本棚だけでできた街をつくるもので、今100万冊の本の配架をしようとしています。情報の単位として本はあまりに優れているため、本の単位を崩さずに、網羅された構造の中でどのようなコミュニケーションができるかを研究しております。
ネット上で消費されていくブログやSNSのようなフロー情報を、どうしたら繰り返して利用されるストック情報に変換されるのかに取り組んで、藤沢市では市民電子会議室とポータルサイトとゲーム、市民会議室との間で藤沢市記者養成講座を設けてコラムを作成してもらい、その展開方法を検討しています。その他各地の実験を通して編集プラットフォームのようなものを作って統一化できないかと構想しています。PAGE2007では編集学校のカリキュラムのエッセンスをワークショップ形式で無料体験できます。

(株)ロフトワーク 林千晶氏

クリエイターズポータルサイトで起業活動を支援するサイトを運営しています。日本で、提供する側と提供して欲しい側とが関係をつくれる業界はないかと探して、クリエイティブ業界に目をつけました。デザインやイラストを描きたい、そして人に見てもらいたいという人達がいて、発注する側の企業の欲しいデザイン、クリエイティブなどの両者をマッチングするサービスを2000年に設立しました。現在主にフリーで活躍の方々を中心に約7千人のかたがたに登録していただいています。
お客様がクリエイティブの依頼を受けたときに、当社データベースに登録されているクリエイターとの最適なチームを作って提供するという新しい形の制作代理店を目指しています。携帯電話のデコレーションメールとか、着せ替えツールなど携帯電話をカスタマイズするニーズが高まっています。ネットでは、動画をもっと使いたいとか、融合させたりするサービス、ムーバブルタイプなどを効率よく運営したいなどがあります。
今回のテーマはEC市場です。ネット上では常に新しいサービスが生まれる中で、ECは10年たってもリーディングカンパニーが固定化するような成熟産業でなく、まだ2.1%程度しかEC化していない成長産業です。もうひとつには、口コミとの連携が重要であり、運営する側の思いであるとか気配りや情熱が効いてくる業種です。ブログとの連携を考えると、ネットの流儀に沿って取引しなくてはならないし、PCとモバイルを融合させながらECにつないでいくのが課題です。コンファレンスでは、比較サイト・評価サイト、コマースサイト、ラジオやDMと連携させたアフィリエイトなどの可能性、口コミを活用できるECサイトを構築するためのツールと成功事例の紹介などに触れます。

(株)メタキャスト 井上大輔氏

Web上でのサービスとしてTVブログを行っていますが、PAGEでスニークプレビューとしてパソコン用の動画視聴ツールTAGIRIを紹介します。以前はリクルートで出版がネットに移行していく様を間近に見て、この次は映像ではないかと思い起業にいたりました。会社のビジョン、コンセプトですが、動画やリッチメディアを検索したり柔軟に扱うためには、動画本体よりは周辺にあるメタデータが重要と考えて、それに特化した会社です。いろいろなメタがあるのですが、どちらかといえば口コミのようなCGMのようなメタといえます。一般視聴者が動画を見てどう思ったかということを書き込んでもらい、それらを集めることで価値が発生するのではないかということで未来を見ています。プロダクトのテレビブログというネット上のサービスは、テレビの感想が個人のブログに散らばってしまうよりも、番組ごとにブログの感想が集約された方がより面白いと思って起こしたサイトです。トラックバックという形で、各ブロガーさんが書いた感想が集まるという仕組みです。番ログといって、ある特定の視聴者がテレビをみながら何が放送されたかというメタデータを入れたものも提供しています。
TAGIRIは、動画を見るだけでなくサムネールが入った方が良いので、パソコンに入っている動画をクリックすると15秒間隔で全てサムネール化して、動画の内容がわかるようにします。テレビブログはYouTubeとかネット上の動画を追加する予定で、自分が開いている動画をダウンロードして配信するサービスや、面白い動画があれば動画にタグをつけて、特定のタイミングにコメントを入れるということができます。共通の興味によって集まってくるコメントを見ることができます。クロスメデイアという観点ですと、メジャーな動画などに対して、バラバラな個人の思いをバラバラにネットに流通させるという機能も有ります。

クリエイティブコモンズジャパン事務局 野口祐子氏

弁護士を務めて10年目になりますが、アメリカ留学中にローレンス氏のもとで勉強したこともあって、2006年からこの活動に本格的に参加しました。Web2.0でたくさんの人たちに参加をいただいてコンテンツをどんどん使っていきましょうというお話しは出ていますが、その中に著作権問題があります。ソーシャルネットワーキングとか、共同制作とかの形でいろいろなコンテンツの情報共有の動きがあります。19世紀の終わりにできた著作権法は国ごとに法律が違って、法改正に当たっては200数カ国の同意を得ないので、法改正は100年かかるといわれています。今日どんどん情報を共有したところに人の注目が集まって、そこから財が生まれ、商取引が生まれる動きになっていますが、著作権法上では問題だという大きなねじれ現象が生じています。そのためブログなどでも混乱してしまうという一面も持っています。そこで法律を改正するわけでなく、安全に共有できるネットの良いところを活かして行こうという概略を紹介します。
クリエイティブコモンズではコンテンツを自由に使えるルールを作り、世界共通でのマークを制定し、雑誌とEコマースが連携したり、面白い商品などの紹介用コンテンツを口コミメディアでも利用できる仕組みです。有料の用途では課金をするマーク、作品の著作権についても改変の許諾に関するマークなどがあります。これらは検索エンジンが読み取れるRDFのコードがあり、アメリカのYahoo!とGoogleはこのライセンスの条件を指定して検索できるというオプションを提供しています。また法律学者が国境を越えてライセンスを書いていて世界に流通しても大丈夫です。
MicrosoftOfficeのプラグインでクリエイティブコモンズのライセンスをつけられるようになっています。2006年終わりに学研がサービスの一部に戦略的にクリエイティブコモンズの考え方を取り込まれました。PAGE2007では学研と共に具体的なサービス事例を取りあげます。ちなみに創始者のローレンス・レッシグは、本を出版する前にPDFで内容を公開しています。本文の内容が検索でヒットしますので本の売上が300%上ったという国もあります。更にネットに関心が集まる中で、コンテンツの一部露出をさせながら、課金していくといったビジネスモデルを探ることが行われています。

文責:JAGAT研究調査

クロスメディアコンファレンス
●会場:サンシャインシティ 文化会館 7階 710
●参加費:無料
●申し込み方法:各組織・団体のWebサイトからお申し込みください。当日の申込みを受け付ける団体もありますが、定員に達した場合は参加できませんので、事前登録をお薦めします。
*タイトル・内容・時間は都合により変更する場合もございますのでご了承ください。

2007/01/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会