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「脱三原色」コンファレンス報告

PAGE2007の基調トラックA1「脱三原色 分光的色再現技術の可能性」(2月7日13:00〜15:00)について簡単に報告する。本セッションは総務省直轄(旧名TAO)のナチュラルビジョンプロジェクトを中心とした分光的な色再現技術のアプローチおよび今後の可能性について解説・示唆したものである。ナチュラルビジョンプロジェクトのサブリーダーである千葉大学の羽石秀昭助教授、参画企業である株式会社NTTデータの橋本勝氏をスピーカーとしてお招きし、JAGATの郡司秀明がモデレーター役で進行した。

従来の色再現技術は人間の視覚神経(色覚)を基準にした三原色を基本とし、そのものずばりのRGB光をハンドリングする加算混合でのRGB、選択吸収という観点でマイナスRGBとして減法混合的にハンドリングするCMY(K)データを扱っている。三原色の上に科学的に色彩学を構築したものがCIE(国際照明委員会)による表色系であり、今日工業界では一番普及している。一番というよりCIEに代わるものが無いというのが正確な表現で、好むと好まざるを得ずにCIE表色系を使うしかないというのが現実である。本セッションでは羽石助教授の方からCIEについての説明を簡単に行うことからスタートした。

セミナー講師は絶対避ける内容(要するに講師側の説明が難しいし、受講者側の理解はそれ以上に難しい)だが、今回は等色実験のことから触れていただき、「CIE表色系は実験値、それも平均値から求められたものである。しかし色を判断するためには心理的な面も大きく関与しているので、その辺もかなり考慮された実験値である。つまりCIE表色系は力学や電磁気学のような物理量とはかなり異なる心理物理量、単位系ということ」を限られた時間内で精一杯説明いただいた。そして問題なのが個人差や環境光の問題で、それらの差がある限りCIE的三原色色再現では近似値以上でも以下でもないわけで、工業製品の求める究極の精度にはマッチしないということがいえる。つまり、瞳等の物理的な個体差、心理的な個体差等での見え方レベルになると、CIE以外のアプローチの必要性が高まるということなのだ。

したがって光を分光的に(分光スペクトルそのもので)記述・再現するナチュラルビジョン的な手法が必要になり、本セッションはそのアプローチから究極の姿、またそれに至る現実的なステップについて解説およびディスカッションを行った。分光スペクトルといっても連続的なものは無理なので複数の周波数帯域(バンド)に分割するという手法を取らざるを得ないのだが、究極は16分割、合格点は8分割ということで、5分割くらいでも効果が大きいことが確認されている。入力も出力も現実的な機器を考えると6バンドのものを多く使用している。(もちろん8バンド、16バンド入力カメラも試作している)ここ二三年先のことで現実的なイメージを考えると、以下のことがまず考えられる。

  1. 入力データがRGBであっても、その被写体が特定できればその分光スペクトルの形状を予測するソフトウエアは開発されており、実際にも効果はある。(単なるアイディアだが、分光的なレタッチの可能性だって考えられるかもしれない)
  2. 環境光を単なる色温度ではなく、分光スペクトルのパラメーターとして捉えることにより、色を扱う精度は格段に向上する。(環境光の分光スペクトルを測定するのが一番だが、市販蛍光灯のスペクトル特性が分れば、分光処理することが出来るので、現在ICCでいわれている環境光より実践的かもしれない)
  3. 被写体がCGならソフト処理で簡単に分光的処理が可能であり、NTTデータを中心にソフト開発およびノウハウが蓄積されている。合わせてCGが得意にしている表面の光り方(偏光)も含めてのノウハウはナチュラルビジョンで大分進んだということであった。
  4. ディスプレイに関して5or6原色はかなり進んできている。ナチュラルビジョンプロジェクト協力企業の中にこの辺の製品開発をしているメーカーが参加している。
  5. 現実的には医療、文化財アーカイブ辺りから応用されていくのではないかと予測されている。

本セッションは単なる啓蒙的な話題としても面白い内容であったが、予測による分光記述は現在でも十分応用が出来るわけで興味を引いた。また5バンドカメラ程度でも分光的に処理しておけば、10年先、20年先に色再現精度はどんどん高まる可能性があるので、文化財のアーカイブ等では非常に大きなファクタである。

実際に文化財のアーカイブをやっている団体からセッション直後にアプローチがあり、試作の分光カメラを改良してアーカイブ撮影をトライする話が持ち上がっていることは、大きな収穫だったと思う。このところデジタルカメラのRAWデータが話題になっているようだが、RAWに比べても、分光データの可能性は比較にならないくらいに大きいので大事に育てるべき課題である。

2007/02/16 00:00:00


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