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印刷会社の立ち位置を変える時

かつては企業と個人の情報収集能力に大きな差があり、メーカー(供給者)が「物も情報も」一方的に消費者に提供した。情報は広告宣伝というマスコミを通じてしか得られない仕組みであった。しかしメーカーから流通へ、流通から消費者へとビジネスの軸が移るとともに、消費者は単なる消費対象ではなく生産をする消費者となった。

このような変化をもたらしたのが情報化社会の進展である。特に加速度的な変化を促進させたのがインターネットである、現在では消費者自身もメーカーと同等の情報を手に入れ、かつ消費者同士による情報交換や評価も自ら行うようになった。

印刷業はマスコミという一方的な情報システムの一翼を担っている。インターネットの普及で情報が循環し始め、従来とは異なった情報流通が出現した。印刷業はかつてない大きな変化の渦中にいる。この変化への対応がビジネスの分水嶺(ぶんすいれい)になろう。その鍵を握っているのが新しい人材の育成である。


印刷会社の立ち位置を変える時

印刷会社は印刷物を作るのが仕事であり、それが貢献だと思うのは、当たり前のような気がするが、クライアントの目的が印刷物を作ることではないとすれば、本当の目的を知った上で印刷物を作っているのだろうか。そこが大きな問題である。クライアントの発注による受動的な製作姿勢では、自社の仕事をして自社の満足を得ただけになる。これでは顧客満足は得られない。

クライアントの満足を得るにはクライアントの悩みを知り、その解決を図ることである。ようやくこのことが当たり前になりつつあるが、印刷は長い間それを当たり前としては行ってこなかった。顧客満足度について印刷業が意識し始めたのは、ISO9000:2000の導入がきっかけである。形式、手法はどうあれ、顧客満足を意識しながら仕事をするというビジネスの姿勢が大切である。つまり、自分たちの仕事の位置を再確認し改めて、その位置にふさわしい人材と教育を考えることである。

これからは図1のようにクライアントと印刷会社との重心を移動させなければならない。クライアントの問題解決を達成するには、クライアントの領域に踏み込まなければ対応はできない。そのための能力は、従来の範囲とはかなり異なる分野が多い。

図1 仕事の位置
  図1 仕事の位置

ではなぜ、重心を移し、従来とは違った能力、知識が必要なのかをまとめると以下のようなことであろう。

常にクライアントからの視点で

クライアントの事業目的を実現し、売り上げに貢献することが印刷の繁栄につながるという関係性が印刷サービスの本質である。そうだとすれば、クロスメディア分野へのチャレンジであっても、状来の印刷メディアであっても、営業・技術・企画であってもクライアントへのサービスの本質は同じである。

しかし、印刷は受注産業にもかかわらずクライアントの本当のニーズを把握することが苦手で、企画・仕様などの検討が終わり、製造見積もり以降が自分たちのサービスであると誤解をしていた。「印刷物への関心はあっても、クライアントについての関心がない」という本末転倒の営業は正さなければならない。

印刷にしてもWebにしても表現するための技術が伴うため技術知識が重要であることは、今も昔も変わりはない。しかし、何のためにその技術が必要かを明確にしてクライアントと共有することができなければ、クライアントにとって価値あるものにならない。ある中堅印刷会社系列の企画会社の社長いわく「印刷を断るには本当に勇気がいる」と、印刷を相対化する難しさを振り返る。クライアントが既に決めたチラシの発注をストップして、ネットを含めたほかの企画に提案し直したという。チラシに掛かる大きな費用とその効果を考えた時、「それは得策ではない」と判断した。クライアントの抱える課題がチラシでは解決できないと分析し方向転換をした。これこそソリューションであり、顧客満足志向であろう。


(全3回)人材育成には適正な診断、評価、訓練、活用と処遇がカギ
■その1: 印刷会社の立ち位置を変える時
■その2: 人材育成は組織と一体
■その3: 人材育成のためのツール活用
(プリンターズサークル 3月号より抜粋)

2007/03/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会