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未来を描くための「再定義」

明るい未来。 尊敬できる人物。 感動体験。――今の社会で、この3つに関して自信をもって誇らしく語ることができる人間は、ほとんどいないだろう。
未来予測もバラ色の未来、想像したこともないビジョンを示すことはなくなり、逆に今の現実と地続きのリアルな社会像を提示することに腐心する。そして、社会全体で共感できるような感動も見出せなくなり、誰もが納得するヒーロー像も描けなくなっている。
明るく夢を持って先へ先へと進んでゆく、そういうプロセスはとうに失われ、逆に蓄積されてきた矛盾を、今、地球全体で調整していこうという段階にあるとも言える。

日本における水道は今から100年強前の、水道条例が制定された1890年代から急速に普及をはじめた。あって当然の存在であり、生活インフラであったその水は、ミネラルウォーター、ナチュラルウォーターのボトリングによる商品化によって「積極的価値」をもつ存在に変わった。
しかし、工業社会を経て、地球環境、社会環境の汚染に対して目が向き、同時に、生活上の余力が生じ、健康という概念が変化した現代だったからこそ受容されたのであり、これを農耕社会の段階で商品化したとしても、当然受け入れられるわけがない。

概念(コンセプト)は、変容する。

新しい価値を生み出すための議論をするときに、必ずといっていいほど、「そもそも論」を唱えだし、そのオリジン、原義に忠実であることが「唯一正しいこと」と主張する人間がでてくる。しかし、それこそ「そもそも」概念は、概念というものが独立してあったのではなく、現実に存在する事象や思考を「置き換え不能な形に集約したもの」であり、認識の枠組み(パラダイム)が変われば概念は変わり、再定義が必要となる。それを怠ると、「活用価値」を見誤ることになるということである。それはビジネスを喪失することにもつながる。

かつては自社でまかなうことが当然だった商品やサービスが、今では当たり前のように外部調達できるようになっている。逆に、外注が当たり前と思われていた商品、サービスの内製化もどんどん進んでいる。IT、コンピュータは、独自のメディア、独自の道具としての進化を進めると同時に、既存のメディア、既存の道具をデジタルの中に置き換えてきた。長い歴史を持つ紙の文化も紙を媒体として機能させるためのさまざまな道具をデジタルの中に置き換えてきた。
紙の文化がデジタルの中で拡大延長をしていく中で、「印刷物」も拡大延長していると見るのか、引き算されて領域が狭められていると見るのかで、明らかに選択肢は変わってくる。

印刷媒体は旧来の形態も「現在、まさに必要とされる価値」として存立し続けているし、未来を展望しても、消滅することはまだ想像しがたい。しかし現在の紙の文化、印刷物の変容を「そもそも論」に立った概念規定のままで放置しているのでは、外部環境からの引き算、足し算の働きかけに身を委ねることと同じことである。顧客もエンドユーザーも「印刷業」「印刷会社」と聞いた瞬間に、条件反射的に印刷機がまわる町工場をイメージしてしまう「刷り込み」を払拭できていない。「紙の文化」「印刷媒体」は既に変容して様変わりしているにも関わらず、「印刷業」「印刷ビジネス」の見せ方、表現の仕方は、それに携わる主役たちの意識のなかで、まだ「そもそも論」を基軸においたままに思えるのである。
今、印刷の継続と言ったとき、印刷が長きにわたって培った経営資源の継承と言ったとき、今の社会認識の中で生きる「概念」に再定義することが必要だということであり、その作業こそが「印刷ビジネスの明るい未来を描く」基軸となるはずである。



6月29日(金)開催のJAGAT大会では、JAGATの40周年ということも踏まえて、今回も触れた「長寿・持続・継続・進化」というキーワードにこだわりながら、「印刷産業の継続と進化のために「今」考えておくべきこと」をテーマに講演会を行います。
そして、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の代表取締役社長を長く務めておられた新将命氏に特別講演をお願いしています。ぜひ、ご参加をお待ち申し上げております。


→詳細はこちら JAGAT大会2007 6月29日(金) 椿山荘(東京・目白)


【JAGAT大会2007・特別連載1】変えていいことと変えてはいけないことの選別――長寿企業としての経営戦略

【JAGAT大会2007・特別連載2】企業の永続的発展の要件

【JAGAT大会2007・特別連載3】未来志向の企業風土

【JAGAT大会2007・特別連載4】三つの変革期と創業期


経営情報配信サービス『Techno Focus(テクノフォーカス)』No.#1499-2007/6/25号より要約。

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(2007年6月)

2007/06/26 00:00:00


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