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人材育成は組織と一体

ソリューションビジネスは易しくはない

昨今、多くの会社で部門名やサービス名として、「ソリューション」「ソリューション提案」というキーワードが採用されているが、どんどん積極的に自社企画を提案することではない。それは押し付け(押し売り)であってソリューションとは言えない。ソリューションの基本はヒアリング能力、言い換えれば的確な質問能力であり、その質問が本質的課題を引き出せるかどうかに掛かっている。クライアントへのソリューションはニーズを的確に聞き取ることから出発するが、その的確性を保証するのが「信頼関係」の構築である。

信頼関係にはITだから、クロスメディアだからということは関係ない。いい提案をするために相手の話をよく聞く(聞き出す)ことである。ある人は、7割はクライアントの話を聞くことであるという。この聞くという姿勢が実は非常に大切なことで、相手が信頼してくれるかどうかのポイントであるという。出来合いのパッケージ(企画)の売り込みが最終目的であると、結局は相手の言うことは聞かずに、自社の売り込みプレゼンになってしまう。

印刷は受注産業にもかかわらずクライアントのニーズ引き出しに弱いと指摘したが、クライアントに近づけば近づくほど幅広い要求対応能力をもっていないと無理難題に振り回され、低コスト要求のみになる可能性が高い。なぜならコスト要求以外の価値の共有ができないからである。

部分知識では役に立たない

クライアントの側に重心を移すと図2のような能力が必要となるが、印刷にとっては経験のない分野であり、総体的に弱い部分であると言わざるを得ない。社内外の専門家と交渉したりコラボレーションしながら仕事を進める。


図2 仕事の位置と要求される能力

マーケティング、プレゼンテーション、ディレクション、コーディネーション、コミュニケーション……等々、これらの力は、営業知識、デザイン知識、コンピュータ知識、画像知識、組版知識といった個別知識を総合的知識に転換する手法の知識で、企業(組織)の仕組みと連携して具体的なパワーとなる。かつて印刷は工程別の専門集団の組織で、個別の専門能力の高さが品質を決め、会社の能力を決めた。現在は、個別の専門能力をつなぎ合わせるマネジメント能力が品質や企業の能力を決める。つまり、個別の専門的作業はデジタル化によって技術的には標準化が進み、特定の専門能力に依存する度合いが低くなった。その裏返しとして、差別化がしにくいと言われるが果たしてそうだろうか。差別化する方法や分野が以前とは異なっているだけで、差別化は十分可能ではないか。専門家の縦割り能力だけではクライアントのソリューションにこたえることは難しいであろう。一気通貫の総合的な能力やマネジメントシステムが差別化には重要である。

印刷会社だけでなく企業全般にマネジメント能力が要求されており、ISOの導入による事務局の設置や内部監査員制度を人材発掘や教育の場に活用している企業も多い。ISOの大きな副次効果として人材育成、ことに中堅リーダーの育成には適している。自部門だけでなく全体の監査を手掛けることで、トータルな知識と部門間の関係改善が意識される実践的な訓練の場であると言ってよい。

印刷工程は以前から比べると、統合され大きく変化したことは今更言うまでもないことである。デジタル化がひと段落したころから「ワークフロー」という言葉が頻繁に使われ始めたが、これは「部分対応」では何も改善されないため仕事の流れ全体を考えて改善や仕組みを考える時代に変わったことを意味する。当然、われわれの知識も部分では適切な判断や対応できないので、常にトータルに全体最適の立場に立って考えなければならない。JAGATではそのような人材作りとして、DTPエキスパート、プリンティングコーディネータ、クロスメディアエキスパートの資格制度を創設してきた(図3)。


図3 人材作りのための資格制度

人材育成は組織と一体でなければ意味をなさない

人材育成には組織との連動がなければ企業の力とはなり得ない。例えば、ある担当者が総合的な判断としてディレクションをしても、組織的に権限がなければ、その判断は徹底されない可能性がある。つまり、個別部門長とコーディネータやディレクターとの権限調整が必要である。人材育成と組織が一体でなければ効果がない。

クライアントのニーズの多様化、高度化、また多様性に合わせた工程選択、あるいはメディアの選択など印刷のもつ多機能性を戦略とするならば、組織・人材を柔軟に対応させる自立的組織を小さく作ることが重要になる。それを全体としてうまく機能させるためには、個々の小さな組織に司令塔となるリーダーが必要である。そうすることで、さまざまなソリューションに合わせた動きやすい組織になるであろう。従来のような階層的な組織では動きに無理があり、ソリューション対応のための人材が能力を発揮できない。一方、全体ルールとしてのコンプライアンスの教育・徹底を忘れてはいけない。


(全3回)人材育成には適正な診断、評価、訓練、活用と処遇がカギ
■その1: 印刷会社の立ち位置を変える時
■その2: 人材育成は組織と一体
■その3: 人材育成のためのツール活用
(プリンターズサークル 3月号より抜粋)

2007/03/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会