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人材育成のためのツール活用

人材育成の基本は「診断し、評価し、訓練し、生かし、処遇する」ことである

人材育成に対しては、一人ひとりに目標と教育計画が必要である。そのためには「診断し、評価し、訓練し、生かし、処遇する」仕組みが必要である。特に現在は新しい技術や社会環境への対応にとって企業内に目指す人材モデルがなかったり、多様化した機能を分割したり、新たな事業領域などを志向するなど、企業が新しい常識を構築しなければならない時期である。かつての年功序列、終身雇用という環境の中で同質教育による人間関係の強いきずなを築いた時代とは、かなり違ってきている。

「診断し、評価し、訓練し、生かし、処遇する」には基本となる業務を遂行するための技能、知識として何が必要かといった職能要件の洗い出し、重み付けが必要がある。これは各社各様で企業方針によって異なるのが原則である。これを具体的にやろうとすると時間、人手、費用が掛かることは事実で、どうしても大企業型制度になりがちである。JAGATでは中小企業にも比較的手軽に導入できるように営業、プリプレス(枚葉、輪転)、プレス、生産管理、製本、総務の7職種の作業項目を洗い出しとトータル1800項目を等級別に整理をし、データベース運用できるようにした。同時にJAGATでの教育訓練プログラムの開発基準としている。遂行業務の項目数に圧倒されがちで、実運用が難しいのではないかと懸念されることがあるが、運用時に実態に即して軽くしたり重点項目を絞り込めばいいだけである。かえって最初のベースを小さく作ってしまうと、変化・変更への対応が不便になり、不活用になる可能性が高い。JAGATではどの規模の企業にも導入しやすく、また時代の変化で戦略性、重点課題の変更が頻繁に行われても職能要件の編集、新規登録、削除といったカスタマイズのしやすさが最も大切だと考えた。

企業と社員が一緒に成長する姿を示そう

遂行業務がまとまると、個々人の評価制度と教育ステップを考えなくてはならない。経営的には「評価=賃金」ということに目が向かうが、賃金への妥当性、納得性をもたせるためにも個人への目標、教育のツールとしても目を向けていただきたい。

評価制度には完璧なものはあり得ないし、個々に経営方針が違うので一律ではない。しかし評価の目的は、企業の目標、部門の目標、そして自己の目標を明らかにし、個々にギャップがあればそれを埋める努力、達成のための方法を確認し合うことで企業と社員が一緒に成長する姿を示すためである。

理想的には一人ひとり能力を厳密に評価することだが、現実に限界があり困難である。とは言え、評価が総花的、あるいは抽象的で人格的評価への偏り、評価者と被評価者の関係や評価者自身のクセの問題等々運用に適切性が欠けると、納得感は得られない。人事や評価制度は仕組み自体も大切だが運用次第である。

例えば、多機能かつ広範囲な守備となった営業活動の作業項目は500項目にも及んでいるが、現実に沿って業務を分け、内勤営業、新規開発型営業、企画提案営業に評価を分け、それぞれの重点を明確にすることや一人ひとりに合った評価項目を選択することで、社員自身と企業・部門の目指すものを共有できるのでなないか。

また、評価項目に難易度ランクを設けることで、会社、部門、あるいは自身のより重点項目を明確にし、それを達成した時の評価度をアップさせる仕組みをもっていることはより運用を上手にできる。会社の戦略上重要と思われるものをあらかじめ高いランクに設定することで、各自が自然に重点項目へ集中投入させることができる。また、何より自身の成長に必要な能力、知識が示されることで、2年後、5年後の仕事のスキルアップや昇格が見え、そのための教育計画が互いに共有できる道具になることがよい。

評価は、評価者と被評価者のコミュニケーションツールである

評価制度があってもうまくいかないことも多い。評価・目標が上司・部下の2人の閉鎖的な中で話し合われ、進捗状況がほとんど管理されないことから、決められた重点項目より日常の緊急性の高いものに終始、あるいは評価のギャップに対して詰めた話し合いが行われないこともうまくいかない理由である。また、評価が賃金評価に偏り人材育成のツールとして十分生かされないことが多い。

このような弊害を除くためには、評価・目標をもっとオープンな(公開ということでなない)形で進めることが必要であろう。

例えば評価・目標を1対1で行わず、複数で行うことや人事考課担当の上司だけでなく同僚や部下など全方位的な評価の仕組みが必要である。また人材育成に生かすには、評価のフィードバックが重要である。フィードバックが不十分では人材育成には生かせない。この鍵を握っているのは評価者(上司)である。評価者には評価訓練が必要である。つまり、評価とは評価者が被評価者を一方的に評価するのではなく、コミュニケーションツールとして利用し、双方が成長することが重要である。 以上のように、人材育成とは会社と個人が同じ目標をもってともに成長するための会社全体の仕組み作りで、企業風土、企業理念と一体となったものである。人のマネをしてもうまくいくものではない。これからの企業の発展も撤退も人材に掛かっている。その人材育成のためにはうまくツールを使うことが必要である。


(全3回)人材育成には適正な診断、評価、訓練、活用と処遇がカギ
■その1: 印刷会社の立ち位置を変える時
■その2: 人材育成は組織と一体
■その3: 人材育成のためのツール活用
(プリンターズサークル 3月号より抜粋)

2007/03/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会