アジアの諸地域が高い経済成長をしていることは周知のとおりであるが、成長に伴う混乱というのがありがちである。しかし中国遼寧省の大連の様子は違って、都市が整備されながら成長しているようにみえる。外資の導入では上海に遅れをとったが、インテルが中国で初めて大連にチップ製造工場を建設すると発表し、しかもそれはアジア最大のチップ生産基地になるというように、インフラ・社会資本が整備された大連は、他のアジア地区とは一味違った展開をしている。例えばインテルは単に工場を建設するだけではなく、大連と共同で半導体技術学院を設立する覚書に調印している。人材に力を入れていることも特徴である。大連市IT企業および関連教育機関リストは、ジェトロ大連事務所の資料でも見ることができる。
人口は約650万人を擁する大連市についてはWikipediaなどを参考にしていただきたいが、1984年に経済技術開発区に指定され、世界のtop500企業を誘致している。多くの世界的企業がコールセンターを置いていて、特に日本企業、韓国企業の進出が著しい。大連に進出している外資系情報産業の過半数は日本の企業である。大連市人民政府の大連概況の資料によると、「もっと優遇な政策を提供して、良好な人材環境を作って、万人ベースのソフトウェア中堅企業を育てて、より多くの世界トップ500の企業を誘致を促進させる。騰飛ソフトウェアパーク、東軟国際ソフトウェアパーク、七賢嶺産業園区、黄泥川フトウェアパークと旅順大学園区の建設を推進して、旅順南路ソフトウェア産業エリアを国内で最大、国際的で先進的であるソフトウェア産業基地にする。ソフトウェアと情報サービス業の売上げと輸出高が平均で50%以上増加させる。」という意気込みで、中国国家から大連市は第1回目の「中国サービスアウトソーシング基地都市」の称号を授与されたそうだ。
このような政策は今日までのところ功を奏しているようで、2007年1月16日大連市第十三回人民代表大会第5次会議での大連市全体の見通しによると、地区生産総額が16.4%増加し、社会固定資産投資総額は32.3%増加し、地方財政の一般予算収入は25.9%増え、社会消費品の小売総額は14.7%増加し、自営輸出総額は25.9%増え、実際利用した外資は124%増加し、都市住民の一人当たり可処分収入は11.3%増加、農民では18.3%増加と発表されていて、高い経済成長であるし、また前述の人材投資にさらに力を入れている。
印刷関連でも従来から中国に文字入力、地図や間取り図(ベトナムなども)を外注することはよく行われていた。これらは仕事量は膨大にあるが、一つ一つの作業は非常に単純なものが多かった。それは中国側のオペレータを日本のように教育することができなかったからである。印刷のビジネスは多品種なので単純作業しか外注できないと、現地企業とパートナーシップを組むことは難しくなる。しかし、日本企業の進出が多い大連では、日本語教育も熱心で日本語アプリケーションを使えるオペレータも増えて、日本語のDTP関連の仕事に従事する人が数百人規模になり、作業内容も日本国内と同等のところも出てきている。
ここに至るまで、DTPの中国進出は個別企業の大変な努力で行われていて、それが今日の利益確保につながっているところもあるが、過去から外国企業とのパートナーシップはいろいろな課題があって、今は中国外注にメリットがあっても将来に不安を感じているところもある。これはお互い様で、中国側からは安定した受注拡大が望めるのか、日本側からは現地制作企業の雇用の安定(教育した人材が他業種に流れてしまわないか?)、作業スキルの向上と品質の向上(モチベーションをもってもらえるのか?)、などの問題は個々の企業レベルでは如何ともし難い。そこで前述の大連市がかかげる人材投資にDTPが対象になることが望まれた。
さらに日本からの発注の段取りや指定の簡略化がしたい、ひいては制作の機動力向上による日本国内の営業拡大を目指したい、という点では、日本のDTP教育と同等のものが大連でも行われるのが理想である。そこで大連市とJAGATの間で中国のDTP制作者教育をDTPエキスパート認証制度を核に行っていくことの合意が2006年11月になされた。今日本語DTPのオペレータが沢山大連にいるとはいっても、その人たちがDTPエキスパート認証試験を受験するのは無理であるので、まず課題制作のオペレーションくらいはできるような「DTPエキスパート準拠」の大連式実技試験を現地で始めることと、そのために大連市の公教育に実技履修のコースを設置することが必要で、大連市でも具体化の検討が始まっている。大連市ではDTPはCADなどと同じく情報産業のくくりに入っているので、情報産業振興策の中でDTPの教育もなされていくことになろう。
大連のDTP制作力は、マンパワーだけでなくITのオフショアと相まって、日本の出版印刷を支える大きな力になる可能性を秘めている。ITやアウトソーシングでは大連は「世界のtop500企業を相手にする」ことで先行しているわけで、日本としては大連とのパートナーシップによってパブリッシングの情報加工をそのレベルにまでもっていって、過去よりもスケールの大きなビジネスをすることを目標に掲げられればよいことになる。国内では少子化でオペレータの大量確保は難しくなっているので、DTPでもオフショアは避けられない運命にある。それをチャンスに転化することにDTPエキスパート認証制度がお役に立てるかもしれない。
2007年5月21日(月)「DTPエキスパートin大連」講師募集に関しての説明会開催
2007/05/11 00:00:00