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変化するアジアの印刷事情

去る6月10日、11日の2日間、中国北京で第9回アジア・パシフィック印刷技術フォーラム(FAGAT)が開催された。現在、同フォーラムのメンバー国は、日本、中国、韓国、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、スリランカ、オーストラリアの9カ国で、今回はシンガポールを除く8カ国が参加した。フォーラムの初日は総会で、FAGAT各国の代表者2〜3名が参加してFAGATの運営等について話し合いを行った。ここでは、次回のFAGATをフィリピンで行なうことを決定した。フィリピン側からは、大統領の出席も要請して盛大に行ないたいとの意向が示された。
2日目は、各国の印刷産業の状況、技術的課題等の報告がセミナー形式で行なわれた。中国国内の印刷関連企業を中心に300名程度の参加者があった。各国からの発表内容は、 JAGATホームページ中のFAGAT英文ページでご覧いただけるのでここでは要点を絞って紹介する。

既に減少し始めた中国の書籍需要

各国からの発表の共通点は、印刷産業はインターネットの時代への対応、デジタル印刷への期待、そしてそれらを含む印刷付帯サービス拡大の必要性の3点であった。
中国印刷技術協会副会長の沈海祥氏の「現在の中国印刷産業の分析と戦略」では、中国の印刷産業の出荷額が年率15%の勢いで伸びているなかで、インターネット普及のマイナス面が既に見られ始めたという報告があった。中国印刷産業の牽引役はパッケージ印刷で、品目別構成比で見ても、パッケージ印刷は全体の34%のダントツの1位になっている。次いで多いのが書籍・雑誌(21%)、新聞(14%)、海外からの印刷受注(9%)となっている。
問題は、デジタル化とネットの普及によって従来型の宣伝印刷物の伸びが鈍っていることと、出版印刷市場が急速に縮小してきていることである。新聞の広告費は2004年までは年率30%以上で伸びたものが、2005年には6%に低下した。6%の伸びはGDPの伸びを下回るもので、発行部数も2006年には主要13社のうち6社で減少に転じた。書籍についてみると教科書需要は年々拡大しているが、一般書は2004年から減少に転じている。

中国におけるデジタル印刷機の普及は年々倍増の勢いで伸びて、2005年におけるデジタル印刷機設置台数は871セットになっている(参考:アメリカの調査会社のレポートに、中国のデジタル印刷市場規模は2005年で376百万US$だが、2010年まで年率66%で成長して2010年には50億USドルに達するとの報告がある。ちなみに、同レポートでは2006年の中国の印刷産業の出荷額は600億ドル、2010年には1130億ドルになるとしている)。
今後の戦略として、デジタル印刷による市場拡大、技術革新(既存印刷設備のデジタル化、デジタルネットワークワークフロー構築、デジタルアセットマネージメントシステムの構築)そして顧客との関係を強化した印刷付帯サービスの拡大を掲げていた。

韓国のデジタル印刷は2010年に10%にまで成長

韓国は、「韓国印刷業界におけるデジタル印刷市場の最新トレンド」と題して、韓国におけるデジタル印刷機の普及状況とデジタル印刷市場が多様化しつつ拡大してきた状況、そしていくつかの事例を紹介した。現在の韓国の印刷市場は55億ドル程度だが、過去5年間で30%伸び、2010年までの5年間でさらに25%程度伸びると見ている。その中で、デジタル印刷市場のシェアは2000年の2%が2005年には6.8%になり、2010年には7.9%まで拡大していると見ている。
デジタル印刷の事例としては、書籍印刷、オンライン出版、小ロット端物印刷、バーコードやナンバリング等のバリアブル印刷、インターネットを使った写真アルバム、カレンダー印刷の受注の例が紹介された。その中で、小学校のウエッブサイトへのコンテンツ提供の話は興味深い。フィリピンからの報告の中では、技術動向としてデジタル印刷の伸びの大きさが印象的であった。

国の支援で伸びるタイの印刷業界

タイの印刷業界は、国の施策に乗ってうまく支援を取り付け拡大しているようだ。タイは、食品輸出国、知的国家を目指してさまざまな施策を進めており、国レベルでは食品の安全性確保、著作権保護などに力を入れている。そして、これに関連しては印刷関連資機材の税金の軽減、印刷工業団地の設立等の支援策を打ち出している。印刷関係では出版印刷、パッケージ印刷に力を入れており、後者については「Pack Print International Exhibition for Asia」(Messe Dusseldorf Asiaとの共同開催)に力を入れ、少なくともアジア地域での注目度は高まっている。そして、今後の印刷業界発展のために、日本の大分県が推奨した「1村1品運動」を手本とした施策を実施するとしている。

スリランカからは、自国の印刷業の概要を紹介した上で、新たな時代の人材教育の必要性と現在の取り組みの紹介があった。スリランカの経済は好調で、2006年のGDP伸び率は18%、1人当たりGDPも13%伸びている。したがって、紙製品需要も7.3%増であった。スリランカの印刷企業数は3000社、従業員数40000人、出荷額は20億ドルで年平均伸び率は6%である。スリランカの印刷人教育は、政府(学校)、印刷組合、そして海外からの支援の三つの形で行なわれているようだ。海外からの支援としては、INGRINというヨーロッパ系の教育ビジネス企業で、発展途上国の業界と協調しつつ産業教育のための人材を派遣している企業との教育プログラムがある。また、「Sri Lanka German Training College」による印刷機や後加工機械に関するメンテナンスのための、機械、電気・電子のトレーニングコースが始まったと報告された。

半分の業者が撤退意向を示すオーストラリア

オーストラリアからは、現在のオーストラリアの経済状況、印刷産業の状況の報告と今後の見通しについての話があった。成熟化したオーストラリア経済の中で、印刷産業では価格低下と能力のある作業者の不足が問題となっている。そして、企業の社会責任、環境問題からのパッケージ印刷物印刷削減圧力、ダイレクトメールへの風当たりの強まり、海外への印刷需要流出、そしてメディアの多様化など、経営環境に厳しさが増すなかで、最新調査によれば、業界の38%の企業は5年以内、64%の企業は10年以内に廃業にすると回答していると紹介された。

マレーシアからは、先進国と同様の環境変化と業界の対応策に関する報告があった。多様化するメディア環境の中での生活者の変化、小ロット・短納期化する顧客ニーズ、そして供給力過剰による中小印刷業の困窮について触れた上で、これからの印刷産業の課題として、印刷物を提供するだけでなく、効果のある印刷物提供のために、技術面ではバリアブル印刷の利用、クロスメディアサービスの展開、ソフト面では印刷物の効果測定を含むトータルソリューション提供を行なうべきであると述べた。

特別講演の概要

FAGATメンバー団体以外の発表としては、基調講演で、凸版印刷の藤田会長が「印刷価値創造産業としの印刷」として、日本の印刷産業の概況とテーマに即した凸版印刷の事業内容について話した。さらに、故宮全体を3G画像化した中国とのプロジェクトについて報告した。
ハイデルベルグからは、アジア地域の印刷需要拡大の可能性と経済発展に伴う印刷需要や技術の変化の方向を整理した話があった。また、ハイデルベルグ製品との関連では、プリネクトワークフローとアニカラーおよびUV技術の推奨があった。
もうひとつは、1991年に設立され現在では中国屈指の大印刷企業グループになったHeshan Astros Printing Ltdの Feng Kwong Yuen会長の講演である。同社の成長の基盤となっている「企業文化」について、同社の具体的な活動を紹介、「企業文化はそこで働く人間の自主性と創造性の源であるが、重要なことはどのような文化であるかということではなく、それが借り物ではなく本当に自社に適したものであるかが重要である」と指摘した。

(2007年7月8日:山内亮一)

2007/07/08 00:00:00


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