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第8回FAGATスリランカで開催

第8回アジア印刷技術情報フォーラム(The Forum of Asian Graphic Arts Technology;FAGAT)は、8月3〜5日の3日間、スリランカの首都コロンボで開催された。当初はオーストラリアでの開催予定だったが、開催国側の諸事情でスリランカでの開催に変更された。

参加者は、スリランカ以外の国として日本、中国、オーストラリア、マレーシア、韓国から18名の参加があった。シンガポール、タイ、フィリピンからの参加はなかった。 代表者会議では、日常の情報交流を活発化することの必要性が確認された。コンファレンスでは各国の印刷業界の動向と展望が報告された。


代表者会議とSLAP設立50周年式典

会議初日には、FAGATメンバー国の代表者会議が行われた。主たる議論は、今後のFAGATの活動についてであった。FAGATはJAGAT塚田益男元会長の発案で1996年に第1回が東京で開かれてから10年目に当たる。この間、オーストラリア、スリランカがメンバーに入り、各国の代表者も変わってきた。従って、設立当初のFAGATの趣旨の理解が薄れ、今後のFAGATの活動に関する意見も多様化してきた。共通の意向としては、日常の情報交流をもっと活発にすることの必要性が確認された。

今回の第8回FAGATは、スリランカ印刷組合(SLAP)設立50周年に併せて行われたので、初日の夜には盛大なパーティが行われた。式典ではスリランカの経済大臣が出席しあいさつした。JAGATも海外からの来賓代表としてお祝いを述べた。
2日目、3日目はコンファレンスである。

中国印刷業界拡大を支援する法整備と展示会

中国からの発表はもっぱら発展する中国印刷業界の状況に関するものである。印刷産業育成のための監督官庁の一本化、乱立する印刷企業の規制・監督による整理、そして偽商標の印刷など、違法印刷物の取り締まりに関する法律が整備され成果を上げていると報告された。その中に、業界の自主規制に関するものもあり、例えば中国印刷技術協会が信頼性のある印刷会社を選別、認定して表彰する制度もできた。

現時点で、中国の印刷展示会にはChina Print, Print Expo China、All in Print Chinaの3つがある。その中では22年前から始まったChina Printが最も古く、All in Print Chinaが最も新しい展示会で2003年に最初に開催された。この3つの展示会をうまく組み合わせることで、北京、上海のいずれかの都市で、毎年展示会が開かれることになった。 来年の中国での印刷展示会は「Print Expo China」(6月)で、「革新的な付加価値印刷」「デジタル印刷技術」「特殊印刷」「印刷文化・ブランド・優れた印刷物」の4つの内容に分かれて展示が行われる。展示面積は5万m2、8万人の来場者を見込む。第9回FAGATもそれに併せて行うことになった。

日本と同様の悩みを抱えるオーストラリア

オーストラリアの印刷業界は、印刷、グラフィックアーツ、マルチメディアおよび関連業界を含めてオーストラリアの製造業の中で第4位の位置にある。企業数は5000社、従業員数は12万人、総取引額高は220億ドルである。

印刷産業が抱える問題点、今後の展望については、基本的には日本と同じである。売り上げの伸びが鈍り、コストも上昇して業界全体として税引前利益がマイナスになる期間(四半期)も出てきている。一方、投資意欲は衰えていないが、売り上げが期待に反して伸びないので、供給過剰によって設備稼働率が悪化し、価格低下(21四半期連続低下)が問題になっている。また、若い労働力の確保は業界最大の問題だと指摘していた。市場の傾向に関しては、従来の市場が伸び悩む、あるいは減少する中で、インターネット、ペイテレビなどの伸びが予測されている。

今後の産業振興施策の一つとして、海外市場の取り込みが掲げられている。そして、そのための具体的方法としても含まれる各種の業務提携を推奨している。「全印工連2005計画」の基本コンセプトである「共創ネットワーク」と同じである。業務提携を「ビジネスクラスター」と呼び、以下のビジネスクラスターの形成を提唱している。

  1. 輸出クラスター(アジア各国との連携を含む)
  2. 共同購入クラスター(紙の購入)
  3. 技術クスター(設備の共同利用)
  4. 供給力共有クラスター(アウトソーシング)
その他、印刷会社がプリプレス、製本加工分野を取り込む方向、トータルビジネスソリューション提供者としての印刷業、 ニッチプレイヤー、グリーンプリンターなどの方向が示された。

中堅企業統合化を推奨するマレーシア

マレーシアの経済は順調に伸びているので、2005年の印刷産業出荷額も7.3%増になった。これからの環境を見通した時、2つの戦略が考えられている。より大きな仕事ができる生産能力を強化することと、変化する環境に乗るために新技術を導入することである。特に、中規模の印刷会社は、M&Aを含めた統合によって生産性向上、より大きな生産能力確保、低コスト生産をしなければ生き残れない、とする発表は注目された。

また、大手の印刷物発注者が一時期デジタル印刷機を入れて印刷の内製化を図ったが、結局、総合的な効率の意味で印刷会社への外注に戻したという事例が紹介された。マレーシアの印刷業界にとって、デジタル印刷機は非常に魅力的な設備として映っているようだ。 韓国からの発表は、名刺、リーフレット生産のCIM化が技術的には実現できる時期に来たが、業界側の人材不足の問題を指摘していた。その前に、国際市場で伸びていこうとしている韓国にとって、品質水準に問題があるとの指摘もあった。

他国とは大きく異なるスリランカの印刷事情

スリランカの印刷産業の企業数は3000社、従業員数4万人、出荷額は20億ドルで、成長率は6%である。スリランカのGDPは201億ドルである。 従って、一般印刷市場では軽オフで印刷するペラ物が主体である。それ以外では主要輸出製品である衣料品、紅茶用パッケージの印刷、そして書籍類の印刷が印刷らしい仕事で、商業宣伝印刷物需要は非常に少ない。一つの特徴は、デジタル印刷機の比重の高さである。経済力の乏しい発展途上国の共通項であろう。

今後の市場と産業の方向として、電子メディアの進歩と拡大、そしてIT利用による印刷産業の知識集約化が述べられた。同国の現状とのギャップが強く感じられたが、逆にハードに弱い印刷業界の現状と識字率が92%という状況を元に考えると、先進国におけるプロセスを飛ばしてソフトを拡大するほうが理にかなっているとも思えた。

開催国のスリランカでしばらくなかった爆弾テロが年初から始まったので、日本からはJAGAT役員2名だけで参加したが、現地入りした日に、今年に入って4回目でしかも最大規模の爆弾テロが北東地域で起きた。

今回はSLAPの50周年記念と併せて行われ、同時に数年ぶりの印刷機材展が行われた。展示会場の大きさは晴海の展示会場の1号館程度で、印刷機は中古の単色機のみ、製版設備はCTPプレートセッタ、小型の製本機、小型のプリンタ、コピー程度でパネル展示が多かった。日本の目から見れば展示会とは言えないものだが、そこで熱心に話を聞いている若い専門学生の姿に少し胸が熱くなった。

(山内亮一)

2007/07/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会