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標準原価と実際原価

■PDCAサイクルの第一歩は標準化
先日JAGATでは、中堅印刷企業の生産管理担当者をパネラーに招き、生産管理における、「標準資料作成とその活用」と題して、ディスカッション形式のミーティングを開催した。この分野は印刷業界において、特に近年多くの経営層に興味を持たれ、適正な利益管理に基づく利益の確保へのアプローチがなされているようである。
このミーティングでは、パネラー各社の利益管理のための標準原価などの設定とその活用方法について紹介され、活発な意見交換がなされた。企業経営のPDCAサイクルにおける、計画や予算(PLAN)設定フェーズで、標準原価の策定がなされているようである。

■標準原価設定のアプローチ
標準原価の設定には、基本的に過去の一定期間におけるコスト(経費、人件費、設備費等)を、稼働時間で割った標準アワーコストに、その要素作業で掛かるであろう標準時間を掛けて、その要素作業の標準原価を設定しているようである。標準原価=標準アワーコスト×標準作業時間、である。
この考え方には異論はないであろう。標準(つまり目標)となる原価で、事前にこの程度であると意思決定するわけであるから、云ってみれば見積もりである。各社とも実際の設定には苦労を伴いながらも、標準原価のためのマスターデータの整備が紹介された。

■標準と実際の差異に関して
一方、PDCAにおける検証(CHECK)のために、管理上対比させるものとして、同じロジックの実際原価を挙げているパネラーが見られた。標準原価つまり目標となるコストに対して、実際に掛かった原価を引いて、その作業の利益貢献度を測ろうと云うものである。ここで実際原価の算出において、同じロジックで、アワーコストに実際の作業時間を掛けている。
実際作業時間は、日報なりコンピュータや機械の作業履歴として記録が採れる。アワーコストは、上記の標準アワーコストを掛けている例が見られた。これを採用すると、利益=標準原価−実際原価=(標準アワーコスト×標準作業時間)−(標準アワーコスト×実際作業時間)=標準アワーコスト×(標準作業時間−実際作業時間)、となるから、実は作業時間を標準値と実際値で比較しているに過ぎない。

■目的を明確にする
印刷業のビジネススタイルを考慮すれば、非定型的で人のナレッジやノウハウに依存するDTPや製本加工においては、標準アワーコストとの乖離が大きいため、一定期間(例えば1ヶ月間)の実際の原価を直接集計したものを使った方が利益貢献度を目的に算出するのであれば精度は高い。
しかし、作業の改善が目的であれば、標準作業時間と実際作業時間の差異分析だけでは不足である。時間の差異は一つの目安になるが、作業の改善を進めるならば、稼働率、歩留まり、時間当たり処理数、など生産のQCDの総合的な評価と対策が必要になるであろうし、その方が改善としては直接的、効率的である。各社の実情に講じた実効性がある生産におけるKPI(管理指標)が設定される必要がある。

■標準資料の重要性
しかしながら、まずは標準原価を設定できることが利益管理の第一歩である。生産工程ごとに、標準原価を全社にオーソライズされなければ、販売の基準価格や生産の目標原価も分からない。
 MISを導入し経営の効率化、合理化を進めるに当り、標準が無ければマスターの設定が不十分なものになり、MIS活用範囲は制限されてしまう。MIS導入によって、PDCAサイクルを自動的に「構築」してはくれない。MIS導入以前に的確に標準が確立され、機能している状況でなければ、MIS導入のメリットは最大化されない。従って、標準資料の整備は、MIS導入の大前提であると考える。

(2007年10月)

2007/10/10 00:00:00


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