印刷は「複写」機能を代表する技術です。同一の内容を大量に複写する事がその本質ですが、複写機能を実現する他の技術として電子写真(EP)やインクジェット(IJ)があります。版の有無がこれら技術の差異として認識されていますが、EPやIJでは、使用されている要素技術が「記録」機能を実現する技術そのものである事が非常に大きな違いです。記録という観点では、IC製作上使用されるディスペンサもこの範疇に入ります。
我々はEPやIJについて産業用途への応用を中心に動向を過去紹介してきましたが、ここでは最近の状況を、実用化、検討段階、今後に分けて報告します。
現在、代表的な実用例は、IJによる表示用のカラーフィルター製造です。従来、フォトリソ法等により、複雑な工程を経てRGB等のフィルターを製造していましたが、漸くIJ法が実用化されました。まだ大画面での適用が中心で、精度等検討すべき課題は多いのですが、コスト削減への寄与等が大きく評価されたものと考えます。
一方、次の用途として、表示装置の拡散板への適用が検討されつつあります。IJによりマイクロレンズアレイを作り、導光されたを光を均一に拡散するのです。従来法(金属型)と比較し、パターン製作の自由度が高く、かつ製造速度が速いという特徴があり、本年末の段階で既に製造装置が数台出荷済みです。また液晶の配向膜(PI)についても従来フレキソ印刷等で形成されていましたが、膜の均一性の確保、コスト削減という観点からIJによる製造が既に実用化されました。
更に、検討段階の技術として、電子ペーパ(フレキシブルディスプレイ)等の駆動部等があります。配線パターンは従来、銅箔エッチングやスクリーン印刷等で作成し、それに駆動IC等を接続していましたが、配線パターンそのものを透明なナノペーストを用いてIJで記録し、かつ、駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)を有機半導体で形成する検討が行われています。有機半導体は従来、塗布法ではあまり移動度が高くなく、蒸着法が検討されてきました。
しかし近年、材料の検討が進み、塗布法でも十分な移動度が得られるようになりつつあります(但し、シリコンと比較すると未だ桁が低い)。有機半導体の実用代表例はプリンター等で使用されているOPC(有機感光体)ですが、実用に向け、蒸着から塗布への道のりは似た環境にあるようです。移動度向上の次の課題は均一性の確保と思われます。膜のどの場所でも同じ性能が確保できるように均一化を図る事が実用上の大きな課題です。
以上、高速の表示を要求されない用途に対しては、IJ法により全てを製造する事も現在夢でなくなりつつあります。比較的低速で、大量に使用され、低コストが要求される用途についてはこのような有機半導体の用途が広がる可能性が高くなりつつあります。数百程度のトランジスタは有機で、高速/大規模なICはシリコンで、という使い分けがなされるかもしれません。
なお、通常のフレキシブル基板に関してもIJの適用検討がなされています。20層程度の基板がすでに試作されました。またICや白色LEDチップを基板と接続するバンプについても検討が行われています。簡単な配線パターンについてはディスペンサーを用いて形成する事も可能です。数年前から、産業技術総合研究所等で「プリンタブルデバイス」の紹介がなされてきましたが、この流れが研究開発分野で大きな動きになりつつあります。
またスクリーン印刷技術をベースとし、要素部品全て(トランジスタ等は有機半導体を使用)を印刷で製作する意欲的な動きも日米で紹介されています。わざわざ真空環境をつくらなくとも手軽に製造できる可能性があることから、プリンタブルデバイスから「プリンタブルエレクトロニクス」への流れは必然性があると思われます。また日本独自の技術としてS(スーパー)IJを用い'ナノ'パターンの記録・またミクロンレベルでの立体構造の構築を受託するサービスも開始されました。銀ナノペーストを供給する会社も一部では採算ベースに乗ってきたようです。
(その2)に続く
(2007年12月)
2007/12/11 00:00:00