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身近になってきた立体映像

2007年12月1日からBS11では、家庭のテレビで3Dが鑑賞できる出来る立体映像の放送をオンエアしはじめた。アミューズメントやイベント会場で偏光フィルタのメガネをかけてみるような方式で、立体に見るには専用のハイビジョン受信機が必要となる。このような制約はあるものの、液晶テレビにちょっと工夫するだけで立体視が可能になったわけで、しかも1日の限られた時間ではあるが毎日立体映像の放送が行われはじめた。

この立体視の方式は、XpolTM方式ハイビジョン液晶立体(3D)テレビとしてNHKテクニカルサービスのサイトに簡単な説明がある。XpolTMは(株)有沢製作所の登録商標で、微細偏光素子を規則正しく配列させたものを液晶モニターなどに貼り合わせて、偏光メガネで立体視できるようにしたもの。この方式は投射型、直視型のいずれの方式にも対応可能で、1台のディスプレイ/プロジェクタでも使える。冒頭の専用のハイビジョン受信機とは、株式会社アスナがNHKテクニカルサービスと有沢製作所の協力を得て作った37インチのハイビジョン液晶テレビで、通常の番組も3D番組も同じテレビで視聴できる。

3D番組は、右用と左用の画像を走査線の一本おきに配列したもので、画面の表面にラスター1本ごとに逆の特性の偏光フィルターが貼ってあるので、フィルターに対応する偏光メガネをかけて見れば、左右用の映像をそれぞれ同時に見ることができる。つまり画像のタテの解像度は半分になるが、色に関しては何の影響も受けない。厳密にいえば光量は約半分になるが、それはどの立体メガネを使うものも同じであろう。ラスター1本ごとということはインターレースと同じようなものなので、チラツキとか速い動きへの追従という点でも従来テレビと同じようなものかと思われる。

立体視に関しては最近いろんな方式が出てきており、2007年に国立天文台でお目見えしたInfitec分光方式立体視は、ドイツのダイムラー・クライスラーの研究所から出てきた技術で、2003年にINFITEC GmbHとして独立し、バルコ社とクリスティ社のDLPプロジェクターに採用されている。スクリーンが曲面でもよく、プラネタリウムでそのまま使用できることから、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクトに採用された。分光特性が櫛の歯状になった特殊なフィルタのメガネを使うため、今のところはメガネのコストが高いが量産されれば安くなるといわれる。

色については可視光全域をカバーをするものの、左右それぞれ櫛の歯状に半分しか色成分がなくなるため、色彩を補正するカラーコンバーターの技術で補正する。またプロジェクターは左右用2台必要だが、これは市販のものがほとんどそのまま使用できる。実は先日、PAGE2008の基調講演の打合わせでお邪魔した際に見せていただいたが、プラネタリウム様の半円のスクリーンに星空が投影されていて、そこにCGのリアルタイム・レンダリングで月の誕生の様子を中空に浮いたような立体視がグリングリンされて大迫力であった。

また医療用や産業用でも多くの立体視のシステムが導入されつつある。つまりCGやデジタル画像処理の先には、写真も動画も超えてまだまだ先に進むグラフィックアーツの世界があるのである。いやデジタルだからこそ今から本格的に取り組まれるべきものが多くあるともいえる。デジタルの技術と「見えること」に関する理論があるならば、理屈どうりのものができるようになったのだ。

コンピュータによるビジュアル化が各分野で進むので、画像コンテンツの主要な位置は写真ではなくデジタル画像データになるであろう。デジタルカメラやビデオのような写真の意味は「素材」であり、表現はコンピュータを介したものになるはずだ。そこに新たな表現も生まれてくるだろう。PAGE2008の基調講演「ビジュアライゼーションの進展」では、視覚系の構造や特性の不思議さと、眼の研究の先にどんな再現システムが考えられているのかについてと、その最先端の例として2007年に国立天文台が完成させた4次元デジタル宇宙プロジェクトの立体画像システムおよび、それによってどのような「体験」がもたらされるかを紹介する。見えないものも見えるように、行けないところも体感できるように、ビジュアライゼーションは進展しているのである。

2007年12月20日

2007/12/20 00:00:00


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