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2008年の展望と課題

2008年は、従来の印刷物市場における受注競争が一段と激化する。日本の経済・社会、印刷業界固有の状況のいずれを見ても、印刷業界全体をプラスに押し上げる要因を見出すことはできない。
2008年の経済成長率は実質ベースで約2%というのが大方の見方である。それだけを見ても印刷業界の実質成長率は1%程度と見るべきである。価格を考慮するとほぼゼロ成長というのがここ数年の動きから推察できる名目成長率である。

主要市場を個別に見ると、商業印刷では、数年前まで年率0.5%程度の印刷物市場成長に寄与していた折込チラシ市場の成熟化は明らかで、もはや市場の牽引役として期待できなくなってきた。もうひとの大きな牽引役であったフリーパーパーの伸びも止まりつつあるし、DM市場の伸びも前年並みになってきた。出版印刷物市場の長期低落に歯止めが掛かる状況も見られない。これらを綜合して見ることができる印刷資材の出荷販売量の伸びは明らかに鈍化してきている。2005年までの5年間、年平均3.2%で伸びていた平版インキは、2006年は1.5%増、2007年1月〜9月期では0.9%増となっている。これらの動きを綜合的に見ると、2008年の実質成長率は低くなると見ざるを得ない。
一方、生産設備への投資はかえって増加している。物量的には全市場の7割近くを占めるオフ輪市場において、その保有台数の増加数はこの3年間拡大している。JAGATが11月に実施した調査でも、印刷機械投資への優先順位はトップである。

以上のことから推察される2008年の状況は、既存印刷物市場における供給力過剰によるさらなる低価格受注競争である。それは、仕事が玉突きのようにより規模の小さな企業からの奪われるとともに、業界全体の収益性を悪化させ、さらなる負のスパイラルを助長する。そのことは、例えば上場印刷企業の業績と印刷産業全体における印刷資材の出荷販売量とのギャップに如実に現れている。2007年上期の上場企業28社の売上伸び率平均は3.4%増であった。この伸び率は、同期間の印刷情報用紙、一般インキの出荷販売量の伸び率(前者は0.4%増、後者は△0.2%)をはるかに上回るものであり、仕事の偏在を現している。一方、28社の営業利益率前年比平均は△31.4%になっている。

印刷業界の多くの企業において、受注品目による利益の差は非常に大きい。それが、「どこかで儲けがあるから他は安く受注してもそれなりに利益は出る」という構造を作ってきた。受注競争は、当然のことながらうま味のある仕事から他社に発注が移ることを促進し、上記のような構造は消滅する。それは、単に売上、利益が減少するだけでなく、真にスリムな体質であり、しかも緻密な管理がでない企業の生き残りは今まで以上に難しくなることを示している。

今後、従来市場では、徹底した合理化と差別化した製品・サービスの開発・提供による他社に無いニッチ獲得以外に道は無い。もうひとつの方向は新たな事業領域の開拓である。幸い、縮小均衡でしのいできた企業でも次のプラスを生み出すための投資能力を持っている企業は多い。体力があるうちに、負のスパイラルから抜け出すために中長期的視点からの先行投資を進めてもらいたい。

これから向かうべき方向はさまざまにある。既存の印刷物市場における生産部分に今後を託すのならば、さらなる低価格での受注に対応できる徹底した合理化が不可欠である。ただし、長期的にその方向で勝ち抜くという覚悟が必要である。この部分で他社と差別化するならば、生産面では、設備の導入で一時的に先行できるといったものではなく、独自技術を開発するレベルで差別化しなければ継続的な発展は期待できない。
新しい事業領域を、環境変化に乗る方向で考えるならば、ネット社会に対応するクロスメディアやe-ビジネスに関わる展開、環境負荷軽減、個人情報保護の動きとの関連でのデジタルプリンティングの方向がある。これらは、JAGATが2002年5月に発表した「印刷新世紀宣言」で示した方向である。その他、さまざまな印刷付帯サービスの分野もある。

いずれにしても、これからのビジネスの視点として重要なことのひとつは「サービス化」である。サービス化とは、経営スタイル、ビジネスモデルを考えることである。より具体的には、提供する側と受ける側のマッチングや製品・サービスを提供する仕組み作りを考えることである。
業態変革、差別化、オンリーワン等々のために事業内容を考える企業は多いが、その対象顧客を明確にしている企業は非常に少ない。印刷物という「モノ」の提供から、その効用や業務の支援という「コト」、「機能」の提供を売り物にするとき、顧客の要望はより細分化、個別化したものになるし、その要望の深いところから応えていくことも必要になる。物品・サービスを提供する側と受ける側のマッチングが適ったとき、相互の満足が最大になりWin-Winの関係を持続することが可能になる。
逆に、顧客に提供する価値を単純明確にして、そのための製品・サービス提供の仕組みを作ることもサービス化のひとつの方向である。設備や技術が特別である必要はなく、提供する内容も個別の顧客に深く応える方向、あるいはワンストップサービスとは逆の方向での展開になる。

上記の何をするにしても、一朝一夕にできることではない。だからといって、過去の堂々巡りを繰り返すだけでは、より深く負のスパイラルに巻き込まれるだけである。今の大きな変化をチャンスと捉えるか、マイナスに捉えるかは経営者次第である。
2007年、印刷業界はもう一段の底割れを起こした。そして、2008年は更に状況が悪化するだろう。まだ挽回の体力を持っている企業は多いのだから、2008年、印刷業改革企業は、選択肢の一つにM&Aも視野に入るくらいの覚悟を持って方向を定め、その歩を進めていく年であって欲しい。

2008年1月

2008/01/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会