本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

紙はしだいになくなるのか?

何年か前にJAGATで「2050年に紙はどうなる?」というシンポジウムを開催していて、そこでは紙はなくならないという話であったが、近年は少し風向きが変わってきたような気がする。そこのところをはっきりさせたいなと考えていたところ、具体的な問題解決ではないが、初夢で希望が与えられた。今まで考えもしない方法で紙が生き延びられる夢を紹介したい。

どうも最近は読書を長くしていると頭痛がしてくるのは眼鏡が合わないかららしい。夢の中で検診を受けに行った私は、視力の検査装置のようなところに座らされ、「何が見えますか?」とたずねられた。普通ならCとかEのような図形があるのだが、そのようなものはない。どうもこれはTVのようなものらしい。ぼんやりと映像が映っている。2020年代だろうか? 「私の部屋のようです」と答えた。やけにきれいさっぱりかたずいている。私はもうこの世にいないのか? いや居た。天井裏に隠れているのが私だ。そこに本も隠されていた。

どうやら個人の書籍所有が認められなくなっている様子だ。どうも雑誌もチラシもカタログもなくなっているようだ。情報記録とか閲覧の容易さという点では紙媒体は残っているが、それは社会的な共有財産であって捨ててはいけないものになっている。紙がなくなるのではなく、紙の廃棄がほぼ禁止されている。まだ価値のある印刷物を所持している人は図書館などに寄贈しなければならないらしい。個人が保管していると廃棄される可能性が高いからだ。

検査装置のダイアルを回していくと町の様子のようなものが見えた。パソコンなどでは相変わらずプリンタが使われているようだが、プリンタには一旦印刷した紙面を白紙に戻す機能もついている。これが電子ペーパーなのか、新しいリライタブルできる紙なのかは、私にはわからない。オフィスや店舗をみるとポスターや案内書はあいかわらず見受けられるが、これらもリライタブルペーパーなのだろうか? 一体印刷機はどうなってしまったのだろう? どうも製紙も印刷も生産規模は10分の1くらいになってしまったようだ。どうしてこんなに紙が抑制されてしまったのだろうか? 21世紀始めには植林も盛んに行われ始めたのに。

どうも温暖化のおかげ(?)で地球規模では森林はどんどん増えているようである。しかし製紙や再生紙のために必要なエネルギーが十分に得られないために、生産量が減っていったようだ。エネルギーの分配に関する国際的な取り決めができて、地球規模での配給制のようになって、国ごと産業ごとに割り当てられた量でしか生産が出来ない仕組みを作ることで、人類はエネルギー戦争を回避したためらしい。ということは、製紙はそれほどエネルギーを使うのか、あるいは人類の生存がかかった深刻な事態になったのか、どちらかだな。

20世紀末には森林資源の枯渇や、利用者が紙に対してどのようなニーズをもっているかを中心に紙の将来予測をしていたが、木材はあってもパルプにすることがなかなか許されない理由は、捨てることを前提にしたモノつくりは認められないというように、価値観が大きく変わってしまったからのようだ。生活史博物館にはトイレットペーパーが過去の遺物として展示してあったほどだ。しかし未来の私が本を秘匿しているように闇紙も横行していて、人々は紙不足に困っている様子だ。

また「他に何が見えますか?」という声がした。私が「白衣を着た男性が見えます」と答えると、その人が私の方を振り向いた。手には三角フラスコを持ち、中にはドロドロした液体が見える。私にはそれがパルプの密造のように見えた。するとその人は「別に悪いことはしていないよ」と笑った。外にはプールのようなものが見える。そこで植物繊維の細胞のつながったようなものを培養している。空気中の二酸化炭素を葉緑体のある藻類のようなものに捉えさせているのだな。アオコのようなものか、と納得した。

これをパイプで吸引して即パルプ化することで、木材から細かく砕いたり分解して繊維を取り出すのに比べて低エネルギーで紙を作ることの実用化の目途がたったらしい。紙は生産におけるエネルギー問題さえ何とかなれば、廃棄をする際にも燃料とみなせるので、この時点以降は闇紙取引がなくなる程度までには供給は改善しそうだという気がしたが、その時まで私は居るのだろうかというところが気になる。

植物の場合は食物連鎖ではないが、進化の頂点にあるような木を、進化の底辺の植物繊維細胞のようなものにまで人工的に加工するのはエネルギーの無駄かもしれない。もし進化の底辺のあたりのものを人間がもっとうまく利用することを覚える方が、地球のバランスを取り易いことになるのかもしれない。そうするとステーキをたべるよりも人間が直接プランクトンを食べたほうが地球に優しいのだろうか? などと考えていたら、白衣を着た男性は微笑んでいた。

2008/01/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会