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構造が変わるグラフィックビジネス

日本は江戸時代からカラー印刷の発達した国であったが、それ以前の戦国時代あるいは平安貴族の時代から色とりどりの美しい工芸品や書画が珍重された国であった。こんな日本にいると、まるでカラーの印刷やプリントあるいはカラーディスプレイに取り囲まれた生活は当たり前のものであって、カラー表現は空気のようなものに思えてくるだろう。

その中でもう今は十分きれいになっているではないかという人もいる。アマチュアにとってはそれだけの感想でもいいが、プロというのは違う。今日のデジタルカメラでもプリンタでもディスプレイでも日本が先端を走ることができているのは、空気のように当たり前なカラー再現をさらに前進させようというプロの執念があるからであって、その執念には際限がない。
別の言い方をすると、日本の色彩豊かな文化的背景がある以上、将来も色の分野で日本が牽引車となる基盤であるということだから、色や画像に関わるビジネスは今後とも世界に先駆けて我々の周囲から変わっていく可能性がある。

色や画像の応用分野は現在どんどん広まっているのである。例えば生産ラインの自動化や無人化が日本では進んでいるが、それを支えるのは人が視覚に頼っていた検査をデジタル信号とコンピュータで処理できるようになったことによる。野菜や果物の熟れ具合や痛みの検査からニセ札の鑑定まで、光学器械なしにはいられない状況になっている。
部分的には光学装置は人の目を超えるくらいの能力を持つようにはなったが、トータルに考えるとまだ人間が裸眼で見るリアルな光景を再現するような装置も印刷もない。このギャップこそがこれからのチャレンジであろう。JAGATでは今後のより優れた色再現の開発のきっかけになればと考えて単行本「眼・色・光」を刊行した。

20世紀のグラフィック技術では、アナログ時代は解像度と階調の2点を重視した平面的な再現が中心であったが、デジタルになって画像計測やCGのようにいろいろな技術が蓄積され、それらの組み合わせで応用領域も急速に広がっている。そういった産業用途から、またグラフィック表現分野への新たな要求も出てくる。それに応えるには従来のアナログ時代にタテ割で蓄積された閉鎖的な専門知識ではなくて、サイエンスに基づいた知識をベースにしなければならない。

それは過去の反省からくることで、アナログ時代の画像のプロが、必ずしもデジタル時代に画像のプロにはなっていないからである。製版業者のビジネスとしてはカラー原稿をたくさん受け取って集版までもっていくことで稼いでいた。それは製版装置を運用していたのであり、回転が多いほうが儲かった。しかしそういった「金の成る」装置を開発するところがあったからそうできたのである。装置の開発ができたのは、例えば日本のエンジニアリング力がモノつくりを得意としていたからだろう。

さらにその基盤としては、こうすればよいものができるはずだという理屈の世界、すなわちサイエンスの世界がある。つまり「運用」の背景には、開発の「エンジニアリング」が、その背景には「サイエンス」がある。エンジニアリングとは大学の工学部とか企業の研究所が、サイエンスには大学の理学部のようなところがあたる。色では19世紀初頭のヤングが理屈、19世紀中葉のマックスウェルの実証、という先にRGBの分解とかCMYのカラー印刷がある。こういった土台に変化起これば、その上に構築されている「装置」やそれを使った「運用」のビジネスは変わらざるをえないのである。

しかし今までアナログの時代には3原色の混色による色再現以外を試す機会は非常に少なかったが、デジタルではCIE何々であってもなくても色空間内で色を正確に変換することができ、多原色のもたらす結果もよくわかるようになった。つまり色を一旦RGBとかCMYに置き換えなくても扱えるのがデジタルであり、n色のカメラやn色のプリンタが自由にできる。またCGやデジタル画像処理の結果も、よりリアルに表現できるようになる。つまり分光やデジタル画像処理の過去のサイエンスの蓄積が、デジタルの普及でエンジニアリングと結びつきだしているのが今である。

だから、アナログ時代の画像のプロが、必ずしもデジタル時代に画像のプロに横滑りはしないのである。ではデジタル時代に画像の世界はどのようになりつつあるのか? グラフィックスでビジネスをしている人は今真剣に変化の本質を捉えないと、もうこの先にプロとして生きていく道はないといえる。ぜひPAGE2008でグラフィックビジネスの構造的変化を知っていただきたい。

PAGE2008コンファレンスの関連セッション

A0セッション ビジュアライゼーションの進展
A2セッション 新時代の画像ビジネス
D4セッション 広色域印刷の品質を追求する -分光画像原稿で比較する-

2008/01/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会