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技術にコンテンツが追いついてきた新映像

PAGE2008基調講演A0の ビジュアライゼーションの進展 では、まず国立天文台の武田隆顕が、SIGGRAPH2007 Computer Animation Festival入賞のFomation of a Spiral Galaxy、つまり宇宙に散らばる小さな粒が相互に作用しながら、次第にまとまって銀河系を形成するまでのシミュレーションを視覚化したCGと、その立体視の仕組みについてプレゼンした。素人目にはガスが渦巻状になっている映像であるが、これは200万個の粒が相互に影響し合って回りながら集まりを作る重力多体計算を用いたシミュレーションを実際に行った結果の映像である。そのシミュレーションが武田氏の専門分野であって、CGは表現のために勉強して取り組んだ。

しかもプラネタリウムのようなドームにどうやって投影するのか、どういう立体視の方法をとるのか(この場合は干渉分光フィルタを使った)とか、そのためのプロジェクションの技術など一切を、天文台内外合わせて数人のプロジェクトで行われたという。このほかリアプロ3面ディスプレイと偏光メガネによる立体視、Webで宇宙のシミュレーションを見るためのビューワソフト(Mitaka窓の杜大賞2007で銀賞を受賞)開発なども行っている。

最後にCG屋さんがサイエンスを勉強してこうした映像を作るのと、研究者がCGを作るのは、どっちも同じくらい大変だろうと述べておられ、表現の部分も含めて研究者自身がコンテンツ作りをする時代になったのだというのが感想である。これはきっとあらゆるサイエンス分野に及ぶだろう。日本はナノテクに力を入れているから、以前なら電子顕微鏡写真しかなかったようなナノな世界も生態の細胞レベルのものも、CGを使って人が観察できない世界での振る舞いを表現するように早晩なるだろうことを感じさせた。

基調講演A2の 新時代の画像ビジネス では、昨年も登場いただいたアマナから、進藤博信社長とアマナCG推進ディレクター長尾健作氏にお話いただいたが、長尾氏の話の中で、CGはCADを行う製造業のプロダクトデザインでも取り入れられ、たんなる製品の基本写真のようなものなら外部に頼まないでもできることと、そこでのプロの仕事として製品に「魅力つけ」をすることでパートナーになれるという指摘があった。アマナの場合はカメラマンが撮ったようにCGで作ることを指し、カメラマンのセンス以外にも小道具として製品の背景・周囲にあるストックフォトや家具・インテリアといった、製品を引き立てる要素をCG化して持っているという強みがある。

これからは立体視というのも画像をひときわ引き立たせる要素になるだろう。A0セッションで畑田豊彦東京工芸大学名誉教授は、立体視で質感が向上することを説明した。ダイヤモンドのようなキラキラした効果は左右視差から生じるので、アルゴリズムによってCGで表現できる。畑田氏はいろいろな錯視の例をひいて眼と神経系および大脳の認識には「癖」があることと、画像を引き立てるには特に動画では神経系・大脳が行う微積分の効果をうまく使う可能性を話した。

また今日でこそデジタルのミニシアターで偏光メガネを使う立体視はあちらこちらにできつつあるが、動画の裸眼立体視は大阪万博のソ連館にもあったそうで、単にキワモノ、イロモノ的な、何かが目前に「飛び出す」ような立体映像はあきられて長続きせず、今は見ている人が映像の中に「入り込む」ようなコンテンツの作りで、無理のない疲労のないものに向いつつあるという話があった。国立天文台もそうであるが、立体視の技術にコンテンツが追いついてきた印象がある。

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2008/02/07 00:00:00


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