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本格的ビジネス展開段階に入ったデジタル印刷

デジタル印刷機による印刷品質については、かなり長い間改善が積み重ねられてきて、現時点では既に十分にエンドユーザーの要求に応え得る水準に達している。色域、解像度、諧調など、少なくともエンドユーザーはオフセット印刷との区別がつかないところに来ている。印刷会社の技術担当者も、いい加減、ルーペを持ち出しての品質云々議論は止めた方がいい。

品質面の課題としては、質感や表裏の見当精度があった。前者については、コーティングの工夫等での対応から、用紙の持つグロスに対応した光沢を実現するようなこともできているようになった。ビジネスの幅を広げるためには、多様な印刷用紙への対応が不可欠だが、扱える紙厚の幅が広がっただけでなく、上記のような品質面での対応も十分に進化したものになっている。後者については、各社とも、紙の搬送の安定、位置検知、そして画像補正機能などを盛り込むことによって改善している。その精度を0.1ミリメートルとするまでになっている。
デジタル印刷機の特徴を活かすためには、インラインでの製本加工範囲の拡大も重要だが、この点では、世界初となる「くるみ製本」と「3方断裁」のインライン機能や多重折などができる機種も紹介された。

当然、全ての機種が上記のような全機能をフルに搭載することはなく、想定するマーケットに対して、どのような機能を盛り込んだものを重視するか、によって選択する時代になった。これが、「本格的ビジネス展開段階に入ってデジタル印刷」のひとつの背景である。
このような状況を背景として、Page2008では、デジタル印刷機の細部の性能・機能の改良成果の紹介はもちろんだが、デジタル印刷機の特徴を活かしたビジネス展開、仕事の合理化の仕組みの提案を重視するものであった。「Web to print」、「携帯との連携」などがそれである。

オンデマンドでの印刷は基本的には小ロットになるが、それは1点、1点の仕事の売上額が小さいのが一般的だから、営業レスでありながら多くの仕事を集める仕組みは重要である。web to printは、そのような手段として、また、シームレスでの仕事の流れの構築を目指す時にも当然必要になる。
Web to print に関しては、受注場面以外にさまざまな仕組みを込み込むことで、顧客にとってより価値のあるサービスを提供することができる。たとえば、全国で多店舗展開する顧客に対しては、各店舗で使ったコンテンツをデータベース化して他の店舗でも使えるようにするといったことである。

ここで考えるべきひとつのことは、集中処理か? 分差処理化か? ということである。幅広い地域から仕事を集めるということを前提とすると、出来上がった製品の物流をどうするかを考える必要がある。コストというより時間の観点からの問題で、機能は高いが、高価なデジタル印刷機で処理するとならば当然一箇所での集中処理になるだろうが、時間的な点では分散処理の方が望ましい。このことを、設備面で考えるのか、企業間でのネットワーク化で考えるか、といったことも課題だろう。

バリアブルデータ印刷機能はデジタル印刷機の独壇場だが、それが印刷業のビジネスとして成功してきたのは、請求書のようトランズアクション用印刷物などに限定されていた。基本的には、ワン・ツー・ワン・マーケティングを行なおうとしても、そのもとになる有効な個別データを持っている顧客が非常に少ないからである。
しかし、携帯電話や二次元バーコードの普及によって、データ・マイニングではなく、より新鮮な情報に基づいてワン・ツー・ワン・マーケティングができる手段が拡大し、その中でデジタル印刷機が持つバリアブル印刷、オンデマンド印刷の機能を活かせる環境が広がってきているように思われる。
以上のように、ネット、携帯電話といった技術を組み合わせて、デジタル印刷機を単に平版印刷機の代わりに使うのではなく、デジタル印刷機らしい価値を提供するための知恵の出し方が、これからの課題になるだろう。

デジタル印刷機のひとつの特徴は、受注以降においてシームレスな仕事の流し方ができる可能性をより強く持っていることである。
Web を通して受注した仕事の指示を直接デジタル印刷機に送り、その指示に基づいて、与えられた仕事を順次、自動的にこなしていくことも可能である。この場合には、MISからJDF対応の生産設備に指示情報が伝達されなければならない。しかし、JDFワークフローにおいては、MIS自体をJDF対応にして生産設備と連携させることは非常に大きな負担となり、その具体的な形がいろいろ考えられてきた。
しかし、Page2008では、この問題を、MISに変わってJDFを生成する一方、デジタル印刷機から受け取ったJMFを解析してMISに実績データとして渡す仕組みが紹介された。この仕組みは、当然、プリプレス設備でも平版印刷機、後加工機でも使えるものだが、デジタル印刷機の分野での利用を先行するのは当然であろう。

デジタル印刷機をどのような位置づけで使うかはいろいろに考えられるが、あるロットまでの仕事をオンデマンド的に処理したいという場合、1枚当たりコストにおいては平版印刷とのブレークイーブンポイントが問題であった。デジタル印刷機が、200部、300部以下において初めて平版印刷よりも有利、ということでは利益を出すことはなかなか難しい。
そこで、上記のような市場にターゲットを絞り込んで、そのブレークポイントを1500部以上にまで引き上げたシステムも出され、かなり導入が進んでいるようだ。発表資料によれば、オフセットとのコスト比較において、菊半裁の場合には1800部、菊四裁のオフセット印刷機では3500枚までであれば同システムの方が安くなるという。時間的な面では、たとえば3200部の印刷の場合、約25分が菊半オフセット印刷機とデジタル印刷機のブレークイーブンポイントになり、菊四歳との比較では4900枚の印刷が40分強で、それ以下の枚数ではデジタル印刷機の方が短時間でできるという。

以上、Page2008の展示に見られたデジタル印刷分野の展示の傾向をまとめてみたが、デジタル印刷が生産設備の機能・性能を向上させる段階を終えて、新しいビジネスモデルでの展開を含めてビジネスを本格化させる段階に入ったことを感じさせた。

(2008年2月)

2008/02/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会