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IT利用による消費スタイルの変化

PAGE2008基調講演B2「IT化が生んだ日本人の新しい消費スタイル――Webビジネス成功の方程式」では、ブロードバンドの普及によってもたらされた消費者のIT活用と、それによって生まれた新たな消費スタイルをみていくことで、その消費行動とそれに対応した販促・販売行動の両面から、IT、Web上のビジネス構築・運用のための基本コンセプトを見出していきたいと考えた。
モデレータには野村総合研究所コンサルティング事業本部サービス事業コンサルティング部・上級コンサルタントの塩崎潤一氏を、そして実際にeビジネスを行っている側として、カカクコム取締役COO・安田幹広氏とアイスタイル代表取締役社長兼CEO・吉松徹郎氏を招いてセッションを行った。


モデレータの塩崎氏は、「NRI生活者1万人アンケート調査」に基づく『大衆化するIT消費』の紹介をした。ブロードバンドが日本人の消費を変え、ITを使いこなすことで新しい10の消費スタイルが生まれた。

・「マルチウィンドウ消費」=TVとパソコンの2つのウィンドウを同時に立ち上げている状態で、TVで気になった情報をパソコンですぐに検索をする。従来は、時間差で起こっていたAIDMAが同時に起こることが特長である。
・「アラート消費」=インターネット経由でアラートを条件設定することで、欲しいモノが出てくるまで待つ。たとえばリバースオークションなどが典型事例である。
・「テイスティング消費」=徹底して商品を検索・比較して購入することが当たり前になった。比較するだけでなく「お試し」や「サンプル」などで納得していく。
・「オーダーメード消費」=90年代にはPOSデータなどにより流通が消費者の情報を握り、メーカー主導から流通の製造業化に変化した。今後は消費者が自ら欲しいものを自分で作る、いわゆる「消費者の製造業化」が起きてくるだろう。
・「ロングテール消費」=ロングテール化することで、死に筋商品がネット上で生き残り、ニッチな商品がネットワーク経由で幅広く情報提供できる。
・「スパイク消費」=たとえばアルファブロガーに取り上げられて突発的に消費量が拡大する。TVなどでは、よくある現象だが、ネット上でも頻発してくるだろう。
・「スカイロケット消費」=スカイロケットとは、株価などが急騰することで、商品の普及が急速に立ち上がる。最近発売された家電商品などにその傾向が見られる。
・「一点豪華消費」=ITを駆使するからこそ自分の好きな分野にこだわることができ、高くても好きなものには金を出す。
・「使い回し消費」=気軽に購入し、オークションに出したり、必要なければリサイクルに回す。また自分でもリサイクル品を購入する。
・「自己責任消費」=情報源が多くなることで、自分で情報を取捨選択し、最終的に自分で判断する。今までの日本人には浸透しにくかった概念だが、今後強まっていくのではないか。

そして、賢くなったIT消費者を捉えるための企業側のマーケティングは、「どのタイプの消費者をターゲットとするかを明確にすることが重要」としている。つまり企業としては、上記それぞれの消費スタイルに応じた個別の戦略を練ることが必要である。


比較サイト「価格.com」を運営するカカクコムは、「ユーザー本位の新しい購買支援サービスを創出し続ける」ことをミッションに、売り手の立場ではなく、買い手のための「情報選択手段」として自社のサービスを位置づけている。

「価格.com」単体での月間利用者数は1200万人を超え、累計の書き込み件数は700万件を突破している。消費者の最適な購買活動のための口コミ・レビュー、最安値情報、データベースを提供している。PC、家電、カメラなどの印象が強いが、扱っている商材は、自動車から通信料金、生保・損保など多岐にわたっている。実際に販売をしているわけではないので、広告収入が主たる収益モデルである。

男性ユーザーが多く、30歳以上60歳未満のいわゆる可処分所得の多い層に集中していることが特長である。一番多い利用法は、「価格.com」で値段を調べて、実店舗に行くことかもしれない。量販店などに行って「価格.com」ではいくらだった、と交渉をするケースも多いらしい。

グルメコミュニティサイト、マンション検索サイトなど7つのグループサイトがあるが、今後はフルラインナップ化をはかり、グループの中で横断的な統合サービスを提供し、消費生活のあらゆるシーンにおいて、サービスの提供ができるように展開していきたい。またメーカー・企業側も口コミに参加する仕組みをもって、自由に使っていただけるようにしていきたいと述べた。


日本最大の化粧品口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」の会員数は95万人、ユーザー数は200万人、口コミ件数は540万件を数える。これは化粧品に特化しているとはいえ、女性雑誌の販売部数よりも多い数である。

膨大な消費者情報をデータベース化しているが、「@cosme」の場合、口コミは掲示板でなくあくまでもレビューの形式であり、1人1商品に対して基本的に1回しか書き込めない。また通常の掲示板のようにレスができない仕組みになっている。中立的立場で、そのようにして蓄積したデータベースを分析して企業やメーカーにフィードバックしていく。

消費者の声を必要としているのは、ユーザー(消費者)、広告代理店、メーカー、小売・ショップであり、データベースを軸に市場の変革を起こそうとしている。メーカーにとっては重要な「消費者の声」は、商品企画などマーケティング戦略を立てる上での重要な情報となる。メーカー横断型のユーザープラットフォームを実現しているため、たとえば自社製品を使っている人は他のどんな製品を使っているのか、メーカー間を横断した情報がフィードバックされる。

アイスタイルでは「@cosme」を使った、広告・プロモーションをはじめ新聞と口コミ、または中吊り広告と口コミのクロスメディア展開、口コミの分析によるマーケティングリサーチを行っている。またECサイト「cosme.com(コスメ・コム)」の企画運営も行っている。ネットから外の事業として「@cosme」のランキングをムック形式で出版したり、イベントを開催している。

他にも店舗の支援や販促ツール、またリアル店舗の運営支援など幅広い事業を展開している。リアル店舗の「@cosme store(アットコスメストア)」では、商品は消費者の声を反映させるもので、売場面積の5分の1くらいをサンプルの渡し場所として割いている。ランキングを反映させたり、棚割りもサイトで検索するのと同じような形態にしてあり、口コミサイトの実店舗化として、注目されている。


ディスカッションでは、「ITを利用することで変化した消費スタイル」について話し合った。「価格.com」には、9割以上が概ね口コミを信用しているというデータがある。価格情報を見てから口コミ情報を参考にすることが違和感なく行われて、当たり前のようになっている。CGMにより情報発信するユーザーが増えた。消費者側が調べやすくなったこともある。それはサイトを作る側の姿勢にも関係しているであろう。

また今後消費者はどうなるか、情報の使用方法に変化があるのか、などの議論があった。「消費者が情報をより多くもつ流れは、変わらないと思う。消費者だけでなく店サイドも変わってきて、サイクルが変わる」「100のものを3に絞り込むには、選択肢が多すぎて意思決定の手助けに店舗が必要だったが、IT利用により3まで絞り込んで、最終的にどれを買うかに店舗の力を借りる」という話があった。

「情報の主権交代」については、現実的にマスメディア広告からの流通のしくみを具体的にどう変えていくかがポイントであろう。より多くの人がネットで安心してアクションを起こしてもらえるようにすることが、ネット業界の課題である。ネットからリアルへ導き、消費者の声を見える形にしていきたい。

(2008年2月)

2008/03/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会