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現実味を増す自動スケジューリング

PAGE2008コンファレンスMIS/JDFラックE3「現実味を増す自動スケジューリング」では、いままでにない優れた自動スケジューラーを印刷業向けに初めて取り込んだMIS、および実際に自動スケジューラを使用した事例を紹介した。さらに、JAGATが提唱しているように、標準資料を使うことで、見積もり、原価管理、日程計画を統合したシステムができることを示すひとつの例を紹介した。
以下に、それぞれの発表の要点を紹介する。

セッションでは、まず最初に、JAGATからオリエンテーションとして、全体最適化のなかにおけるMISの役割と、標準資料(標準工数)を基にして、工程管理、原価管理、見積もり管理を統合するシステム構想を説明した。それは、これからのMISが持つべき機能にとっての中核でもある。

次いで、株式会社オリーブから、同社のMIS「プリントサピエンス」と自動スケジューラ「Jyoscheduler」を連携したシステムについて説明した。
この連携は、MIS側でスケジューラが必要とする情報を生成し、それをスケジューラに渡して日程計画を作り、その結果をMISに返してMIS側が持っている工程管理機能に反映させる形で行われるものである。JoyschedulerとMISとの連動において、プリントサピエンスがすでに持っていた機能は非常に有効で、それを持たないMISとの連携は難しいかもしれない。

従来、自動スケジューリングのアプリケーションがあったとしても、その機能は山積み機能に毛が生えたようなものであった。しかし、ジェイティ エンジニアリング株式会社(JTE)が開発し、既に一般産業に数百セットも導入されている「Joyscheduler」は、その機能において群を抜いている。
それは、「納期厳守」、「リードタイム最小化」、「段取り時間最小化」「滞留時間最小化」「外注以来回数最小化」といった条件を全て考慮して、それぞれを満たす「最適計画」としての日程計画を作成する機能である。もちろん、「納期厳守」を最優先する、あるいは「納期」のみで全てを決めるということもできる。そして、これらの計画策定を、印刷工程だけではなく、刷版、製本後加工工程を含めた工程全体を関連付けて行なうことが可能である。

このスケジューラは、上記のような優れた日程計画機能の上に、運用上でも他にない柔軟性を発揮する。計画された日程はガントチャートの形で表示されるが、もし、設備を変更する、あるいは日程自体を変更したければ、対象となる仕事の部分をクリックし、移したいところにドラッグ、ドロップするだけで変更ができる。当然、前後工程の予定も、日程計画を作るときに使うアルゴリズムによって変更される。個々の仕事の作業時間が不適切だと判断して、例えば30分延ばすあるいは短縮するという場合には、該当する仕事のチャートの長さを変えるだけでよい。
スケジューリングは、予め設定、入力された標準工数と機械性能、および各仕事の製品仕様と納期の情報によって行なわれる。それぞれの仕事で必要な情報は製品仕様と納期だけである。したがって、このスケジューラは、「納期が短すぎて日程計画など立てていられない」あるいは、「変更が多くて、とても対応できない」といった会社にはうってつけのアプリケーションである。

従来、印刷会社一般が抱えていた工程管理の問題とは以下のようなものであった。
・基幹システムと工程管理データが一元管理されていない。
・予定組を行うには、工数予測、作業効率を考えた作業順序などが必要になるので熟練された工務の人間が必要。
・急な変更などが発生した場合、製版/印刷/加工と複数の工程を跨っている為、一部工程の工期を変更した場合、その後の工程の工期も調整する必要がある。
・ 全工程/全受注の下版日と納期を考慮しての調整が必要。

したがって、一部の受注、一部の工期変更に伴い、工期を変更する事により苦労して立てたスケジュールにも無駄な空き時間が発生したり、無理に作業を押し込む事によって、無駄な作業時間が費やされたり、無駄な外注費が発生していた。
しかし、Jyoschedulerの自動スケジューリング機能をMISの工程管理機能と連携させることにより、上記の問題を解消、現場の作業の効率化と工務の負担軽減を可能になる。

株式会社高速は、埼玉に所在する150名のBF輪転機を主力設備とする印刷会社である。BF輪転機19台、加工機として帳合・加工・製本機20台、バーサマークを含むデータプリント8台、封入封緘設備4台を保有しており、生産現場として大規模である。
同社の仕事の80%はリピートものだが、工程管理に関しては以下のような問題を抱えていた。

・印刷工程以外のスケジュールはコンピュータで管理されていない。
・進捗管理が実施されてないため、各部署の担当者しか進捗が解らない。
・営業に対し、納期回答に時間が掛かってしまう。
・印刷工程の予定組に一日3時間以上掛かってしまう。
・ 営業からの納期、進捗の問い合わせが非常に多い。

そこで、ベテランの工務でなくても実行でき、しかも現状よりも高い生産性を実現するために、全工程を統合したスケジュールアプリケーションを導入した。Jyoschedulerを選んだ理由は、オラクルでの運用が可能、基幹システムとのインターフェースが可能、機能面で要求を満たせると判断したといったことのほかに、価格の安さもひとつの要因である。ちなみに、Jyoscheduler自体の価格は180万円である。
導入に当たっては、スケジューラの機能を十分に活かすために、優先順位の見直し、例外作業の洗い出しを行なうとともに、柔軟で容易な運用を可能にするために、手動での訂正を如何に行なうかといった点を検討、システムに盛り込んだ。

株式会社高速では、Jyoschedulere導入によって、以下のような効果があった。
・全工程のスケジュール管理が可能。
・スケジュール作成に掛かる時間が大幅に減少し、人員削減できた。
・全工程表示した中間予定表により、納期遅れが減少できた。
・予定・進捗が誰でも確認出来るようになった。
・管理板の運用で生産性が向上した。
最後の「管理板の運用」とは、スケジューラで出した予定と実際の作業とのズレ(作業の遅れ)を明確にし、その原因を集計、問題点を分析して改善を行うことである。
同社が「Jyoscheduler」を使いこなせたのは、原価管理をキチット行なうために、従来から標準工数を細かく設定していたという状況がある。

最後にWeb to PrintシステムのリーディングカンパニーであるPress-sense社から、同社の自動プロダクション・プランニングの機能を持つ「Press-sense Omnium」の機能を紹介した。基本的には、標準工数に基づいて、個々の製品の受注情報に対して原価計算、売価算出を行うとともにスケジューリングを行なう、というものである。
オリーブのプリントサピエンスも標準原価計算の機能をもっているので、同様の機能を持たせることは可能であろう。

いずれにしても、オリエンテーションでJAGATから提唱した、「標準資料(標準工数、)を基にして工程管理、原価管理、見積もり管理を統合するシステム」は、個々にはそれぞの重点は異なるものの、具体的な形としてすでに出来ているし、それに近い実際の運用も始まったことが、今回のセッションで示された。

(2008年3月)

2008/03/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会