社団法人日本印刷産業連合会では、デジタル印刷の現状、市場動向、将来傾向及び、今後デジタル印刷が主流になるための市場環境た技術的にクリアすべき課題、印刷時業者の将来に向けての対応などについて調査研究をおこない、「平成19年度デジタル印刷の技術と将来展望に関する調査研究報告書」として報告書を取りまとめた。
本調査では、デジタル印刷を実ビジネスとして展開するにあたり、多くの印刷企業が壁に突き当たっている実態も明らかになっている。報告書では、デジタル印刷の利用を促進するための課題と提言を「デジタル印刷のへの利用分野への課題と提言」として「ビジネス、オペレーション、システム性能、システム開発」の4分野に分けて各々の現状、課題及び提言をまとめた。
[現状]
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印刷ビジネス面で実際に取り組んでいる案件を見ると、顧客に効果が見える取り組みをしているところが非常にうまくいっている。
- ビジネスフォーム印刷業界では、オフセット印刷で事前に印刷(プレプリント)したものに、デジタル印刷機で可変データ出力を追加(追い刷り)することを中心とした、DPS、IPS事業が確立している。
- フォーム印刷のカラー化は、機械メーカーがインクジェット方式を中心にデジタル化に取り組んでいて、フォーム印刷業界では大いに期待している。
- 出版印刷、商業印刷の市場におけるデジタル印刷機の使用分野は、小ロット印刷、マーケティング関連印刷、可変情報印刷などがビジネスの入口となろうが、ここに取り組んでいる出版印刷や商業印刷の会社の多くは成功していない。
- 商業・出版の印刷企業の営業部門では小ロットのデジタル印刷について、「普通の印刷の仕事が10の労力をかけて100万円を上げられるのに、小ロットのデジタル印刷は100の労力をかけて10万円を上げる仕事だ」、しかし「やらなくていいという問題ではない」という認識がある。
- A3カット紙用途の機種については、世界の出荷台数の内、国内は数パーセントのレベルであり、北米や欧州には相当台数が出荷されている。なぜ、日本の出荷台数はそんなに少ないのだろうか。
- 海外には個人レベルでも積極的に仕事を取る人が多いことなどもあるのに対して、日本では分業体制が進んでいる分、システムを1台入れて全部こなすような文化がないのかもしれない。
[課題]
- 小ロット印刷では、単にプリンタ出力するだけだと、どんどん単価が下がっていく状況なので、何らかの付加価値をつける必要がある。
- アメリカはダイレクトメールが日本の7倍近くも配達されるが、印刷業あるいは日本のマーケティングの成熟度が追いついていないのではないか。ここが追いつかない限りは、デジタル印刷機が普及していくことはないかもしれない。
- 付加価値印刷ということでデジタル印刷技術のメリットを顧客にどう提供できるのかが問題で、機械を一台入れただけでは何もできないなという実感を持っている。デジタル印刷機による小ロット、個別に個人に送るような販促物に関しては、なかなかまだ難しいのかなというふうに感じている。
- デジタル印刷機は、従来の印刷技術の上に新しいビジネスチャンスを開く装置であると認識しているが、従来の印刷生産と同様の品目を顧客に提案していくのでは利益が確保できない。単純な印刷を大量に刷るのであればデジタル印刷機ではなく、オフセットなど有版の通常印刷になる。
- 商業・出版の印刷企業では、波に乗れば大きなビジネスになるし、関連する仕事へひろがるだろうが、デジタル印刷の単体で収益性の高いビジネスが見出せないでいる。デジタル印刷専門のチームを持っている印刷企業を除くと、一般の中小印刷業者の営業マンは個々に売上げ目標で評価をされるため、一件あたりの売上金額が小さいデジタル印刷のビジネスを、採算を度外視してでものめり込めるようなチームがないと営業活動が難しいという課題に弊社は直面している。
- デジタル印刷には小さなアルバムをつくるなどのニーズは絶対あるとは思っているが、仕事として考えたときに営業力をかけることに対してやっぱりペイしないというのが一番感じる部分である。
- 小ロットに関しては結婚式でも、例えばワインのボトルのラベルのようなものもあるけれども、どう販売していくか、印刷企業としての営業戦略が問われてくる。
- 小ロットでは納品方法の課題がある。一部作りのアルバムやWeb to Printで受注した名刺のような小ロットの印刷物の仕事では配送費用のコスト比率が大きいので、B to Cのようなモデルではビジネス化が難しい面がある。
- 小ロットのラベル印刷では、リピート性のある仕事と単体の仕事とで考え方が少し違ってくる。リピート性のある仕事では、版代のコストは一回目の発注分しか掛からないで、再版以降はコストダウンできる。デジタル印刷でもこれに見合うコストにできるのかと思っている。
- 印刷の専門技術がわからないと印刷物に求める使用や品質が得られないが、それを一般ユーザーに要求するのも課題ではないか。
- ビジネスモデルとデジタル印刷機の設置が同時に可能であることが望ましいし、単体で利益の出る仕事が見つかれば一番ハッピーである。
[提言]
- 規格開発、商品開発的なところで利益を上げるような提案ができれば、デジタル印刷は非常に花開いてくるのではないか。
- 受注の仕組みも含めて商品開発という考え方で、ある程度パッケージ化を考える。個人向けの本当の小ロットを受注する仕組みの開発である。
- デジタル印刷の付加価値は、各印刷企業のアイデアや培ってきた技術・ノウハウを生かしていくところだ。印刷機の前工程と後工程、Web to Printや、データベース組版のような取り組みがある。後工程は、加工機を含め配送までをどれだけサービスできるかと、ビジネスモデルになるかをよく考えていく必要がある。
- フォーム印刷ではすでにデザイン、グラフィックスを中心にしてお客様に印刷物で色々提案している。郵便配達するダイレクトメールであれば、配送コストでメリットが出せるように複合的なサービスに力をいれている。
- さらにダイレクトメールでは、どれだけリピート率があるかを顧客に提示できると(ROIを示す)、おのずと発注量もふえてくるので、このような方向でも取り組んでいく必要がある。
- シール・ラベル印刷は可変データの印刷が今後かなり増えていくと思う。最近は管理用のバーコード、特にGS1Databarで賞味期限などを情報として表示する傾向が増えてくる。
- 単体で儲かる仕事で大きな利益を生むジョブを探す。解決策としてはJDFを利用して発注者に仕様を先に渡しておいて、受注後は直ちに出力データが作成できる。いわゆるWeb to Printによるデータドリブンプリントを、仕組みとして提供できれば利益が出せるのではないか。
- 小ロットの印刷物は配送費用のコスト比率が大きいのでB to C型ではビジネス化が難しいが、デジタル印刷で名刺の受注を効率よく行なっている印刷企業ではB to B to C型にして配送先を客先の一ヶ所に集中させ、そこから先は顧客の配送システムを使うような方策で成功している。
- デジタル印刷では、売上単価の少ないロットのJOBを集める、今までの印刷営業スタイルとは違うビジネスモデルを意識しなくてはいけない。
- Web to Printは営業マンが最初のきっかけを作り(例えば初版作成など)、その後、インターネットを利用してもらう等のステップで顧客に理解頂く。最終的には営業レスが理想である。
- ハイブリッド印刷では、どのような工程を選択するのと一番コストパフォーマンスが良いのかをコントロールできるプリンティングディレクターなどが必要である。そこにデジタル印刷を融合することで発注元が魅力を感じると、新しいビジネスの可能性がでてくる。
- 可変データの扱いでは、どのような前工程を使えば一番合理的なのか、コストが少ないのかなどのディレクションができる人材やスキルが非常に重要になってくる。このようなスキルを獲得しなければならない。
- デジタル印刷機だけで大きな利益を生まなくても、受注を継続する手段として発注元との関係をつくる戦略的なジョブを実践する。
- 人材が重要であり、特に販促系や商印系では顧客と一緒にPDCAサイクルを回すようなやり方になる。営業と前工程のシステム担当者が一緒になって顧客に提案して、PDCAを継続させることによって顧客をガッチリつかむ取り組みが必要である。
- 日本にあうようなビジネスモデルを、メーカー側からも提供する必要がある。
(2008年6月)
◆出典:『平成19年度 デジタル印刷の技術と将来展望に関する調査研究報告書』
(平成20年3月) 社団法人 日本印刷産業連合会
※報告書の全文は、
日本印刷産業連合会Webサイトに掲載されています。
ALPS協議会ページでは、デジタルプリントに関する情報を掲載しています。