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drupa2008報告

印刷及び印刷機材業界最大の展示会drupa2008(国際総合印刷・メディア機材展)が、5月29日に開幕し6月11日までの14日間、ドイツのデュッセルドルフメッセで行われた。私もずいぶん長いことドルッパを見てきたが、純粋に見学者として訪れるのは今回が初めてであり、JAGATの研究調査部長という立場は意識しながら個人的な感想もコメントしてみたい。

DRUPA(drupa)とはもともとDruck und Papier(印刷と紙)の造語であり、本来は大文字で表記されていた。それがミレニアムにprint media messe(印刷メディア展)と位置づけが変わり、drupaと小文字で表記されるようになったのである。簡単に歴史を振り返るとDRUPA1995が「CTPドルッパ」、drupa2000が「デジタルドルッパ」、drupa2004は「JDFドルッパ」、そして今回のdrupa2008は「インキジェットドルッパ」というように毎回のドルッパにはその時代を象徴するようなキャッチフレーズが付加され、印刷の歴史そのものを表しているという次第である。

drupa2008は小文字になって第三回目に当たり、52ヶ国から参加した1,971の出展者が全体で100億ユーロ以上に相当する取引契約が結ばれたと公表している(上々の出来だと思う)。138ヶ国から約391,000名の来場者が、そして84ヶ国から約3,000名のジャーナリストが、デュッセルドルフメッセに集まった。外国からの来場者の割合は、4年前の前回開催時よりも4%増え、全体の59%ということであった。ただし今回はチベット問題の影響か?中国人の来場者が極端に減り(色々うわさは聞いているが、定かではないのでノーコメントにしておく)、その代わりにインド人がとにかく目立ったdrupa2008であった。いつものことなのだがdrupa開催期間中の周辺都市はどこもかしこもdrupa特別価格となりビジネスホテルクラスでも5,6万円が相場となり、周辺都市で若干安いホテルを探すのが(お金のない)日本人見学者の通例となっている。私の場合はPhotokina(フォトキナ)というこれまた世界最大の写真機材展を行うケルンメッセ併設のホテルに宿を求めたところ通常料金でOK、その分毎日一時間程度の行程を要するが色々考えるにはちょうど良く、久々に「印刷の未来」や「デジタル化の意義」等をじっくり考えられた良い機会であった。それにしても、そのホテルに滞在するインド人の多いこと、私以外はインド人だけではないか?というくらいであった。ケルシュ(ケルンの地ビール)を飲みながらインドの印刷関係者と話したが、中国人に対抗できるまで成長する日も遠くないのでは?と強く感じてしまい、貴重な体験を出来たことも安ホテルのおかげだった。

今回は私にとっては初体験、ジャーナリストとしての参加であったが「drupaという展示会の至れり尽くせり」を思い知らされてしまった。世界四大印刷展示会が「一強突出」時代になりつつあるのが現実だが、今後もこの傾向が続くことを予想させるには十分であった。


図1:ドルッパ会場地図。1,2号館はハイデルの定位置


図2:南入り口

図3:Uバーン駅から入る北入り口。CANONの宣伝だが、紙にこだわるdrupaである。



ハイデルに象徴されるアナログ印刷機の未来?

さて本来の展示会の方だが、(Heidelbergのためのdrupaと言われる通り)メッセの一号館二号館はHeidelberg社の定位置なのだが、今回も御他聞に漏れず定位置での出展となった。その代わりデジタル関連のソリューション展示は一切なし(CTP位は有りますよぉ)、オフ輪もなし、デジタル印刷機もなしの展示で統一している。日本人から見れば異論を唱えたくなる方もおいでかと思うが、欧米、特に欧州ではすこぶる評判が良い。ワタシ風に解説を加えればこうなる。

「デジタル化は避けて通れない」それに迎合するのも一つの策だが、「デジタルに侵略されないところを伸ばすのも一つの生き方」である。だからハイデルはプリンタやPODが得意としている分野よりも、印刷ならではの分野「VLF」や板紙等の「パッケージ」での品質や生産性を確立してしまおうというわけだ。初のVLF機「XL145」「XL162」など、ハイデルブースではこのような決意を汲み取ることが出来る。印刷業界ではダントツの名声やポジショニングでのこういった「印刷の未来」への意思表示には欧州の人間なら賛同するのだろう。とにかく評判が良い。私が話したほとんどの欧州人がこのような印象を持っていた。だからmanrolandやKBAなどワタシテキには見るべきものが多かった(KBAなど評価したい)が、「ハイデル追従」というように見る向きが欧州人には多かったようである。紙のソリューションに徹底的にこだわった展示ということだ。

日本の印刷機メーカーもオフ輪等の展示で集客していたが、一様に紙のソリューションにこだわっていて、「デジタル vs. アナログ」の構図かと思いきや?不思議と不可侵領域のバランスを保っていたのは、デジタルが当たり前になって印刷関係者も大人になってきた証かもしれない。


図4:ハイデルブースは椅子もダンボール箱

図5:ハイデルブースはいつもながら立派。アルバイトの若い女の子も美人ぞろい。


確かにインキジェットdrupa

さてdrupa2008のタイトルになっているインキジェットだが、今回のdrupaで新設された8a号館と8b号館がそれを如実に象徴している。8a号館はHPを中心としてCANON、AGFA等の大メーカーが展示しており、8bの方は富士フイルムを中心としてFUJI XEROX、大日本スクリーン等のメーカーが終結していた。メッセ側の意図でもないだろうに、見事にグループ化が演出されており、デュッセルドルフメッセの最南端に位置するハイデルベルグと最北端のデジタル8aグループ、8bグループが意味深であった。深というより開けっぴろげであるが、今後の印刷業界にどういう影響を及ぼすか非常に興味のあるところだ。

8a号館の中心になるHPブースはとにかく何から何まで揃っていて少々辟易してしまうほどなのだが、ここまでやるとE-Printもまったく違う機械の様に見えてしまうのは不思議なものだ。HPなりのリファイン(給紙やギヤムラ改良等)はあるようだが、売れる動機付けはやはり価格といわざるを得ないようである。旧Scitexマシンなど何から何まで勢ぞろいだが、日本の印刷業界の方に一番印象的だったのはインキジェットのオフ輪(正確にはWeb=輪転)ではないだろうか?今回のdrupaで印象的なのが加湿器等の環境コントロールの周辺装置がアナログ印刷機のブースでは目立たないのに、デジタル印刷ではやたらに目に付くことだ。強制排気ダクトも半端ではないものが付加されている。HPでは参考出品ながらHP Inkjet Web PressというDOD(ドロップ方式、必要なときだけインキを飛ばすタイプ)タイプをHPの主張する「Print2.0」のベクトルに沿って展示していた。4色フルカラー、600×600dpi、最大用紙幅30インチ、速度は122m/min、レターサイズは2,600ページ印刷できる。もちろん新聞もOKである。(理由は定かではないが、展示機は36インチサイズ)日本の印刷関係者はこの機械を見て様々な感慨を抱かれると思うが、印刷会社が買う機械がいよいよ揃ったと皮膚感覚で感じる経営者の方も少なくなかったのではないかと思う。


図6:8a号館の中心、HPブース。

図7:HP Inkjet Web Pressの勇姿。



図8:HP Inkjet Web Pressの大きさを女性と比べていただきたい。

図9:8a号館にはCANONも大きなブースを構えている。


図10:8a号館にはAGFAもインキジェットDotrixを展示。



8b号館は緑色?

8b号館の中心は富士フイルムというイメージに会場の造りがなっていた。(これは誰の意図か?定かではないがそういうイメージは持ってしまう)その中で中心展示が思わせぶりに見せていたJet Press 720といわれる参考出品印刷機で、名称も仮称である。給紙系統は印刷機を連想(というより見る人が見れば一目瞭然?)させるものが有り、この辺でもグループ化的なものは感じてしまう。もっとも大事なのはスペックよりは、次世代に向けてインキジェットヘッド(Dimatix)やインキメーカー(セリコール)をM&Aで準備しているということが評価ポイントだ。

XEROXはアクシデントもあり不運だったようだが、デジタル印刷関連のソリューションをこれでもか!くらいに見せていた点が注目ポイントだろう。Gelインキを評価する人もいたが、これは単なる発表会程度のものと考える方が良い。(ソニーテクトロのシンクロスコープ好きの筆者には懐かしかったが・・・)アナログのハイデルに対して、デジタルのソリューションはXEROXという感じであった(やっぱり、この分野での一日の長)。それにしても、HPがあれだけ工場ライクなのだから、XEROXもオフィス仕様としないで排気ダクトもしっかり付けて工場的に展示したほうが良かったのでは?とも思ったりもする。

今回デモで一番しっくり来たのが大日本スクリーンで行われていた新聞サテライトデモである。朝日新聞をリアルタイムで日本からビットマップで送ってTruepress Jet 520二連で表裏を印刷しているのだが、他にもヨーロッパと北米の7紙でデモを行っていた(欧米系はPDFで送付)。細かいことを言えば墨のベタのノリ等色々あるが、インキジェットと新聞の相性の良さは特筆すべきものがある(と筆者は思っている)。インキのセットを考えてもインキジェットは新聞向きだ。富士には月見草、新聞にはインキジェットが良く似合う・・・。もちろんHPなど他のブースでも新聞印刷はやっているが、あくまで新聞オフ輪の代替であり、このデモのようなPOD的なものとは少々異なっている。Truepress Jet 520も決してコンパクトな機械ではないが、「300部、紙の新聞が欲しい」というニーズは必ずあるわけで、私などは新聞好きの英連邦国民相手にロンドンヒースロー空港あたりで航空機向けサービス、トランジット顧客向けサービス(VIPラウンジなどでは受けそう)など始めたいくらいだ。こういうデモを作ったスタッフのセンスは評価できるし、SCREENはRIP技術等では特筆すべきものを持っていると思うが、材料等の供給、ヘッドの調達、この辺が今後の課題になっていくだろう。


図11:富士フイルムのブース。デモはJet Press 720。

図12:富士が買収したインキジェットヘッドメーカーDimatix。


図13:SCREENのTruepress 520による新聞デモ。

図14:新聞デモ。


その他デジタル印刷機で目に付いたのは5号館のKODAKで、今回私が注意して見た展示物で一番納得させられたものであった。コンティニアスタイプのインキジェットを知り尽くしている同社ならではの説得力ある展示だったと思う。参考出品ながら非静電型のストリームコンセプトプレスは風圧コントロールということだが、サンプルを見る限りは素晴らしい。インキの自由度も上がり、額面どおりなら競争力のあるマシンといえるだろう。 また9号館のコニカでは広色域の電子写真方式が参考出品されていたが、これについては今後を見守りたい。目に付いたのは単色機ながら表裏の見当性の良いbizhub PRO 2500Pで、OceのOEMということだが、デジタル印刷の表裏の見当性に辟易している方には驚きと思う。


図15:立派なKODAKブース。

図16:演出満点のKODAKデモ。



図17:風圧コントロールによるインキジェット。

図18:Konicaの単色両面機bizhub PRO 2500P


その他目に付いたものを列記しておく。まずはLEDインキ、UVに比べてランニングコスト的なメリットが考えられる。東洋インキブースでインキを、リョービブースで印刷機を展示していた。KODAKでは200線強の高精細網点可能なフレキソシステムが展示されていたが、欧米では朗報であろう。また今回からMANの出資率が下がったことからロゴが小文字のmanrolandになっていたのが新鮮だった。外の屋台で「アイネブルスト(ソーセージ一本)を頬張り、ビールを飲む」風景は相変わらずで、簡易ビーチも健在である。


図19:東洋インキのLEDインキ。

図20:リョービのLEDインキ用印刷機。



図21:KODAKの高精細フレキソ。

図22:小文字のmanroland。



図23:陽気なおせん達(三菱重工)。

図24:ドルッパ名物のビーチ。



図25:隣町のケルンメッセ。フォトキナで有名。


肝心のトランスプロモの話題には敢えて触れていない。というのは今までの商業印刷の延長線上でトランスプロモを云々しても絵に描いた餅でしかないからだ。しかしインキジェットのコストはトランスプロモも現実のものにしているのは事実だ。通常印刷の120%のコストなら現実のものになるかもしれない。そしてトランザクションを生業としているBF業界にとってはチェックというのは納品するための当たり前のハードルであり、成功する可能性も十分ある。この裏には商業印刷の延長でトランスプロモを考えても成功する可能性は低いということであるが、印刷物の一つのジャンルとして一時代を築く可能性はある。 冒頭に書いた「アナログ印刷の強み」と合わせてインキジェットのコスト(安いということ)は棲み分けの地図をよりハッキリさせてくるだろう。次のdrupaまで待たずにこの棲み分けは真剣に考えていかねばならない。

JAGATでは単なる新製品解説ではない。この辺の議論を含めたテックセミナーを7月29日に予定している。私がモデレーターとして意義深い討論に持ち込むつもりなのでぜひ御参加いただきたい。

研究調査部長 郡司秀明(2008年7月)

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本セミナーではdrupa2008の報告のみならず、drupa2008に見られる印刷テクノロジー動向とその背後にある印刷の未来について、ディスカッションと考察をおこなう。

2008/07/02 00:00:00


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