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収益性回復に、魔法の杖はない

全日本印刷工業組合の経営動向実態調査によれば、中小印刷企業の営業利益率平均は2006年度で2%ぎりぎりのところまで落ちた。2007年度には用紙コスト上昇があり1%台に落ちたことはほぼ間違いなく、2008年度はさらなる値上げもあり、価格転嫁がなければ1%を切る可能性すらある。
営業利益率1%ということは、従業員数50名、年商が10億円の印刷会社の営業利益は1000万円となり、一般的には税引き後利益が500万円程度に過ぎないということである。とても、将来に向けた投資ができるレベルとは思えない。平均値が1%ということは、当然、かなり多くの企業が赤字になっていることが想定される。大きなまとまりとしての「業界」が成り立ち得なくなるような危機的状況である。

印刷業界における収益性低下の構造的問題の最大要因は供給力過剰による価格低下だが、この状況がすぐに解消する見込みはない。技術革新が止まることなく進む一方で、印刷市場における今までの牽引役であったチラシ、DMそして近年のフリーペーパー市場の成長が鈍化あるいはマイナスに転じているからである。2007年度はその供給力過剰が一段と進んだことが具体的データとしても確認された。
しばらく前までは、大きな利益を出せる仕事があるから固定費を賄える仕事なら受注しておいた方が良いといった考えも通用したかもしれない。しかし、今の状況になれば、利幅の大きな仕事ほど失う可能性は大きい。ある中規模印刷企業の経営者は、「わが社では粗利目標を18%前後に設定しておりそれ以上の粗利は取らないようにしている。何故なら、そのような仕事は間違いなく他社に取られるからだ」と述べた。昔から言われる商売の常道であろう。

いずれにしても、他社の安値受注に愚痴をこぼしつつ、自らも底なし沼にはまり込む状況から一刻も早く脱却しなければならない。最初にやるべきことは、対策を立てるためのキチットした判断根拠を持つことである。具体的には、顧客別、商品別に「利益」を把握することであり、コストダウンのためには部門別の「利益」を把握することである。実際にそのようにしたほとんどの企業で、思っていた状況と実態の差に驚くことが多い。その上で、顧客と価格交渉に臨むなり、取引継続自体を検討することも必要になる。だからこそ、キチットして事実把握が不可欠になる。社内的には採算性の悪い生産現場を見出し、具体的なコストダウン策を打ち出し実施することである。

過去の印刷産業は、製品の原価を知らずに商売しても利益を出すことができた実にハッピーな業界であった。それだけ豊かだったということだが、そのような状況はとっくに過去のものになった。このことは多くの印刷企業、印刷人が10年以上前から言い始めたことだが、いまだに大半の企業では、製品を作るのにいくら掛かるかわからない「どんぶり勘定」のままである。印刷機が回っていれば利益が出る、時代はとうの昔の話であり、1年立ってからの結果で利益の状況を知るような管理ではとても収益性改善はできない。
手法は「原価計算」だが、会社全体の期間原価を把握するだけでは不十分で、「個別原価」を把握することが不可欠である。そのためにはまず部門別の原価把握が必要になる。また、「事後原価」(個別の仕事ごとに実際に掛かった作業時間にアワーコストを掛け合わせて算出)だけでは不十分である。実態把握と当面の対策には役立つが、継続的な改善のためのPDCAが回せないからである。目標値としての原価の設定が必要になる。
いずれにしても、「利益」把握に基づく管理がなければ、収益性回復の途に着くことも出来ない。

来る7月24日(木)に、印刷企業で利益管理をキチット行い、経営に生かしている企業の成功事例を紹介するセミナー「適正利益を確保する管理手法と成功事例」と開催する。

(2008年7月)

2008/07/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会