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中央公論新社におけるオンデマンドブックビジネス

中央公論新社は、1999年中央公論社から出版権などの営業譲渡を受け、読売新聞グループの一員として再スタートを切った。2001年から内外の名著・古典が新書サイズで読める「中公クラシックス」の刊行に続き、ジャーナリスティックな視点の「新書ラクレ」の毎月刊行も始め、良書路線を軸に多彩な出版活動を展開している。04年にはパソコンや携帯電話で楽しめる「Web小説中公」を創刊、05年には「婦人公論ブログ」を開設した。 現在では、電子書籍、オンデマンド出版も手掛けており、オンデマンド出版事業における現状と展望について、営業局 特販部 部長 堀間善憲氏に伺った。

オンデマンド出版を手掛けた経緯

当社は、1999年に読売新聞グループの一社として再出発するにあたり、中央公論社時代の業務の見直しを行っていた。従来、中央公論社では、高額の全集や美術書を扱い別会社で販売を行っていたが、中央公論新社として事業を再出発させるにあたり、そうした高額書籍のコンテンツと図書館や学校、研究機関への販売ルートを生かした展開を検討していた。そこで、別会社で販売していたものを一本化して本社で販売することとなり、特販部として活動を継承することとなった。

中央公論社から事業を継承するにあたっては、本来価値の高い高額書籍のニーズがありながらも在庫がないなどの状況や、せっかく価値がありニーズもあるコンテンツを持ちながら、通常の印刷で重版するにはコスト的に見合わないという課題があった。 そこで7年ほど前より、オンデマンド印刷を採用し、絶版本など過去の貴重なコンテンツをよみがえらせて、販売ルートに乗せることにした。

オンデマンド印刷により書籍の価値を再現

オンデマンド印刷で最初に作ったのは、「日本の詩歌」全30巻別巻1巻(写真1)である。図書館流通センター(TRC)と提携し、公共・学校図書館に納品する目的で出版したが、これは、日本の近代以降の詩歌を集めた日本で唯一の大型全集である。1970年代に出した全集で、文庫にして販売もしていたが、絶版となっており、親本もないという状況であった。それに、通常の印刷ではある程度のロットが必要になり、それだけで販売するにはリスクがあると考え、受注のある時に出版できるオンデマンド印刷で出版することにした。「日本の詩歌」以外にも「謡曲全集」(写真2)や「江馬務著作集」(写真3)なども人気が高い商品である。

オンデマンド出版のワークフロー

現在、オンデマンド印刷は外注しており、保存本から復刻する場合はページごとに撮影・データ化するか、または同社で新たに(主に文庫製作時に)データ化したものを流用している。いずれもデータは、最終的には外注先に保存されるようになっている。受注から納品までの時間は、ソフトカバーで1週間、ハードカバーで2週間掛かるが、それは製本の方法による違いである。販売については主に図書館や学校、研究機関に対して、チラシによる販促を行う。

オンデマンドとはいえ、急な注文もあるため最小部数(10冊程度)で在庫を持つようにしている。発注から納品については、一部の好事家から書店で注文を受けて販売する方法と図書館など直販ルートで注文を受けて宅配便などで納品する方法とがある。

新たな収益源としてのオンデマンド出版

現在オンデマンド書籍の価格設定は、制作コストに流通マージンや宣伝に関わるコストを考慮して決定している。 返品の恐れがある委託販売方式は取らず、基本的には注文を受けての製作なので、リスクを生まないようになっている。高額な部類の書籍なので、大部数を見込んで印刷して売るよりも、着実な受注先がある現在の方式が適切である。

オンデマンド出版の採用により生まれたメリットは、顧客にとってはこれまで手に入らなかったものが手に入り、当社にとっては、既存コンテンツを再活用して売り上げにも貢献できる事業になってきたことであろう。現在ではオンデマンド印刷開始から、合計で350セットほどを図書館に販売している。他社でもオンデマンド出版を手掛けている出版社はあるが、現在の取引先のデジタルパブリッシングサービス(DPS)の売上実績で見た場合には、この事業が上位5本の指に入るところまできている。 ベストセラーになって大きな売り上げにつながるというものではないにしても、売れる見込みの立たないものを大量に印刷するなどということがないためリスクがなく、着実な収益を生むこともメリットである。

オンデマンド出版の可能性

中央公論新社になってから、事業の再建も果たし、顧客もビジネスも定着してきたため、さらに事業の拡大を検討している。現在ではオンデマンド書籍の種類は限られているが、全集も点数が増え、画集なども出版するようになってきたため、これからは、こうした新しい高額のコンテンツの販売にも応用していけそうである。また、オンデマンド印刷の1点1点異なる印刷物を作る機能を生かせば、個人向けのオンデマンド書籍の販売も可能性がある。現在はモノクロのコンテンツを中心に展開しているが、今後オンデマンド印刷のカラー印刷技術が、高精細写真への採用レベルまで上がり、印刷コストが販売価格に見合うようになれば、カラーオンデマンド印刷にも取り組んでいきたい。

(『プリンターズサークル』2008年7月号より)

2008/08/04 00:00:00


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