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drupaに見る新潮流

drupaという展示会は、単なるトレードショーではなく確実に近未来の印刷業界を示す羅針盤のような働きをしてきたが、一番象徴的だったのは1995年の「CTP DRUPA」であろう。このときを境にして見事にフィルムとの決別が現実のものとなったのである。

さて今回のdrupaのお題は「インキジェットdrupa」である。本当にそうなのか?他に見るべきものがあったのか?2008年7月29日のJAGATテックセミナーで検討したので御報告させていただく。drupa報告といってもメーカーをはじめとして多くの報告会は終わってしまっているので、単なる報告ではない近未来の指針になることに注力して企画したセミナーである。

JAGATの相馬参事からはデジタル印刷の総論が示された。インキジェットdrupaはまさしくその通りなのだが、参考出品も多く(図-1)、電子写真方式の方により完成度のあるものが見受けられたということである(図-2)。そして印刷機を用途ごとに整理したものが図-3となる。相馬参事からはコスト計算された試算表も出され、「今後多品種小ロット化が進んだとき、今までのオフセット印刷では無理が出てきますよ」という問いかけは十分説得力を持っていたと思う。(詳細は、テックセミナー出席者限定ということで御勘弁いただきたい・・・)


図1 インキジェット

図2 電子写真



図3 デジタル印刷機


アナログ印刷及び後加工は株式会社サンエー印刷の吉川取締役にお願いしたのだが、デジタル印刷と合わせて後加工機器の様変わりを分りやすく紹介いただいた。例えば図-4のようなSquareBackのような簡易な製本が欧米では一般化しており、デジタル印刷との相性も特筆すべきものがある。これは私見であるが、私がインキジェットdrupa以外の名前を今回のdrupaにつけるとすれば「後工程drupa」だ。それも重厚長大なものではなく、アッサリ・スッキリ・簡単にくっ付いてしまう後加工機である。JDFの重要性が益々高まっていくという見方もあるが、別の見方をすればそんな小難しいことは言わずに「とにかく折り機をくっ付けちゃいましょう」と手軽にインライン化してしまうというノリである。もっとも吉川氏が詳細に紹介してくださったインライン化の方向性はデジタル印刷だけではなく、アナログ印刷機にも観られるところである。(図-5)一つの例であるが、ミューラーマルティーニからデジタル印刷+製本ラインのワンマンオペレーションマシン(ライン)が出展されていたが、これなど価値観の世界観の違いを思い知らされる。図-6,7をご覧いただければ良い。


図4 スクエアバック

図5 インライン



図6 ワンマンオペレーション

図7 無線綴じライン


しかしこれにもアンチテーゼは存在する。生産性の違うものをドッキングして良いものか?つまりDI機(CTP on Press)のように一番お金を稼ぐ印刷工程を止めてCTPの版を焼くことに意味があるのか?ということなのだ。くどいが、生産性が異なる機械をドッキングさせる意味があるか?ということである。確かに印刷の価値観で考えていけばそうなのだが、POD、デジタル印刷の価値観では少し違っている。手前勝手な論理かもしれないが、これくらいのスピード、生産性でも良いような印刷物を探すのがデジタル印刷ビジネスなのだろう。・・・と思う。

さてさて、テックセミナーに出席された先生方は口をそろえて「インキジェットdrupa」というよりは「PODドルッパ」なんだ。と力説されていた。しかし、私個人としては力説されればされるほどインキジェット有利に思えてきてならないのだ。そりゃ電子写真方式はデジタル印刷を引っ張ってきた牽引車であり、爛熟期に入りだしている信頼できるシステムである。HPインディゴのように価格自体を見直して生産機足るコスト計算が出来る機械も多くなりつつある。国産電子写真方式はコスト面で強いメーカーも少なくない。しかしよくよく考えてみるとコストが優先であり、いくら政策的な価格体系にしても電子写真は方式自体に金がかかってしまうシステムなのである。この点ではインキジェットはまだまだ未来があるといえる。要するに未知数部分が多いのである。モデレーターとしての私の結論は「未来がどれくらいあるか?」という問に対しては、インキジェットに軍配が上がる。要するにそういうことなのだ。

しかし、そんなことを匂わせば、とたんに跳ね返ってくる質問が「オフセット印刷が全てインキジェットに置き換わってしまうということですか?」となる。こういう質問が来る限りデジタル印刷に移行していくのは難しいのだが、現在のオフ輪のやっているような仕事は今後少なくなっていくだろうということは容易に想像がつく。マスというマーケットはことごとく縮小し、今まで枚葉機で印刷していたところがもう少しロットが小さくなってデジタルに置き換わっていくのだろう。先程、マスがなくなっていくという、マスの中のいくつかがオフ輪から枚葉機に変わっていくのだろう。HPのWebインキジェットという大量処理もあるのかもしれないが、これは今後の動き、次世代の話である。吉川氏が、「ウチも次期drupaにはPOD印刷機を考えなくてはいけないだろう」と漏らされていた。すかさず「どんなことに使われます?」と私が聞いたら「そうだなぁシルバー対象かなぁ」ということであった。次期drupaは2012年ということだが、私のイメージは2010頃に考えないと遅れが後まで引きずるのではないかなぁ??などと考えている。デジタル時代に遅れを取って苦労したところは少なくないはずである。

どういうビジネスをするか?まずそれを考えて、それに合った(デジタル)印刷機とソリューション(例えばWeb to Print)を用意して、望む。簡単に見えるが、それに勝るビジネス手法はない。「この機械を買ったら成功する」などとは努々考えないでいただきたい。「みんなで成功していたのはマスの時代だけの特別なことだった」と肝に銘じなくてはいけない。普通は「努力したもの」「先に切り開いたもの」だけが成功者の勲章を得られるのだ。こちらが普通であることを忘れてはいけない。

(2008年8月 研究調査部部長  郡司秀明)

2008/08/01 00:00:00


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