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印刷品質のための数値管理

印刷状態の数値化は,印刷機の安定性確保のために必要になってくる。1つのロットの中で刷り出しから刷了まで安定して刷るためには,測定機を使っての確認が必要になる。そういった印刷品質の安定化のための話を(株)きもとの中込浩之氏の話から紹介する。

視覚から数値へ
数値化の目的は,印刷機の安定性の確保である。1つのロットの中で同じ物を大量印刷するには,やはり安定性が必要になる。そこで,使用している印刷機の状態を把握するために数値化する必要がある。刷り出しから刷了までをどういうコンディションで,どういうデータで刷ったら安定して刷れるのかを測定機を使って確認する。そして,それに合わせた校正刷りのコンディションを数値化することによって,ベタ濃度やドットゲインがどういう状況になっているのかがきちんと把握できる。

実際には,校正刷りの場合はベタ濃度を見ながら印刷することが多いので,日常している仕事がどのくらいのベタ濃度の管理幅に入っているかによって,ドットゲインの幅がどれくらい出ているのかを数値化していく方法でいいかと思う。
基本的には実際に印刷する印刷機と校正刷りの機械の間にどのような差があり,どの状態で校正刷りを作ると,本機では安定して印刷できる状況にあるのかを確認するための数値取りである。

最終的には,スキャナ分解のデータの見直しという方向性になるであろう。それによって,本機で安定して印刷できる印刷コンディションを確保し,次に校正刷りを見本として本機が刷れるような校正刷りを確保する。そのときに印刷物の見栄えの多くの部分は製版部門で吸収するのがセオリーではないかと思う。

数値管理のアプローチ
本機印刷のベタ濃度とドットゲインとトラッピングなどの現状把握の設定をし,数値管理のアプローチとする。ベタ濃度よりCMYKのドットゲインのバランスを先に確認して設定するほうがよい。ベタ濃度を使うとインキメーカーの種類や機械コンディションにより,中間のドットゲインのバランスが合わないケースもあるので,実際の仕事でそれがどうなっているのかを確認したほうがよい。ドットゲインのバランスは基本的に4色ほぼ同じか,あるいはスミは2〜3%高くても,CMYが大体同じバランスになるときに,ベタ濃度自体がどのくらいの濃度になっているのかという見方をする。

ベタ濃度とドットゲインの関係が決まれば,材料や機械設定を変えない以上,トラッピングが設定される。基本的には,再現性と安定性を確保できる条件にあるのかどうかである。これは,今日測ったからその数字が標準値になるというものではない。大事なことは,日常の実際の仕事の中で,このデータをいかに取るかである。コントロールストリップを使う方法もあるが,印刷の物件によってはコントロールストリップが入らないものもある。

本機印刷機の安定性を確保するための要因は,数値を把握した上で,その数値に何か異常を発見したり,あるいは1つのロット,特に乳化しやすい黄色の色のドットゲインがどんどん変わるという状況の改善である。その改善の目安として,印刷インキ,ブランケット,湿し水など印刷材料の確認がある。機械側では,ドットゲイン,トラッピングに関して,メーカーからの数字があるはずなので,それがきちんと守られているかを再確認することから始める。

次は,刷版の露光量の確認である。実際に日常管理をしている刷版の焼き度では,校正刷りの刷版と本機の焼き度の関係がうまくいかないと,悪いコンディションで本機の仕事をしなくてはいけなくなるので,きちんとした測定器を使って確認することになるだろう。
その次のアプローチは色校正機で,本機と同じ内容になり,ベタ濃度,ドットゲイン,トラッピングなどの現状把握と設定,ドットゲインのバランスと量,CMYKベタ濃度のバランス,トラッピング,色校正機と本機の印刷機の相関性が確保できる状態を保つことが目的となる。
色校正をする場合に,本機と校正機とでは平台2色機を使っている場合は刷り順が違う。特に黄色がシアン,マゼンタの乾いた上に乗るので,グリーンやレッドのトラッピングが本機と合わないケースが出てくる。この部分を簡単に解消する方法はないが,あらかじめそのような数値を確認することにより,仕事にかかる前に,トラブルを未然に防ぐことはできる。

実際の数値管理の問題点
色校正の数値管理を実際にするには,大変な時間と労力がかかる。数値管理へのアプローチを検討したときの方向性としては,本機印刷機でコントロールストリップなどを使用した日常業務内でのコンディション確認とデータ収集である。
テスト版を定期的に刷るのは,機械のコンディションを確認するためには一番精度が高い方法かもしれないが,いろいろなパターンの設定が難しい。印刷の仕事は,比較的前にしたインクのボリュームを次に引きずるケースがあるので,テスト版を刷るときのコンディションによって同じように刷れない場合も出てくる。従ってなるべく実際の仕事の中で,実際の用紙に対してどれくらいの幅で仕事をしているかを,地道に数値データで確保することが一番精度の高いデータがとれる方法だと思う。

実際の校正刷りの場合は,本機の印刷機の安定性を考慮した校正刷りを作成してほしい。本機がコントロールしたデータでないと,異常値がたくさん集まってしまう。その数値は,いくら集めても標準化の参照数値にはならない。従って,校正刷りのアプローチとしては,本機のいわゆるデータ取りと同時に,本機で安定して印刷できるようなコンディションを目標として刷ることである。

実際に濃度計などを使って数値管理をしていない現場の機長たちには,測ることに対してのわずらわしさがある。ただ,1つのデータを収集して安定性を確保するという目的から,これはどうしてもやらなければいけない。
さらに機長たちは,コントロールストリップが入っているものを測ることになるのだが,一番のネックは刷版の工程でコントロールストリップを焼く部門である。刷版は,露光量の問題,自動現像のコンディションの問題を数値化することに関して,何らかのチェックをする。その上ですべての仕事に,入り得る限りコントロールストリップを入れてほしいとなると,殖版機ではたぶん焼けないので,極端な話,刷版処理量が倍になるという大きな問題が発生する。これはコントロールストリップの運用を検討する場合には,どうしても譲れない部分である。CTPの場合はデジタルで焼く可能性はあるが,実際にフィルムを使った仕事に関しては,そうした問題が背中合わせにある。これを進めるためには生産性の効率が落ちることをある時期までは考慮する必要がある。

そして,本機印刷,色校正,スキャナ分解,製版と,それぞれの品質分担に対する責任の判断をもつ。品質の安定性を大事に確保し,色調に関してはスキャナ製版部門である程度背負う。これは,すべての印刷会社にあてはまると思うが,セオリーとしては印刷が大量複製であることをバックボーンに考えれば,このような流れになる。

1999年8月27日Techセミナー「カラーマネジメントワークフローの構築」より
(テキスト&グラフィックス研究会)

2000/02/11 00:00:00


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