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SGMLとXMLの綱引き PAGE2000より

ドキュメントを情報資産としていかに蓄積・検索・活用するかが重要な課題となりSGMLへの取り組みが始まったが,今や,インターネットであらゆる情報が瞬時に検索・閲覧・交換できる時代に対応し,XMLで取り組みたいという人もでてきた。そのような状況の中で,SGMLやXMLはどのように進展して行くのだろうか? 出版業界や印刷業界ではどのような取組みが行われており,今後どのような取組みが必要なのだろうか?

 PAGE2000コンファレンスのSGML/XMLトラックでは,ドキュメントのデジタル化とSGML/XMLについて,「SGMLか? XMLか?」「出版側の取組み動向」「印刷側の取組み動向」の3つのセッションで検討された。

 セッション番号B1の「SGMLか? XMLか?」では,まず株式会社日本ユニテック企画部調査担当奥井康弘氏が,1999年12月にフィラデルフィアで開催されたXML99での状況を中心にして,XMLの最新動向について報告した。【講演資料

 ドキュメントの体裁を指定するXSL(eXtensible Stylesheet Language)が,標準組版オブジェクト定義の難しさなどからまだWD(Working Draft)段階であるのに対し,そのXSLの一部であったXSLT(XSL Transformations)は,データ交換で役立つことから急ピッチで規格化が進められ,XPath(XML Path Language)とともにW3Cの勧告となった。XSLTは,XMLからXMLへ,XMLからHTMLへ,XMLからテキストへ等の変換の役割を持つもので,ワンソースマルチメディアの実現手段として利用されるものである。このほか,いくつかの注目すべきデータ交換関連の規格がWD段階まで来ている。また,XMLのクエリーでは多くの提案が乱立状態である。

 SGML/XMLベンダーが加盟する団体であるOASIS(旧名称SGML Open)では,DocBookのXML化を進めており,出版関係でもSGMLからXMLへの移行が検討されている。また,Webサイト間でのデータ交換プロトコルや雑誌・ニュースのコンテンツ再利用のためのメタデータなどの標準化を検討する,IDEAlliance(International Digital Enterprise Alliance)も活動を開始している。

 XML関連ツールに関しては,なんと言ってもMicrosoftがW3C規格への準拠を表明し,部分的ではあるが勧告となったXSLT/XPathをサポートしたMSXML Technology Previewを1月26日に公開した。

 株式会社松村組情報システム部システム課主任山本隆彦氏は,建設省が進めている建設CALS/ECの意味やXMLを利用した運用事例について紹介した

 建設CALS/ECは,公共事業全体に係わる各種情報の電子化を行い,組織の壁を超えた情報の共有環境を実現することによって情報の高度利用をはかる「公共事業支援統合情報システム」の総称である。情報の高度利用のためには国際的な標準XMLを採用することが最適であり,電子成果品のインデックス情報のXML運用として,1999年8月「デジタル写真管理情報基準(案)」の運用を開始し,2000年3月からは「土木設計業務等の電子納品要領(案)」の運用を開始する。これらは,建設CALS/ECでのXML利用の第一歩で,今後は電子ファイリングとの連動,報告・打ち合わせ記録の保管,生産時のデータ管理や利用などへの展開が検討される。

 モデレータの株式会社アプローチ副社長近藤幸康氏は,今,企業で起こっている「ドキュメント管理」から「情報管理」への移行,つまり,集めた情報から新たな情報を生み出す仕組みを実現しつつあり,とりわけ出版印刷業界のドキュメント管理では考慮されていなかった情報区分要素が重要であり,そこでSGML/XMLの利用が意味を持っていることを指摘した。XMLはデータ交換分野を主体にしているが,文書管理分野で見れば,SGMLとXMLは実質的に同じものであり,情報をどのように表現したら正しく理解されるかという分野で印刷業界のノウハウが生きてくると結んだ。【講演資料

 セッション番号B2の「出版側の取り組み動向」では,まずモデレータの有限会社トライデントシステム代表取締役鶴岡仁志氏が,コンテンツ所有側から見たSGMLとXMLの役割分担,XMLの不安とSGMLの欠点を克服する方法などについて話した。【講演資料

 SGMLは文書交換のニュートラルフォーマットで,SGML文書は世界標準のハブドキュメントである。つまりSGMLは,情報表現の役割を担っている。XMLは,Webアプリケーション間のAPIあるいはドキュメントの技術をオンライントランザクション処理へ渡すもので,情報処理の役割を担っている。しかし,まだXMLは未完成な規格であり今後予想できない展開があり得ること,アプリケーションに依存するおそれがあることなど,パースしないXMLには不安がある。スピードが遅い,データエントリが大変などSGMLの欠点と言われるものも,パースは入力時に行い検索時には行わない,扱う単位の最小化,データ自動抽出の工夫など,いろいろな対応方法がある。

 科学技術振興事業団『情報管理』編集事業局課長代理森田歌子氏は,まず昨年4月からSGMLを利用して紙とWebによる出版とを同時に行っている月刊誌「情報管理」のシステムとその運用方法について詳細に紹介した。【講演資料
 その後,平成12年版から運用を開始する「科学技術文献速報」SGML印刷システムの概要,その印刷用に作成したSGMLデータを利用して平成12年10月から試験サービスを開始する「電子版科学技術文献速報サービス」のサービス内容,今後の新たなサービス展開について紹介した。SGMLの導入によって出版形態やサービス形態の多様化がはかれたこと,データの一元管理や作業量の軽減と期間短縮がはかれたこと,経費が節減できたことなど,多くのSGML導入メリットで話を結んだ。

 株式会社税務研究会事業開発室課長奥田守氏は,社内コンテンツのSGMLデータベースとその公開について話した。【講演資料

 株式会社税務研究会は,税理士や企業の経理担当者などを対象に,税務処理や経理処理関連情報誌を週刊や月刊で発行するとともに,関連書籍の発行やセミナーの開催などを行っている。このような各種の社内コンテンツをマルチに使用するために,まずSGMLを利用した雑誌のデータベース化を行った。データベースには,平成8年以降の週刊「税務通信」,税務関係の法令・通達,税務便利辞典などを収容し,社内で活用するとともに2000年4月からは有料でWeb公開する予定である。このシステムでは,週刊「税務通信」の校了後のテキストデータを受け取って,データベースを更新している。このシステムや運用の詳細,システム構築のポイントなどについて紹介した。

 モデレータの鶴岡氏は,IT技術が出版業界を目覚めさせ新たな取組に向かっているときに,印刷業界は印刷物で対価を得るだけと言うことから脱却し,SGML/XML,ネットワーク,データベースなどの専門業者とパートナーシップを組んでノウハウを蓄積し,新たなビジネスモデルを構築することが必要だと指摘した。

 セッション番号B3の「印刷側の取り組み動向」では,まず,当協会のホームページでSGML pageを担当している当協会客員研究員岸和孝氏が,「何が印刷業に求められているのか」のテーマで,ネットワークとデータベースをベースとした情報処理によって顧客のニーズが変化し,インターネット上でリアルタイムに使用可能で,表示指向からデータ指向までをカバーするXMLが注目されていると前置きした後,印刷業界に何が求められているか次のように指摘した。【講演資料

 印刷業界は,顧客の業務分析,ワンソースマルチユース可能な文書設計,各種メディアへの出力などを可能とするために,システムエンジニアやXML技術を習得した人材を育てることが重要である。各種メディアの特性を上手く利用するためには,スタイルシートの制作が決め手になり,そこに今まで培った印刷のノウハウを生かすことができる。

 西日本印刷株式会社代表取締役山口正人氏は,SGMLへの取り組みの動機,SGML/XML利用事例などをデモを交えて紹介した。【講演資料

 SGMLに取り組んだ動機は,21世紀初頭にはECやSGMLをベースとした情報化社会になる様相が見えてきたことから,印刷業のノウハウを生かした専門技術を模索し,SGML等高度技術に印刷業の未来を託そうと考えたからである。3年ほど前から新入社員を中心にSGML等の技術習得に取り組み,それまで継続的に印刷を受注していた「埋蔵文化財調査報告書」SGML版(当協会のSGML pageに掲載)を作成した。

 その後観光協会ホームページの開設や,中小企業経営革新支援法の申請者・行政担当者を対象とした「XMLを利用した電子申請処理システム」を制作した。

 山口氏は,これらで習得した技術をベースに,インターネットビジネスやマルチメディアビジネスに関連した団体や研究会にも加盟することができ,印刷受注や企業取引,官公庁事業などへの広がりがでてきていると結んだ。

 加陽印刷株式会社SGML推進室室長日根埜谷秀男氏は,「印刷会社におけるSGML/XMLの取り組み」のテーマで,まず,SGMLによる松下電工制御機器分社殿のカタログ制作作業と,この作業のためにPerlで開発したツールやトリガー変換ツールについて説明した。【講演資料

 続いて,医薬品添付文書のSGML文書化作業と,PerlやJavaScriptで開発したツールについて紹介された。製薬会社には医薬品添付文書をSGML文書として,厚生省が管轄する医薬品機構に納めるよう義務づけられている。医薬品機構では,HTMLに変換し一般公開している(http://www.pharmasys.gr.jp/homepage.html/)。

 日根埜谷氏は,印刷業がSGML/XMLに取り組むにあたって,DTDの読解能力,XSL等のスタイルシート作成能力,PerlやJavaScript等の作成能力を持った人材の確保・育成が不可欠な条件であると結んだ。

 丸星株式会社企画開発部部長結城盛樹氏は,「マニュアル制作におけるSGML対応」のテーマで,J2008に基づく自動車マニュアル制作までの経緯,ワンソース・マルチユースを目指したシステム構築とSGMLによるワークフローの詳細等について,デモを交えて紹介した。【講演資料

 SGMLを利用したバッチ編集処理では,レターサイズ2,000ページを2時間弱でページアップ可能である。結城氏は,SGMLを採用するにあたって,法規制や業界標準など外的要因への対応,ドキュメントデータベース構築による共有・再利用,電子マニュアル・Web配信・印刷などワンソース・マルチユースの実現,文書データの互換性など,採用の目的を明確にすることが重要であると指摘した。

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 SGMLはすでに基盤を築いた技術であり,これが急に変化するとは考えられないが,XMLがデジタルドキュメントのすそ野を急速に広げて,XML人口の方が上回ろうとしていることは事実のようだ。しかし,XMLのツールはあまりにも特定の技術に依存していて,まだ将来が見通せないという課題がある。

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2000/02/16 00:00:00


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