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米国の印刷とネットワーク事情 視察団速報

印刷業においても、電子送稿をはじめ電子受発注、EDIへの利用など広域ネットワークを利用したビジネス展開が考えられている。すでにデジタル先進国である米国ではネットワーク利用は日常のビジネスであり、特にここ2〜3年急変化しているものの、これらの実情はあまり日本に入っていない。そこで印刷関連産業に焦点を当て、実際にネットワークをビジネス面でどのように利用しているかを、企業訪問で調査・研修する視察団を、2000年2月27日から3月4日までJAGATは派遣した。

訪問先は東海岸に絞り、北米最大手のケベコール/ワールドカラー/アクメ社、メリル/ダニエルス社(ボストン)、ボーン社(ニューヨーク)AGT(ニューヨーク)である。詳細レポートは後に譲るが、JAGATコーディネータの中間メモ(2000.3.2)をとりあえず掲載する。

全体の印象

・ インターネット利用はコラボレーション(迅速な顧客サービス)や,ASP(コアコンピタンスの有料貸し出し)に使用され始めていた。
・ インターネット事業は紙印刷とは分離して,むしろ距離を離し始めている。
・ ネットワークインフラの普及によって米国の印刷企業のM&Aが急拡大している。
・ 企業は成長でなくM&Aされて生き残りたいが,コアコンピタンスの有無が重要。
・ M&Aした企業ではグループ内企業の得意分野に経営資源を徹底的に集中化する。
・ これによる効率の良い市場占有率の拡大を行なっている(収益性は別の話し)。
・ 規模拡大し,かつ効率向上するには「データの集中化と,出力(印刷含む)の分散化」で生産情報とプリプレス情報をネットワーク上で管理しなければ実現しない(物作り)。
・米国ではDTPの発展とともにプリプレス作業は顧客が内製化してきため,Webの制作はコンテンツを持たない印刷側の仕事では無くなっている。
・グラフィックアーツ用のネットワークには、(1)自社構築、(2)グラフィックアーツVAN(WAM!NETやVio)、(3)インターネットの3種類が利用されている。

「T-1ラインに接続されているグラフィックアーツVAN」

M&Aでの技術的課題
・グループ企業のさまざまな整合性がとりにくい。
(ハード,ソフト,フォーマット,品質,人材などの整合性)
(同じ設備の導入,またグループウエアはロータスノーツかMS-Outlook以外は廃棄など)

各社のワンポイント

1.ケベコール/ワールドカラー/アクメ社 【米国の印刷企業は急速にM&Aが進んでいる】
(経営的には)
・ケベコール→ワールドカラー→アクメ社のポジションで,同社はカラー高品質に集中化 (M&Aされた後は,ホームページ制作などはグループ内の得意部署に移管された)

(技術的には)
・WAM!NETを導入してT-1ラインに接続,インターネット用T-1とともに2本の専用線
・WAM!NETは下版前直し指示と,顧客用の印刷済み低解像データ参照に限定使用
・WAM!NETがインターネットと接続すれば,T-1は1本で済む

2.メリル/ダニエルス社 【顧客が欲しいものに合せた装置/技術/設備を広範に揃える】
(経営的には)
・(買収された)ダニエルスはM&Aによる有利な企業売却を画策して成功した (ただし,買収前にあって家族的経営の良さが失われた)

・(買収した)メリルはインターネット使用による顧客サービス(E-コラボレートなどのASP)を開始 (以前から,フルフィルメントサービスはあるが,このインターネット版)

(技術的に)
・「IR-Edge」を開発してASPに参入

3.ボーン社
(経営的には)
・M&Aにより急拡大中(1997年から6企業を立上げて財務印刷の最大手に)
・(別のサイトでは)モントリオール銀行のOne to One情報サービスHPサポートなど

(技術的には)
・Bown Global Data Network(フレームリレー,インターネット)による分散印刷など
・財務印刷では世界に展開している8000台の装置をWANで接続
・財務印刷用にネット上で分散作業と自動組版できるMACソフトを開発
・ネットワークでどこでも作業伝票を見ることができる(紙と画面の両方で運用)

4.AGT 【世界最大のプリプレスネットワークを持つ】
(経営的には)
・M&Aで規模拡大したが,ハイリスク/ハイリターンではあるがハイテク事業に注力中 (プリプレス事業は将来とも見込み無いので,ハイテク事業に大幅シフト)
・ハイテク事業(EC事業として)の3ステップ
@システム販売,A客側設置の設備/人の管理,BASP(アプリケーションサービスプロバイダー)

(技術的には)
・世界最大のプリプレスネットワークを所有
・グラフィックアーツのASP事業を推進中

5.ワールドカラー 【Forbes社内の(ワールドカラーの)サテライトサイト】
(経営的には)
・Forbes社内に数名規模のサテライトルームを設置して,顧客に密着している。

(技術的には)
・WAM!NET+T-1ラインで,完成ページデータを印刷工場(イリノイ工場,パリ工場)にT-1ライン直接伝送している。
・Forbes社からは,トリミング指示用のカラーコピー+PDFまたはQuarkXPressネイディブのページデータがLANで転送されてくる。
・カラーポジはドラムスキャナで色分解,ページデータの画像をすり替えて,SWOP基準のデジタルプルーフ出力を編集に届けてOKをもらう。
・この印刷ページデータをWAM!NETまたはVio経由でイリノイとパリの伝送する。
・両工場に設置した同機種のカラープリンタからリモート出力されたデジタルプルーフを印刷見本とし印刷される。
・完成ページはFatデータ(高解像データ付きPostScript),FITTSデータ(名前が不正確です,ジョンスカリーのフィッツですが・・・),フィルムの3種類ある。

6.コーレルグラフィックス
(経営的には)
・高付加価値の5色以上で表面加工のあるブックカバー専門で高品質が売り物の印刷会社
・高品質にもかかわらず,グラフィックアーツVAN利用によるリモートプルーフや,バージニア工場への印刷データ伝送を日常化している。

(技術的には)
・4本のT-1ラインを使用して,Vio,WAM!NET,インターネットを駆使している。
・5色以上のブックカバー校正を,4色プリンタで疑似出力できるカラーシミュレーションソフトを使用している。
・2台のCTPと2台のDDCPで,在版以外は100%デジタル化している。

以下、レポートおよび感想記事を予定。
JAGATでも印刷会社のEC対応を目標にしたIT戦略/ネットワーク管理Workshopを開催しています。

2000/03/03 00:00:00


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