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カラーマネージメントと色校正 PAGE2000より

PAGE2000では色に関するテーマを、 2番目の基調講演として、「デジタル時代の色の標準とは?」、展示会場の JAGATコーナー、そしてセミナーではセッション番号D2「カラーマネージメントシステム」、セッション番号C6「色校正の今後」と、多面的に取り上げた。今回はまだ報告されていなかったセミナーについて報告する。

CMSとITはセットで構築

D2、C6の両セッションとも、モデレータを担当したJAGATの相馬謙一から「CMSとITはセットで構築するもの」という主旨説明から始まった。CTPの出現によって刷版工程のデジタル化が実現しDTPとあわせて、プリプレス工程全体のフルデジタルが達成した。そして次の目標はデジタル技術を高度化して、生産速度(生産性ではない)を2倍にするような大改革が命題になる。これを解決するキーが、「CMS(カラーマネージメント・システム)+IT(情報技術)の融合」、つまりグラフィックアーツの品質保証をCMSによる数値管理で行ない、ECやe-ビジネス対応の受注/外注/制作進行と融合させるという、印刷会社のIT戦略の構築である。

つまり、インターネット技術によって「誰でも・何処へでも・何時でも(時空を超えて・超速に)」というビジネス展開が可能になる。新しい制作の流れは、顧客がWebやグループウエアで素材入力・原稿制作を行ない、イントラネットによって上司の認証を得るようになる。校正はフォントを埋め込んでICCプロファイルを持たせたPDFデータを使用してリモートで行われる。ICCプロファイルによって印刷機の色再現を反映できつつあるため、客先のカラープリンタから出力したリモートプルーフが、校正刷りに代わる日も近い。 さらに、印刷側ではCMSによる品質保証の流れを作っておかないと、データベース出版/リモート印刷/OneソースMultiユースなど、カラーの分野のフルデジタル技術から産出される製品のー品質保証ができないことになってしまう。従ってカラーマネージメントをきちんと行なう必要が出てきたというのが、オリエンテーションの要旨である。

隣接分野との関連が強まってきた色の規格

D2セッション最初のスピーカー、富士通研究所、臼井 信昭氏は「色管理」から「色の見え管理」へ(カラーマネージメントの現状と将来展望)をテーマに(講演資料はこちら)、標準化動向を報告いただいた。
はじめに、CIE(Division2.8)では標準白色基準としてマクベス(Macbeth)の24色チャートを用いて測色器を校正することが制定され、測色器の絶対校正が可能となったこと。
ROMM RGB(Reference Output Medium Metric RGB、 ( http://www.colour.org/tc8-05/Docs/ROMM_RGB_presentation.pdf 参照)という、sRGB(IEC61966 Part2-1) + SWOP(Specifications Web Offset Printing)の色域を持つ、印刷とコンピュータの色の世界を包含する規格がコダックから提案されていること。
同様に、ISO/TC42/WG18(デジタルカメラ)の、RIMM RGB(Reference Input Medium Metric RGB、 (http://www.pima.net/standards/iso/tc42/wg18/RIMM_white_paper.PDF参照)でも、sRGB + SWOPの色域が提案されたこと。
両者の違いは、RIMM RGBが入力デバイス用、ROMM RGBが出力デバイス用で、ともにKodak社の特許(USP 5,224,178)であるという。

また、IEC/TC100/PT61966という色関連機器(入力,表示,出力など)の測定方法および結果の表示方法の中に、現在の8ビット対応sRGB(standard RGB http://www.srgb.com参照)の色域に対して、さらに広範なsRGB64という、16ビット対応のRGB+16ビットαチャンネル付きモデル( http://w3.hike.te.chiba-u.ac.jp/IEC/100/PT1/parts/part2-2/1966_96.pdf参照)が提案されていることなど、新たな規格の動きが報告された。

次に、視環境の違いによる色の見えを予想するという心理学的なアプローチが紹介された。CIECAM97sという、CIEが1997年に制定した色の見えモデルのことで、色の心理的効果を数式で予想するものである。HuntモデルとNayataniモデルがあるが、まだパラメータの曖昧さ、計算の複雑さが課題で、当面はコンシューマ用途のプリンタなどに応用されていくだろうという。印刷向けの高品質要求には、まだ対応できないレベルのようであるが、興味あるアプローチだ。

これら規格の今後の展開については、sRGBは色変換が容易なためにモニタを中心にしたカラーマネージメント用色空間用途に、RIMM RGB/ROMM RGBはモニタと印刷物(プリンタ出力を含む)を対象としたカラーマネージメント用色空間に(しかしRGB/CMYK変換は必要)発展するだろう。また、CIECAM97sはパラメータの定義の明確化と適用範囲,効果の明確化が必要であるという。

ジャパンカラーの新たな再現印刷サンプル

D2セッション2人目のスピーカー、日本印刷学会の標準化部会第4分科会 主査の弓木 慶一氏からは、ジャパンカラー標準印刷物について、新たなバージョン制作の状況が報告された。はじめに規格化されたのはベタパッチの基準Lab値などであったが、これにもとづく実際の印刷見本として、Japan Color 色再現印刷`97がジャパンカラーペーパー(アート紙)に印刷された。そして1999年には用紙のバージョンを増やして、コート紙、マットアート紙、上質紙に標準印刷して、ジャパンカラー「色再現印刷2000(仮称)」として発刊の準備が行なわれているという。

得意先や生活者を含めたCMS

D2セッション3人目のスピーカー、大日本印刷の木村 克巳氏からは、同社の「カラーマネージメント技術への取組み(ツールの開発と実用化)」(講演資料はこちら)が報告された。同社のカラーマネージメントに対する位置づけは、「効果的なメディアの制作、製造フローを確立する上での基本となる技術」であり、「得意先や生活者を含めたトータルなカラーマネージメント環境の構築が必要である」というものである。考え方はICC方式をベースとしながら、墨文字/罫線/特色2色再現などの独自技術を盛り込んでいる。一方で視覚的にプロファイルの簡易調整ができるツール開発も行なうなど、実運用が重視されていることが分る。

運用事例のポイントは、デジタルプルーフのポイントは色変換出力の自動化やプロファイルの一元管理であり、RGBコンテンツ制作では原稿通りの色をモニタ上に再現すること、2色チラシの特色出力ではプロセス4色のうちで2色を使うのではなく、特色2色を4版データから生成して4色プリンタで再現(シミュレーション)することであるという。

印刷制作におけるCMSへの3つの提案

C6セッション(色校正の今後)最初のスピーカー、凸版印刷の辻 和孝氏は、印刷物作成フローにおけるデジタルプルーフを「原稿の色見本として」(デジタルカメラ撮影部門)、「リモートカラープルーフとして」(DTP部門)、「校正刷りに代替するもの」(製版部)の3つに分けて、おのおのどのようにあるべきかを提案していただいた(講演資料はこちら)。

デジタルカメラ撮影工程では、色見本機能を持たせなければならない。このためには、キャリブレーションされたモニタ色を正解の色とみなし、プロファイルによってRGB/CMYK変換環境を統一して、印刷時の色をカラープリンタで再現させる。こうして撮影現場で最終の印刷色が直接的に確認することのだという。

DTP制作工程では、利用拡大が見込まれるリモートカラープルーフで印刷色を再現する手法について述べられた。個々の印刷ターゲット色に合せてプリント出力ができるような、RIP内色変換によるオペレーションフリーの印刷シミュレーションツールやプリンタ機能の開発が期待されること。特に、低価格が求められる客先のリモート出力には、Acrobat4.0で和文フォントを包含したPDFを、非PS対応プリンタ(RIPなし)できちんと出力できることが求められるという。 さらに、リモートプリンタ部の出力実績やキャリブレーション状況を、送り手側で知る手立ての課題や、手作業を残した形での朱書き情報返送のデジタル手法開発の必要性が語られた。

製版工程では、高品質で校正刷りに代替できるような、質感/色再現/階調性/安定性などが再現できる高品質デジタルプルーフへのアプローチや、このために使用されるDDCPなどの精度データが一部披露された。また現在、同社で取組んでいる、オフ輪印刷のプロファイル作成用チャートのサンプルと設計の考え方が示された。

最後に、デジタルプルーフを色校正目的に利用するには、技術課題だけでなく得意先と協力してデジタルプルーフに取り組んでいくことが必要で、これによって製版、DTP業界で新規受注獲得の武器になり得ると締めくくった。

社内基準にJapan Colorを採用

C6セッション2人目のスピーカー、水上印刷の荻野 正彦氏は、 「色校正の今後 −CTP/CIP3とプリンタ校正−」(講演資料はこちら) の中で、2台のCTPと1台のイメージセッタを使い分けている経験からの報告があった。従来の色校正について「CTPワークフローにとって平台校正は邪魔もの」であり、「印刷オペレータが無理に本機をあわせる校正紙なら、無い方がましである」という。クライアント理解の課題はあるが、最近では社内基準にJapan Colorを採用していて、印刷オペレータは標準化されていない校正紙でなく、ISOに認証されたJapan Colorを基準にする刷り出しのアプローチを実践しはじめているという。印刷機は、いわゆる一発見当装置とCTPおよびCIP3を組合わせた構成になっていて、30枚でOKシート出しを実現ている。

今後の課題は、印刷機ごとのシミュレーションで、プロファイルだけでは合わない階調性/シャープネス/特色や板紙、特殊紙(現在は本機校正)へのアプローチなどであるという。 カラープリンタの低価格、高性能化で平台校正にこだわらないクライアントが増えてきた現在、カラープリンタと印刷機のCMSが我々印刷業界の責任であり、社内では色再現の標準化が究極という目的に向かう作業が進んでいるという。

DTP画面の色が印刷の色でないことを改善

C6セッション3人目のスピーカー、フクインの齋藤 廣隆氏は、「カラーマネージメントの運用事例」(講演資料はこちら)で、「CTPで色校が出せないことを解決するのでなく、DTPで見ている色が印刷の色でないことを改善しなければいけない」という。このためには、印刷機の標準化と数値管理を行なってICCプロファイルを作成すること。使用する印刷機は色調管理装置を持つ印刷機と標準管理値を持つこと。高い精度で網点出力できるCTPで均一に網点形成された刷版で適正範囲のインキ濃度とドットゲインで刷られた印刷物から、ICCプロファイルを作成すること。モニタやプリンタの選択、調整と適切なチューナーの使用が必要であるという。

こうして実際に作成された印刷プロファイルには用紙色も含まれており、実際の仕事でモニタ上での色校でOKになったケースや、内校用プルーフが客先でOKになるなど、色校正の回数が減る仕事も出てきた状況など、自社で実証中の内容について報告された。さらに「色」の問題が解決してきたので、今後は電子コンテンツ制作のコラボレーションに拡大利用できるだろうという色校正の方向性が示された。

他のPAGE2000報告記事

なお、凸版印刷 辻様は、月刊プリンターズサークル 4月号〜5月号の「The プロフェッショナル」でカラーマネージメントについての分かりやすい記事を2回で連載していただいています。
水上印刷 荻野様 / フクイン 齋藤様のPAGE2000での講演内容は、同じく5月号の特集記事「平台校正と決別するには」に掲載されます。
また、辻様などを講師にお迎えして、品質管理を担当する技術リーダーのための「カラーマネージメントWorkshop」も始まっています。

2000/03/24 00:00:00


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