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広がるデジタル・アセッツ・マネージメント

さまざまな情報がデジタル化していくなかで,メディア資産を管理する,デジタル・アセッツ・マネジメントはメディアビジネスを展開する上で,大きな課題となっている。
情報の蓄積・管理は,従来から「ストレージ」や「アーカイブ」などの言葉で表現されてきた。製品を提供する各社によって言葉の定義は異なるが,ストレージはどちらかというと大容量データの処理システムという意味合いが強い。情報システムの大規模化により,管理するデータやファイルなどが急激に増加したため,各種の記憶装置を適切に組み合わせて,効率的な処理を行うことを重点においたストレージシステムが開発されている。

一方,アーカイブは,データを保管する場合だけでなく,文化財や美術品をデジタルで所蔵する場合にも使われている。デジタル化することにより,文化財の保存と,コンテンツのデジタルデータ販売の両面を実現する。著作者や所有者など,権利関係について制約の多い分野なので,デジタル・アセッツ・マネジメントとも深く関係してくる。

そして,最近の動向としては,情報を企業の重要な資産と位置づけて,情報が作られた段階から利用,著作権の情報までを総合的に管理する「デジタル・アセッツ・マネジメント」や,「メディア資産管理」,さらには単に「資産管理」という言葉が使われるようになってきた。
デジタル・アセッツ・マネジメントだけの略語では,英語の意味があまり良くないということで,ソニーなどではデジタル・アセッツ・マネジメント・システム(DAMS)とも呼ばれている。

デジタル資産管理の必要性
これまでのデータ管理は,どこに何が保存されているかということと,そのシステム管理に重点がおかれていた。
しかし,Webや電子出版,デジタル放送などの登場により,デジタルの情報はいろいろな場面で利用したり,再利用することが可能となってきた。さらに,画像やドキュメントだけでなく,音楽や映像などもデジタルデータにして,組み合わせて利用できるようになった。コンテンツの可能性が広がり,業界のボーダレス化も進んだ。これらのさまざまなデータを有効に活用するためには,メタデータを含めた情報の管理が必要となる。

印刷業界においては,1980年代からプリプレスのデジタル化が進み,テキストや画像がデジタル化の方向へ向かった。80年代から90年代にかけては,制作工程がデジタル化され,素材から最終レイアウトまでのデジタルワークフローが進み,印刷物を扱う印刷会社には膨大な量のデータが蓄積されていった。
しかし,今までのプリプレスのなかでは属性情報が管理されていないため,情報の再利用に関するビジネスができない。例えば,写真についてもどのような条件で誰が撮影したかとか,どの印刷物に使われたか,どこまで加工して良いのかなど,著作権も含めたメタデータをあわせて管理していなければ,後から検索したり再利用することが非常に難しい。
この部分はビジネス戦略的にも重要で,組織や企業管理を考える上でも,情報発信をするシステムの提案には欠かせない課題である。

放送業界の動き
日本では放送業界において,DAMSの導入が比較的進んでいる。
放送の世界においても,映像制作の工程はほとんどデジタルで行われている。映像や音声をデジタルデータに変換して,ノンリニア編集で制作されている。しかし,電波にのせる段階でアナログに変換され,最後にVTRフォーマットで保存されている。

放送局では,番組やオンエアされない映像も含めて,大量のVTRデータがライブラリに保存されている。しかし,2000年12月から開始されるデジタル放送に向けて,放送局ではデジタル映像を配信するためのシステム構築が迫られている。さらに多チャンネル化に向けて,放送局側は過去の映像コンテンツも有効に再利用したいと考えている。

しかし現在のフローでは,映像を再利用するにはいくつかの問題がある。通常,放送番組では取材をして映像を撮り,その権利処理をすませて番組が作られる。利用された映像はライブラリにVTRフォーマットで保管されており,必要な時には倉庫から探し出して,権利問題を再処理して再利用される。
これでは映像を探して引き出すまでに手間がかかる。また,オンエアされていない素材は行方不明になることも多いという。VTRについては再生できなくなる可能性もある上,複数のVTRフォーマットの存在も映像素材の管理を複雑にしている。VTRで保存するためには大規模なスペースも必要となる。権利問題についても,アメリカの場合は,放送局側でコンテンツの権利をもっているが,日本の映像は権利が分散しており,再利用するための処理に時間がかかる。
そこで,DAMSを利用して,データの流れをデジタルで一本化するという方向に向かっている。映像データを使いやすい共通のフォーマットで蓄積し,映像制作の質の改善と量への対応が可能となれば,経費削減と売り上げの機会拡大を図ることが見込まれるからである。

ソニーとIBMは99年4月に提携し,放送業界向けの大規模なDAMSを提供することを発表した。99年には,CNNの10万時間に及ぶ素材のデジタル化に着手し,日常の制作システムに統合する取り組みを進めている。日本でも2000年末には利用事例が増えるといわれている。

グラフィックアーツでの利用
印刷・出版の分野においては,テキスト,画像,レイアウトデザインを資産としていかに効果的に再利用していくかがキーとなる。
新聞,雑誌,書籍やカタログなど,どの印刷物を発行する場合でも,デジタルにすれば,ひとつの素材を複数の紙媒体,あるいはWebサイトへと再利用するケースが考えられる。

例えば,ある新聞社系の出版社では,速報性に重点をおいて,記事のマルチ展開を徹底している。記者が取材した記事を即時にメールマガジンへ配信し,記事を調整してからWebサイトへ載せる。さらに詳しい記事を紙の雑誌へ掲載する。紙媒体の発行後は誤植を訂正して,バックナンバーの縮刷判CD-ROMを販売している。新たなサービスとして,バックナンバーのPDFデータを記事単位で販売するというメディアビジネスを展開している。この出版社では,当初,社内向けサービスとして構築したイントラネットのシステムを,本業の情報サービスへと移行していった。

印刷物の場合,主なデジタル資産はテキストと画像とレイアウトデータである。これを単にばらばらにしただけでは使えない。何に使われているか,どのような変更ができるかなどの属性情報をしっかり管理することにより,後から検索しても迅速に必要なデータを探し出し,利用することができる。コンテンツを制作する人がいかに無駄な作業を省いて,コンテンツを利用することができるかが重要となる。

さらに,インターネットの普及により,ネットワーク環境でタイムリーに共同制作をすることが可能となった。そこで,ブラウザを利用した検索や一覧,データのダウンロードができるといった機能のニーズも高まっている。

アプリケーション
グラフィックアーツ業界向けに提供されているDAMSでは,これらの機能を重視したアプリケーションがいくつか出されている。
クオークのQurak Digital Media System(Quark DMS)は,QuarkXPressで作られたドキュメントデータや素材,編集履歴などの管理を行う。ムービーやサウンドファイルにも対応し,著作権などのメタデータも登録できる。データベースにオラクルを採用し,MacintoshとWindowsのクライアントをサポートしている。世界各国で発売されているファッション誌「ヴォーグ」の制作でも採用されている。一度掲載した画像を,別の国のヴォーグ誌が再利用する場合,検索から掲載までの時間が非常に短縮されたという。

ビジュアルプロセッシングジャパンのMediaBankも,DTPシステムの制作ワークフローまでコントロールできるDAMSを提供している。QuarkXPress
ファイルを始め,PageMakerや画像,テキストデータに対応し,ドラッグ・アンド・ドロップするだけで,ファイル名,作成部,ファイルタイプ,キーワードなどが自動的に登録される。OPIプロセスと統合しており,レイアウト用の低解像度データとカラーカンプ用の中解像度データが自動的に生成され,出力時は高解像度画像に差し替えられる機能も搭載している。
Mac環境のデータ管理ソフトとして登場したCum
ulusは,最新バージョンでメディア・マネジメント・ツールとしての機能が強化された。WindowsとMacの両方のクライアントにも対応し,インターネットからの閲覧や検索も可能となった。

イメージリンクでは,デジタル・リンク・システムのローカライズと販売を行っている。デジタル・リンク・システムは,アメリカのアプライド・グラフィックス・テクノロジーズが開発した,デジタル画像の管理に重点をおいたソリューションシステムで,WindowsNTベースで開発されている。画像修正の履歴管理や,強力な検索機能を搭載し,画像情報を一元管理する。
一方,オリベッティでは企業規模のデジタル資産をサポートするNet WorkSpaceを提供している。Net WorkSpaceは,情報資産の調達から廃棄までというライフサイクル全般を,一貫したプロセスとして管理し,情報システムのTCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の削減と管理を行うシステムソリューションである。将来的に電子商取引などのビジネスアプリケーションの活用も想定したシステムを,「ツール」と「人材」両面でサポートする。

デジタル資産の管理は非常に複雑な作業であり,ひとつの製品ですべてをカバーし,優れたシステムを構築することは難しいともいわれている。しかし,昨今,優れたツールやソリューションが次々に登場しており,急速に立ち上がりつつある分野でもある。パートナーシップやコラボレーションを含めて,企業の情報戦略にうまくデジタル・アセッツ・マネジメントを取り込めば,今後のメディアビジネスに大きな影響を与えるだろう。

月刊プリンターズサークル 2000年4月号より

2000/04/03 00:00:00


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