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CTP導入は明確なスタンスで  PAGE2000より

CTPの出力機もCTPのプレートも第2世代に入り,システム的にはかなり安定してきている。現状の課題としては,システムそのものよりも,むしろユーザの使い方,運用の方にシフトしてきている。そこで,CTPのセッションは運用面に焦点をあてて,モデレータに共同印刷株式会社の空閑明氏,パネラーに大東印刷工業株式会社の佐竹一郎氏と株式会社ニシカワの西川誠一氏が参加して、具体的な導入事例について話しあった。

最初にモデレータの空閑氏は,オリエンテーションとしてワークフローについて次のように話した。DTPの意義は,プリプレスの工程統合にあり,その流れからは次はCTPとなるのは当然である。CTPのメリットはコストとスピードであるが,そのメリットを追求するためには,ワークフローの整備が不可欠である。行きつ戻りつする工程では,かえってコスト高になってしまう。
CTPをスムーズに運用するためには,プリプレスのフルデジタル化および確固としたワークフローの確立が前提となる。最大のネックは校正であり,クライアントとの関係を含めた見直しが必要である。また,校正をDDCPやカラープリンタに置き換えたときには,印刷見本として現場で刷れるかどうかという課題もある。このように課題は多いが,遅かれ早かれCTPに移行せざるを得なくなるのは明白であり,CTPをいかにうまく使うかが,今後の印刷会社の大きなテーマである。

また,大手印刷会社として共同印刷のCTPへの取り組み状況の報告があった。
CTPは既に2台導入し,さまざまなテストや一部仕事でも使っている。印刷現場からは,従来のPS版と同じように刷れるという評判である。問題はやはりプリプレスのワークフローである。出版の仕事が多く,写研の書体の問題や旧来のCEPSの流れが残っており,すべての仕事をDTPのワークフローに移行するのは難しい。また,雑誌の場合,広告原稿のフィルム入稿という問題もある。しかし,クライアント自らがCTPでやりたいというケースも出てきており,CTPの本格稼働の時期は近い。

続いてユーザ事例としてTIFFのワークフローとPDFのワークフローの報告があった。
佐竹氏の大東印刷工業株式会社は,東京都墨田区にある社員数72名の会社で,枚葉機での小ロット印刷を行っている。具体的にはパンフ,カタログ,モノクロの報告書関係の仕事が中心である。CTPは大日本スクリーンのPI-R1080,PI-R2080の2台を導入している。97年7月に1号機を導入した。

CTP導入の目的は,枚葉,小ロットの仕事が多いので,印刷準備時間の短縮による印刷工程の効率化と短納期が売り物なので,工程統合によるさらなるスピードアップである。制作ワークフローは,MacDTPを中心にPSファイルを作成し,すべてレナトスを経由して出力している。

CTP導入によるクライアントとの関係の変化については,営業的に特にCTPで出力していることをクライアントにアピールしてはいない。そのため,大半のカラー印刷物は,フィルム出力,平台校正(外注),修正後下版時にCTP出力というワークフローとなっている。営業に対しても,CTPのワークフローに乗せるための制約は一切ない。クライアントにも営業にもCTPを意識させないという方針である。ただし,クライアントからコストダウンを要求された場合には,「CTPで色校無しでやりましょう」という提案をしている。

また,O.R.I.S ColorTunerを導入し,カラーマッチングのとれたインクジェットプリンタによる色校校了への体制も整えてある。既に20%前後がこちらに移行している。

CTPによる社内体制の変化として,検版作業の重要性が増し,アナログ製版部門の人員を刷版・検版担当に配置換えを行った。検版は目視が中心である。平台校正用に出力したポジフィルムをCTPプレートに重ね合わせて,訂正個所のチェックするというユニークな検版方法をとっている。

デジタル検版機については,現状のシステムはTIFF出力して,検版専用のWSで比較演算処理するもので,工程が新たに1つ増えることになり実用的ではない。出力WSのバックエンドでオペレータが意識することなく検版の演算をするようなシステムが望ましい。

校正については,アキヤマ印刷機製造のJprint 4P426の導入が決まっており,本機・本紙・両面色校により,他社との差別化を図りたい。また,平台校正の外注費削減により,かなりのコストメリットも期待できる。そして,目視での色合わせを行わず,CTPとCIP3を活用して,印刷機を常に標準状態に維持して印刷することにより,印刷オペレータの意識改革を期待している。

CTP導入の効果として,(1)刷版部門の合理化(人員削減),(2)夜間無人出力により,朝始業時の版待ちがなくなり,印刷機の稼働率が向上した。(3)版見当精度の向上により印刷前準備時間の短縮。ヤレ紙の削減。(4)「午前中入稿→午後CTP出力・印刷→PM6:00に納品」といた極短納期にも対応できるようになった等がある。講演資料

西川氏の株式会社ニシカワは,東京の郊外の東大和市にある社員数がグループ企業あわせて約400名の会社である。オフ輪でのチラシ印刷がメインの仕事であり,特徴として,本社と2カ所ある印刷工場とが離れており,通信の利用を前提としてCTPの導入をした。通信に最適なフォーマットとしてPDFを選択し,アグフアゲバルトのアポジーのPDFワークフローを採用している。CTPはアグフアのガリレオがそれぞれの印刷工場内に1台ずつ設置されている(1号機を平成10年11月下旬,2号機を平成11年5月導入)。また,ガリレオのバックアップも兼ねて従来のPS版が使用できるUV-setterも導入している(平成11年10月)。

CTP導入の最大の目的は,下版にかかる労力,コスト,リスクを低減したいというものである。従来は営業マンが客先から責了原稿をもらって夕方戻ってくると,直し待ちの時間が1時間半から2時間あり,それから校了紙とフィルムを持って1時間くらいかけて営業車で印刷工場に運んでいた。夜遅くなることも多く,事故の危険性もある。こうした労力,コスト,リスクをなくすというのが一番の導入目的である。

チラシが中心であり顧客が校正品質にうるさくないことと,直受の仕事の90%以上が既にデジタル化されており,CTPの導入には有利であった。

通信を利用するにあたっては,当時はサービスの種類が少なく,100%ニーズを満たすインフラではなかったが,DA1500という1.5Mbpsの専用線を選択した。ただし,開通までに時間がかかった上に,開通してからもネットワーク周辺機器との相性等々で,安定したスペックを確保するのに時間がかかった。やってみないとわからないことが多いというのが率直な感想である。

通信を利用する際には,TIFFの配信はするべきではない。データ容量が大きすぎて,現状インフラでは,コストもスピードも合わない。PDFファイルは,当社のB2チラシの例で20MB強であり,裏表で4分で送ることができる。スピード的には全く問題なく,むしろ転送速度をもう少し落としてでも,通信コストが下げられないか検証中である。
PDFファイルの安定性についてだが,データ入稿ではなく,すべて自社環境で作成しているので,全く問題ない。

CTPの導入による社内体制の変化としては,まず営業の下版の認識を変える必要がある。従来は,フィルム出力,工場への移動,刷版という工程があり,下版から印刷までかなりの時間があり,下版後の直しについてもある程度対応できた。しかし,通信利用とCTPによって,制作側で出力指示のボタンを押すと工場側のCTPから版が出て,即印刷となってしまう。
また,制作側でも,出力のタイミングを工場側と合わせないといけないので,制作側で,工場の印刷機の稼働状況,進行予定を把握していなくてはならない。その結果,工務管理の仕事が中抜けになってしまい,プリプレスの制作部門の管理者が従来の工務管理のような仕事をやることになり,組織を変更した。さらには,従来のオフコンでの業務管理システムでは不具合が出てきたので仕様を変更した。このようにCTPのワークフローだけ,制作のワークフローだけではなく,仕事の流し方そのものが変わってしまう。

この後のディスカッションでは,CTPへの期待と今後について話合われた。
佐竹氏:現状のCTPに大きな不満はない。ただ,プレートと現像機が1対1の関係なので,他社のプレートが使えない。CTPの次に,オンプレスCTPの時代が来るかは非常に疑問である。高価なイメージング装置が,版胴1つ1つについているのは非効率的。また,どれか1つでも故障したら,印刷できなくなってしまう。それならば,CTPを複数台導入したほうが良いだろう。CTPの次として,デジタルデータをいかにうまく展開するかを考えている。

西川氏:同様に現状のCTPに大きな不満はない。ただ,プレートの価格はもっと下がってほしい。また,サーマルが主流と言われているが,コストが高く,ユーザにとって本当にそれがベストな選択なのかどうか疑問である。むしろ,ブルーレーザ光源の安価なCTPや従来のPS版を使うような技術に期待している。CTPの次にどのような技術革新があるかと考えると,製版・印刷工程ではないのではないか。これから大切なのは,デジタルデータを核にした展開であり,インターネットにも大いに注目している。

空閑氏:CTP装置は,印刷会社にとって,デジタル/アナログ変換機器であると言える。CTPの前提条件であるプリプレスのフルデジタル化を実現できれば,紙以外のメディアにも対応できる。クロスメディアやマルチメディアへの進出をにらみながら,CTPのメリットを追求していくという姿勢が大切であろう。また,今回のスピーカの話は,CTPをどう使うのか,自社のスタンスをはっきり決めて取り組んでいるという点が非常に評価できるのではないか。

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2000/04/08 00:00:00


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