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印刷業にとってECは女神か鬼か

ECの定義は具体的には多岐の機能にわたり曖昧になるが、技術の流れの中で考えると単純なことである。つまり電話は最初は送り手が電話交換手に依頼して相手につないでもらったのが、リレー式の交換機になり、電子交換機になり、交換機がコンピュータになるにしたがって、世界中どこでもダイレクトにつながって、そこに至る操作も無人化した。これと同じように、従来のビジネスでは営業マンなどを仲介に末端の人から別の会社の末端の人に情報がわたっていたのが、コンピュータとネットワークを仲介に末端の人や機械同士がダイレクトにつながるようになる。

ECはビジネスにフェースtoフェースの関係よりも効率的なバーチャルな仕組みを持ちこむものである。この仕組みはコンピュータとネットワークで構成されるので、人間の介在が少なくなることで改善が進みやすく効果も上げられる。

しかし競争社会ではライバルも同様のことを行っているので自社の改善効果が持続することは無く、さらに効果を上げるために投資が泥沼化して企業が疲弊してしてしまう。つまり改善しやすいことがECのビジネスモデルを不安定にしているのである。
【注】だからビジネスモデルを特許にして泥沼化を避けようと考えているが、特許に対する逃げ道もいろいろ考えられるのがECでもあろう。ECという方法だけで差別化することは無理だろう。

だからこの仕組みを活かしてリアルワールドで稼ぐ商売に裏打ちされていなければ、借金地獄で早晩幕ひきになるであろう。つまりECは営業やソリューション提供の力を何倍にもするが、ECだけが武器になることは無い。Amazon.comなどは赤字続きでも投資してもらえるのは、ECの経験で得た情報がリアルワールドで役立つ大きな資産となって、今後金を産む機会になると見られているからだろう。またバーチャルな仕事として出発したB2Cの各社は流通拠点や配送能力向上に投資する傾向もある。

実際多くの先進的な印刷企業にヒヤリングしても、ビジネスの過半数は印刷で成り立つところが、顧客満足を高めるためにサービスの多様化をする中でECに取り組むのが実態であって、もともと営業力や企画力がなくて印刷がなりたたなくなる企業が、ECによって救われるといものではないだろう。

ECは、新しい商売の機会というよりも、ECによる強力なビジネスの協力関係が生まれることにより、その一翼を担える会社と、仲間に入れない会社を峻別する踏絵のようなものかもしれない。

通信&メディア研究会会報 通巻131号より)

【コメント追加】2000年には印刷ビジネスのためのECのポータルサイトが日本にもいくつか登場するようである。これにはさまざまなモデルがある。印刷発注者のためのもの、受注する印刷会社の側を重視するもの、特定のメンバーのためのもの、資材の調達のものなどである。これらを利用することで、EC投資という負担を軽く出来るのがウリであろう。

このうち、一般に印刷会社の側のワークフロー管理、トランザクション能力、デジタルアセッツなどの整備がまだ整っていないので、オープンな印刷のB2Bをしようと思っても印刷側の足並みが揃っていない。これをサポートするようなポータルサイトが先に動き出すのかもしれない。
いずれにせよ、EC対応能力は必要になる。しかし最終的に顧客の求めるものは印刷サービスそのものであるのだから、そこが弱い会社がECで救われることにはならないであろう。また印刷サービスに自信がある会社は、社内のデジタルのインフラがどれだけできているかが、ECによる顧客満足の鍵になるであろう。

2000/05/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会