工業化社会,企業中心社会を構成する思想の陳腐化
99/08/19
工業化社会についてたくさんのことを,いろいろな角度から述べてきた。そして,多くの方からご批判も頂いた。ご批判のうちから代表的な2,3の例をご紹介しよう。
●過日,5つの経営エレメントについて価値序列を説明する中で,新しい社会では従業員を最下位に位置づけている。ところが中小企業の経営の中では,経営者と従業員が一体感を持っていなくては経営にならない。社員の精神教育も,社員旅行も,みんな一体感を育てるために行ってきた。塚田はそれらを否定してしまうのだろうかというご批判である。
私の答えは一体感はなくなるということだ。誠にドライな答えで申し訳ない。従業員の自我とか個の自覚はどんどん成長している。社員旅行の経費を半分以上会社が負担してあげても30%以上の社員は不参加だろう。自分の自由時間は会社に束縛されたくないからだ。
会社の中心社員には,会社の株式を少額だが功労株と称して額面で譲渡してあげる。このことによって会社事業と一体感が生まれてくるとオーナー社長は思っている。これもとんでない間違いだ。もし,会社が店頭市場に株式を公開したら,その株価は何十倍にも上がっているだろうから,一番先に売却されるのは社員の保有株だ。会社は常に安定株主を大切にしたいのだが,社員は一番の不安定株主なのだ。
会社の中を歩いていると,パートタイマー,アルバイト,嘱託社員,派遣社員,契約社員,外国人社員などいろいろな身分の人が働いている。昔はこんなことは全くなく,すべてが正規社員だった。しかし,この傾向はどんどん大きくなるだろう。これらの身分の人たちに愛社精神とか会社との一体感を説いても,それは,それこそ「馬の耳に念仏」というものだ。会社組織,経営者,従業員,株主,それらの関係に新しい角度からリンクする思想を育てなくてはならない。
もちろん,会社の中には正社員であり,しかも部課長や係長として会社と一体感のフィーリングを持っている社員もいる。それらの社員には一般社員というより,経営者に近い経営管理者としてのフィーリングを育ててもらう必要がある。その管理技術の大きさに応じて,ストックオプションなどの手段を通して経営に参加してもらうことになる。これらの社員は一般社員とは区別されるべきだろう。
●塚田はこれからの資金調達は直接金融だという。もし完全に間接金融の道が閉ざされたら,中小企業の経営なぞできなくなってしまう。
この意見は全くその通り。中小印刷業者が資金調達をするのに,増資,転換社債,利益留保の3つしか手段がないとしたら,調達は全く困難になってしまうし,希望のない経営になってしまう。銀行だって貸し出し機能がなくなって,預金機能,決済機能,証券投資機能などだけでは経営ができない。企業に対する貸し出し機能は存続されるだろう。問題は貸し出しの動機が従来とは全く異なるということだ。従来は土地本位制の下で,一番安全で,リスクのない土地を担保にして貸付を行った。貸出先企業の収益性は担保価値は小さく,所有する不動産価値の方が大きかった。
これからの銀行の貸し出し機能は,土地神話がなくなった以上,安全性を担保にすることができないので,どうしてもリスクの高い貸し出しになる。そのリスクに対して担保にするものは,その会社の事業収益性しかない。すなわち,利益留保の先取りということだ。増資が容易に行えない以上,中小印刷業の資金調達は,利益の先取りか,蓄積後かという問題があるにせよ,利益志向の経営以外にないということになる。
これからの銀行の貸し出し態度は,リスクがより強いものになるのだから,従来より厳しいものになるのは当然のことだ。従って,中小印刷界の経営は売り上げ志向より利益志向になるべきだということを考えて欲しい。すなわち,直接金融という時,会社の収益性を担保にした,利益留保の前借りという,銀行取引も含んでいる。
さて,上記のような質問はいろいろあるだろう。経済人,産業人として今まで育ってきた思想が全く変わってしまうのだから,戸惑うのは当たりまえのことだ。工業化思想とお別れをする前に,もう一度,工業化思想のエレメントを列記して,記憶に止めておくことにしよう。
○物づくり万能,技術革新,物的生産性,マスプロダクション,マスコンサンプション,規格化,シェア主義,売り上げ志向,系列化(金融,販売,生産),ベルトコンベアー生産方式,カンバン方式…。
○間接金融,金融資本主義,土地本位制,主力銀行グループ,株式持ち合い…。
○護送船団方式,傾斜生産,高物価体質(高い公共料金),公権力…。
○結果の平等,懲罰的累進課税と遺産相続,横並び思想,中流階級意識,ワンパターン…。
○終身雇用制,年功序列型賃金体系,愛社精神,社内貯蓄制度,社宅,社員寮,保養所,住宅手当,通勤手当…。
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1999/08/19 00:00:00