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米国印刷界 :激烈な競争がビジネスを緊密にする

米国の印刷会社のネットワーク利用視察報告(1) 

米国印刷企業のネットワーク利用の背景

日本でも印刷業界向けに大容量データを送る高速専用ネットワークサービスとして,WAM!NET,VioやGTRAXなどが出始めている。 これらのサービスは米国や欧州ではかなり普及している。またインターネット利用のビジネス展開の進展なども考えられ,今回,インターネットなどを利用したECの状況,それと高速ネットワークサービスの利用実態などをポイントとして米国の視察訪問が行われた。

訪問先には,ボストンでは,アクメ社とメリル/ダニエルの2社,ニューヨークでは,ボーン社,AGT社,フォーブス/ケベコール社,コーラルグラフィックスサービス社の4社であった。 この中には,ファイナンシャルプリンティング(財務印刷)という分野で,大手3社が激しい競争を繰り広げているということから,競争に勝ち残るために吸収合併がここ数年繰り広げられているが,その中でボーン社,メリル社の2社を訪問してきた。

これ以外の印刷分野でもケベコール社とワールドカラー社の吸収合併があるように,今米国では印刷企業の再編成ということで売却,買収,合併が行われている。 今回訪問したアクメ社はワールドカラー社に吸収された会社であり,またダニエル社もメリル社に吸収された印刷会社であった。そのためか,今回の視察からは,ネットワーク利用というよりも,ネットワークの発達が印刷会社の吸収合併を可能にしているという印象が強く感じられた。この背景には,米国の印刷業が厳しい競争の時代に入っていることが挙げられる。

今回の訪問先の話では,従来ボストン地区では3社の印刷会社が競合していた時代があったが,今は3社すべてが買収されて大手グループの中に入っている。またこれらの会社は,生き残りのために企業を有利な立場で売却するということで,高品質や高生産性などの競争力となる基本技術をもつ必要があったということである。そして今では,企業がもっている技術を有効に生かした仕事を行っている。また売却して大きなグループに入ることにより,今までできなかった大型の設備投資が可能になるというメリットも出てきている。

逆に買収する企業側の背景には,競争に勝つために米国全土をカバーする必要性がある。そしてこの実現のため,人材育成や設備導入などを考えると会社を作るよりか効率的ということから買収が行われている。

このように印刷産業では企業競争のため吸収合併が盛んに行われ,技術力や経営資源を得意分野に集中し効率のよい市場占有率の拡大を目指すことで,データやデータ処理の集中,またどこの地域でも出力が行えるように事業を拡大している。そしてそのために,ネットワークの発達が大きなウェイトを占めているようである。

高速ネットワークの利用

買収後の課題として上がってくることが,出力を含めた技術の整合とネットワークの整合である。 ここでいうネットワークとは,出力を分散させデータ処理を集中させるためのネットワーク利用ということで,グループ内のネットワーク利用ということになる。このような高速ネットワーク接続を行う方法には,自社で高速バックボーンを構築,WAM!NET利用,Vio利用という形態に分かれている。

今回訪問した会社の中では,メリル/ダニエル社やボーン社が,自社の高速バックボーンを構築利用している。またケベコール/ワールドカラー/アクメ社はWAM!NETで統合している。AGT社は自社で高速プリプレスネットワークをもつが,またVioとジョイントベンチャーを組んでおり,コーラルグラフィックスサービス社では,Vio,WAM!NET,インターネットを顧客に合わせて使い分けて利用している。

これらネットワークの利用では,どこの企業においても回線ラインとしてはT1クラスを複数利用して高速にデータをやりとりしている。またもう一つはセキュリティの面からデータを安全に転送するという点が挙げられている。 利用目的には2つあり,ひとつはデータ処理やデータセンターの統合,もうひとつは必要に応じて出力を分散することがある。

データ処理やデータセンターの統合という意味は,一つはデータ処理を行う技術を各工場に分散するのではなく,集中させることで品質の維持やまた営業拠点がとこでも同じ結果を出せるところからデータセンターとして集中させている。 どこの営業拠点からでも現在の作業の状況を確認することができるとともに,またどこの営業拠点からでも違うところに出力できるように,センターで管理されている。

出力を分散する利用には2つの理由がある。ひとつは大量の処理を行うために複数の場所から出力処理を行う必要がある場合と,もうひとつは印刷物が必要な場所の近くで出力するということがいわれている。今回訪問した印刷会社では出力にはCTPが多く使われていたが,分散して出力する場合の課題としては,色を含めた品質の整合性が挙げられていた。このためにカラープルーフを利用して,またはRIPデータを利用して色の整合性をとっているということで,そのためにネットワークを利用しているという話があった。

今回訪問した地域の印刷会社には,ファイナンシャルプリンティング(財務印刷)の分野を拡大している2社が入っていたためか,基本的に共通している点が多かった。財務印刷では白黒の印刷物が多いが,逆にデータが入ってきてから配布するまで48時間もないという時間の制約が非常に大きい。そのためにネットワークを利用してどこでも印刷できる体制が必要であると同時に,また配布する先も複数という点から全土をカバーする拠点が必要である。 またワールドカラーに買収されたアクメ社のような商業印刷物などでも,グループ内の生産調整として,忙しいところからデータを受けて出力することがあるそうである。

このように,印刷を行う場所とデータ処理を行う場所が異なるということで,色を合わせるためにリモートプルーフという利用方法が行われている。データ処理を行って校正をする場所と印刷する場所でキャリブレーションを行った装置を使用してリモートプルーフを行い,それで印刷を行っている。

顧客との間のリモートプルーフについての見解は各社各様であるが,どこの会社も次期の検討項目というところであった。しかしコーラルグラフィックスサービス社は,高品質な書籍の表紙を印刷を行う上で顧客との間でリモートプルーフを行っていた。同社の場合,校正や入稿を含め92%をデジタル電送で処理を行っているそうで,ネットワークとしては,Vio,WAM!NET,インターネットとT1ラインを4本使用して電送を行っていた。この中で実際には80%近い顧客がリモートプルーフのみでカラー校正を行っているそうである。ただし,この会社では6色を使った表紙などを行っている関係から特殊なソフトウエアを使っている。

米国の印刷会社のネットワーク利用視察報告(2)に続く。

出展 JAGATinfo 2000年4月号

米国の印刷とネットワーク事情 視察団速報

2000/05/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会