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米国印刷界 :インターネットをめぐる新ビジネス

米国の印刷会社のネットワーク利用視察報告(2) 

米国は,国土も広くまた通信料金が日本に比較し低価格ということから,電子送稿や電子受発注,ECやEDIへと広域ネットワークを利用したビジネス展開を考えているデジタル先進国である。このためネットワーク利用の実態を,2月27日から3月4日まで東海岸(ボストン,ニューヨーク)の印刷会社を訪問し視察を行ってきた。

ここ数年米国の印刷企業では生き残りをかけて,買収や吸収合併が急ピッチに進められている。その背景には,高速なネットワーク網を利用したデータ処理の集中や出力の分散を行い,どの地域でも事業をカバーし市場拡大を行ってきている。今回の訪問では,高速なネットワーク利用による,企業のグループ化や出力の広域化を見ることができた。
以上は米国の印刷会社のネットワーク利用視察報告(1)を参照のこと。

インターネットの利用

顧客サービスという点では,スキャン画像の検索サービスなどを,デジタルデータの再利用や企画支援のために無料で提供するというケースが何社かある。仕組みはサーバにある画像をインターネット経由で顧客へ検索できるサービスを提供する形である。

インターネットビジネスということでは,ひとつは印刷用データのWebへの利用がある。ボーン社では70%が再利用されるそうである。しかしこのようなビジネスも基本的には,専門の部門または専門にしているグループ内の企業に移っていく傾向を示しており,またインターネット用のWebビジネスも自動車関連や金融関連の顧客情報サービスなどワンtoワンのためのマーケティング支援の方向で,印刷物の作成とは別事業になっている。

今回訪問した雑誌社のフォーブス社では,フォーブス社側でQPSにより原稿作成から編集まで行い,フォーブス社の建物内にあるケベコール/ワールドカラー社のサテライトオフィスへデータを送っている。ここではデータを受けてから製版を行いWAM!NETを利用して,世界中の印刷工場に電送する仕組みをとっている。このためフォーブス社にデータがあり,Web利用についても同社で別事業部を起こしてデザイン作成を行っている。

しかし,印刷・製版会社としてもインターネットを利用したビジネスという意味では,いろいろな動きが出ている。これは新しいビジネスモデルといわれるアプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)ビジネスへの動きである。

メリル社が行っていた,Eコラボレイトという環境がある。財務印刷においては,買収や吸収などが行われる中,株主などへ投資情報などの印刷物を作成して配布される。この場合は,非常に短い時間で,データを作成して印刷物を作成する。この印刷物の内容を作成するのは,顧問弁護士など各企業の関連する人々である。このため大企業になるとこのような人々が世界中にいるとか,また米国内でもいろいろな地域に分かれていたりする。

このため,離れている人々のコミュニケーションを助け,出来上がった原稿を見て校正を行えるコラボレーションツールとして,インターネット上に会議室と校正を行う環境を提供する。これにより離れていても短時間で校正を行い原稿を作成でき,そしてすぐ印刷が可能になるという支援ツールで,無料の顧客サービスである。

このシステムのポイントは,修正したものが印刷物のイメージですぐに確認がとれることと,企業機密の情報が漏洩しないこと,およびトラブルがないことである。

ASPビジネス

印刷業向けのASPサービスという点でもいくつか出始めている。一つは,インターネットを利用した入札のシステムがある。Collabria,Nooshというサイトなどがそれにあたる。Nooshの例では,会員制のサイトで競合入札を行う。これを利用するメリットは,クリーンな状態でやり取りができ,情報の質が上がり請求の処理までが可能になる。また取引のなかった会社から受注を取ることが可能になることなどが挙げられる。

AGT社では,デジタルデータの利用という点ではデジタルアセッツ管理サービスを始めている。これはVioとジョイントベンチャーで始めたサービスである。写真,グラフィックス,ロゴ,PAGE,ビデオ,オーディオなどのデータが扱え,自動車会社,映画会社などいろいろなところで利用を始めている。

デジタルアセッツ管理のシステムは作ろうとすると大変金がかかる。今まではちょっとテストしてというわけにはいかなかったが,ASPサービスを利用すると利用料のみでとりあえずテストが可能になる。またうまくいかなければすぐに方向変更も可能である。このようにASPというサービスは,今までは大企業しか使えなかった優れたシステムを小規模の企業でも利用できる。これがASPの良いところである。

またASPのサービスを展開する側にとっても,自社が得意とする技術をサービスできるというメリットがある。AGT社は製版会社で,US news,NY Daily News,Fast Company,シアーズやKマート用チラシ,その他広告など多くの画像を扱うだけでなく,各社の画像データベースを管理サービスしている。このため画像を運用管理していくデジタルリンクシステムを開発している。AGT社としては,自社がもっている技術を生かす方向として,むしろプリプレス事業とは距離をおいて,このASP事業を進めていこうとしている。

またメリル社でも,IRエッジというソフトウエアシステムをASPサービスの位置づけで始めている。これは,財務印刷のためのEコラボレイトのシステム同様な技術を利用して,これは印刷のためではなく各社が出しているWeb上の情報を制作管理を支援するソフトウエアサービスで,会社の投資関連の情報の作成変更を簡単に行えるものである。外部委託せず投資関連の情報を簡単に作成でき,そのままWeb上で公開される仕組みである。

このように,各社が得意とするサービスをネットワークを通じて提供するのがASPビジネスで,印刷会社も参入し始めていた。(大久保充)

出展 JAGATinfo 2000年4月号

米国の印刷とネットワーク事情 視察団速報

2000/05/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会