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かなり怪しくなったフォントの知識

CIDフォント騒ぎの時もそうだが、OpenTypeでもニュースに載る割には、それが何であるか知る人はほとんどいない。PostScriptのType1フォントの時は、Adobe自身がBlackBookと呼ばれる仕様書を出して解説したが(とはいっても、日本語版ってあったのだろうか?)、TrueTypeになると仕様を目にした人は業界にも殆どいないかもしれない。TrueTypeだって仕様くらいはインターネットで簡単に手に入るにもかかわらず…。

この理由は簡単で、もし仕様書を見てもわからないからである。フォントに関する知識は、デザイン側と、印刷に使う側と、システムを提供する側の、合計3分野にあり、お互いに共通の言葉でコミュニケーションするためにさまざまな用語が生まれてきた。これが活版の時代はまだ3分野で一体感がもてたからよかった。デザイナでも活字のことや植字のことを勉強することはできた。

しかしこの20年間に起こったことは、テクノロジの多様化と急速な進歩、ベンダーの国際化、フォントを扱う利用者層のひろがり、などにより、共通語を使うフォント分野というのはなくなってしまった。例えばbodyの解釈は活字と写植で同じでないとか、デジタルフォントはヒントや変形が可能とか、これまで国によって異なった活字制度があったのが、PostScriptのような共通のポイント制になるとか、素人にもわかる説明が必要になって書体のことを字体と称するメニューなどなど、かつてフォントを制作し提供し使いながら育ててきたフォント知識体系は崩れてしまった。

しかし印刷システムがITの世界に取りこまれていくに従って、情報用語としてのフォント情報の国際的な整備が必要となり、フォント情報交換(ISO/IEC9541、JIS X4161-3)などの規格化が行われるようになった。それでもこの規格に書かれていることの理解をするには、伝統的なフォントデザイン及び印刷側とコンピュータ側の相当の予備知識が必要になり、関係者自身が頭を抱えることも少なくなかった。そこで規格をサポートするTechnicalReport(TR=標準情報)というドキュメントのフォントに関するものが別途出版された。

標準情報(TR)の改正版については、財団法人日本規格協会情報技術標準化研究センター(INSTAC)の電子出版技術調査研究委員会の平成11年度の活動報告書に記載があるので紹介する。
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パソコンの普及とさまざまな文書処理アプリケーションの開発によって,これまで印刷分野だけで使用されてきた多様な書体を使用して,高品質な文書を誰でも手軽に制作できるようになった。
その結果,これまで印刷関連分野の専門家だけの間で利用されてきたフォント情報処理用語が,多くの技術者やフォント利用者の目に触れるようになってきた。しかしながら,フォント技術環境の変化によって,これらの用語はこれまで必ずしも系統だって整理されていなかった。

そこで,通商産業省工業技術院では,フォント情報処理用語を情報処理の観点から体系付け,明確な定義を与える標準情報(TR)の開発を1994年に文字フォント開発・普及センターに依託した。これを受けて文字フォント開発・普及センターでは,「フォント関連用語の標準化に関する調査研究委員会(注1)」を設立して開発を開始し,「一般用語」,「フォント情報管理に用いる用語」,「メトリック情報用語」,「形状表現に用いるフォント情報処理用語」,「レンダリングに用いるフォント情報処理用語」,「フォント生成系で用いるフォント情報処理用語」及び「フォントデザイン用語」からなるフォント情報処理用語の原案を作成した。この原案が,1996年8月に標準情報(TR)フォント情報処理用語(TR X 0003:1996)として公表された。

このTR X 0003は,1999年8月で公表から3年が経ち,工業技術院からINSTACに見直し調整の要請があり,INSTACでは1999年10月に電子出版技術調査研究委員会に作業グループWG4(注2)を設置し,改正原案の作成作業に着手し,2000年2月に改正原案を工業技術院に提出した。

この改正原案の主な改正箇所は,次のようなものである。
(1)用語の追加
 ポップ書体等の用語の追加と,「基準位置」,「並び位置」及び「並び域」の用語は,いずれも「欧文フォントの」を前置し,例えば「欧文フォントの基準位置」のようにした。
(2)索引の新設
 日本語と英語の索引を新設した。
(3)図の追加
 草書体,隷書体,行書体,宋朝体,楷書体,古印体などや欧文フォントのセリフの種類など,文字列による定義だけでは分かりにくい内容について,図を追加した。
(4)解説の充実
 一部分は各用語の参考として書かれていたものもあるが,印刷文字サイズの単位,情報交換における書体分類,情報交換におけるウェイトなどについて,解説の中に新規項番を起こしてわかりやすく解説を追加した。

 この改正標準情報(TR)フォント情報処理用語(TR X 0003:2000)は,まもなく(財)日本規格協会から出版される。
(注1)この委員会の委員長は小町祐史(松下電送(株)),幹事は山本太郎(アドビシステムズ(株))の各氏だった。
(注2)この作業グループの主査は小町祐史(松下電送(株)),幹事は長村玄((株)DEL)の各氏だった。

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JAGATでは、我々が今日使用している書体全体の理解をすすめるために、欧文フォントに通じている山本太郎氏、書に造詣の深い有澤逸男氏、写研の書体開発ディレクションをしてこられた橋本和夫氏を招いて、5月26日(金)に「書体の世界」というtechセミナーを開催しますので、お見逃し無く。

2000/05/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会