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コンピュータの100年と、インターネットへの相転移

0.コンピュータの歴史に見る、「ものごと」の進展パターン

いったいコンピュータとネットワークでこれから何が起こるのか? 日々のニュースを追いかけていると事態は二転三転…n転するし、誰にもわからない。しかし全くデタラメにものごとが進んでいるのではないので、妥当なものの見方はあるはずだ。つまり過去の歴史の必然性を認識することができたならば、未来を考える上で大いに役立つだろう。

18〜19世紀の産業革命は、技術の発明が引き起こしたものではない。産業投資がある技術に対して集中的に起こったのである。後の戦争ための投資が科学技術を局部的に肥大化させたのも同様である。そして今日、アメリカおよび世界の人々が社会の進歩を欲求して、ITに産業投資することで「デジタル革命」は本格化した。メディアに関わる仕事に携わるものにとって、デジタルの歴史はきちんと押さえるべき知識である。

JAGATの和久井孝太郎副会長は、「メディア」を含む「ものごと」の進歩・発展には,階段を1段づつ上って行くような定型的なパターンが存在するとして,このパターンのことを'「ものごと」の進展のパターン'と呼んでいる。近日刊「デジタル革命とメディアのプロ」では、20世紀に大発展したテレビの例を挙げてこの進展パターンを説明しているが、ここでは20世紀のもうひとつの大発明であるコンピュータを例に進展のパターンを説明する。 図 「ものごと」の進展のパターンとコンピュータの歴史的な展開

「欲求の発生」から,欲求に応える手段・手法の『発明・発見』で飛躍があれば,何とかできそうな「技術のアイデア」段階へと進む。「技術開発やサービス開発」の段階から「実用化」段階へ,「技術規格の標準化や,実用化に先立ち法制化の必要があれば法制などの整備」の段階を経て'新しい技術への産業投資が行われる'「産業化」があり,「ソフトの充実と技術的な特性改善,実用性向上)」して「ものごと」の普及が始まる。「ものごと」が光り輝く(ステータス・シンボル[status symbol:社会的な身分・地位などの象徴])段階である。サービス提供者と消費者による「送り手と受け手の相乗効果で,規模や応用範囲が拡大する」時期を経て「経済性向上」の段階へ,「技術のアイデア」から「経済性向上」に至る欲求の「基本充足」の上り階段で,最後は(大衆の時代)へと到達する。

ここで階段は,二手に分かれる。第一の階段は,欲求の「基本充足」時代から「高度充足」時代へと直進する。第二の階段は,初志をつらぬき欲求の「基本充足」の「高度化」へ,「文化向上」へのフィードバック・ループを描いて循環することになる。

第一の階段は「新たな欲求の満足へ」「より精緻なサービス」提供など,「ものごと」の[多様化]時代を経て,「ソフト化サービス化」と呼ばれるハード比重の低下段階へと進む。自由度の拡大が新たな願望を生み出し,例えば,氷であった固い水が液体へ,更に温度が上がり摂氏100度で気体化され自由度が飛躍的に向上するような『相転移』の飛躍を経て「ものごと」は,最初の欲求が全く想像しなかった「ものばなれ」と呼ぶ別の次元へと突入する。この「ものばなれ」こそが21世紀の「ノマド」的な生き方に対応するのではないか,と和久井副会長は考えている。

初めの[欲求の発生]は願望ありきであり,「ものごと」の最初は欲求の発生である。テレビに対するそれは「千里眼欲求」であり,太古から人類が抱き続けてきた基本的な欲求の一つであったと考えられる。また複雑な計算を正確に,かつ高速にやりたいという欲求は,古くからあった。例えば,ソロバンがわが国に中国より渡来したのは,16世紀中頃であると推測されている。

現存する最古のデジタル加算機(歯車式計算器[calculator]) は,後に哲学者・数学者として名をなすフランスのパスカルが,税務官吏であった父親の仕事を助けるために,19才になった1642年に計画したものであると伝えられている。そして,このような税務や商売の計算以上に,複雑な計算を必要とするのは,数学・天文学などの科学であり,産業革命の近代技術であった。産業革命がコンピュータを欲求したと言っても過言ではない。

その後のデジタルコンピュータの発展について、和久井副会長は以下のような展開で連載をしていく予定である。今日複雑化したコンピュータ/ネットワークの世界は、細分化された多くの個別の知識を必要とするが、その情報収集のナビゲータとして今までの歴史的な総括が有効になるだろう。

1.「発明・発見」から「技術開発・サービス開発」時代まで
2.技術の標準化
3.実用化・産業化
4.ソフトの充実/特性改善
  4-1【プログラミング言語】

  4-2【プログラミング言語の充実】
5.送り手・受け手相乗効果/応用範囲の拡大
  5-1【ソフトの分離販売(アンバンドリング:unbandling)】

  5-2【ミニコンピュータからマイクロコンピュータへ】
6.経済性向上/信頼性・操作性向上
7.デジタルワールド創造への意欲とデジタル文明の勃興

2000/06/01 00:00:00


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