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全市場をカバーし始めたデジタル印刷システム

デジタル印刷システムの位置づけは,当初は品質,ロットともに,コピー/プリンタと枚葉印刷機の間というものだった。しかし,1993年にインディゴとザイコンのシステムが衝撃的なデビューを果たして以降,数枚の印刷を主市場とする大判プリンタから,オフ輪のスピードに匹敵する高速モノクロプリンタまで,当初のコンセプトをはるかに超える製品群が市場でみられるようになり,モノクロページ物の世界を含めて既に足場を固めている。

2000年は,枚葉印刷機の主要市場にもオーバラップする製品群が投入され始め,デジタル印刷システムが競合しないウエットインキの印刷分野は,オフ輪やグラビア印刷くらいになってきた。今後の課題は,現在のモノクロコピー,プリンタのように,カラーの世界も一般事業所に広がることを視野に入れて,これらのシステムがもつ多様な機能を生かせるビジネスモデルの最適化を図ることである。

2万台を超えたデジタルカラー印刷機の導入
2000年は,印刷スピード,品質,さらに印刷用紙の選択幅などの面で,従来の小ロットカラー印刷の範囲を超えた,デジタルカラー印刷機/プリンタが続々と発表されている。これらは枚葉印刷機が抑えてきた市場を狙うものである。インディゴの巻き取り印刷方式Publisherシリーズ「Publisher4000」,同8000は,A3フルカラーで4000枚/時,8000枚/時で印刷する。

ザイコンの新製品「CSP320D」は,最大A3サイズ,両面4色印刷が可能なデジタル印刷機である。印刷スピードは7800枚/時,解像度は600×600dpiながら4ビットのデータ深度があるので,2400dpi相当の印刷品質になる。

本システムは,表裏2セットの回転するベルト上に,1色ずつ画像を形成して4色画像を作り,これを一度に紙に転写する方式である。これによって,紙サイズがA4から320mm×470mmまで,紙厚も80〜300g/uという広範囲な選択ができる。

ゼロックスの「Docu Color2045」,同2060は,新方式「デジタルブランケット」によってオフセット印刷並みの品質を実現,独自の紙搬送機構で64〜280g/uの紙の印刷を可能にする。

オンプレスイメージング印刷機市場を追求するプレステックの姿勢は一貫している。刷版処理に化学物質を使わないならば,印刷機上で刷版・製版するのが最も合理的という考え方である。同社は,ハイデルベルク,カラットデジタルプレス,アダスト,桜井,アキヤマという,それぞれ独自の市場を把握しているメーカーと組んで,全方位でのオンプレスイメージング印刷機市場の拡大を狙っている。

大日本スクリーンは,新発表の「TruePress744」を始めとするTruePressシリーズとともに,インキジェットイメージングシステム「TruePressV-XL」を発表,さらに後述のモノクロ専用システムも出して,インディゴなどのシステムを含めた幅広い製品群で,多様な市場をカバーする。

カラーのデジタル印刷システムは,技術面では既にひとつの段階に達している。93年から99年時点までの全世界におけるデジタルカラー印刷機の導入総台数は,2万3600台強になった。特に,98年以降の伸びは大きく,99年までの2年間で3.5倍になった。オンプレスイメージング印刷機も今後伸びて,2001年には枚葉印刷機の2%弱,2006年には約2割に達すると予測されている。

モノクロ市場向けにも新システムが続々登場
モノクロのページ物分野では,先行したドキュテックがひとつの市場を確立してきたが,この市場にも各ベンダーが新製品を続々と投入してきた。

大日本スクリーンでは,「TruePress V200」がモノクロページ物市場を狙った製品である。ハイデルベルグの「Digimaster9110」は,A3サイズ,6600ページ/時の生産能力をもち,各種インライン後加工機能も付加できる。インディゴは,解像度800×2400dpi,印刷スピードがA4サイズで8160枚/時,パーソナライゼーション機能具備の「Ebony」を発表。ゼロックスは1万800ページ/時の最高速機を出した。

広がる高速モノクロプリンタの世界
1件当たり数十万枚以上のバリアブルデータ印刷をする請求書などの分野でその地位を確立した高速デジタルプリンタは,今後,BOD(ブック・オンデマンド)分野での普及が期待されている。米国のイングラムは,98年5月から本格的な事業を始め,99年11月には,平均286ページ,4530タイトルの本を7万冊売るBODビジネスを展開している。

サイテックス・デジタル・プリンティング(SDP),アイビーエム,オセ製品は既に着実に足場を固めてきた。drupa2000では,マンローランドがA4サイズ,解像度480dpi,96000枚/時で印刷する「Nipson7000 VaryPress」を出品。

特殊印刷分野向けには,インディゴがラベル印刷用システム「Webstream100」,同200,同400と,同社パートナーの開発による,CD,CD-ROMDVD向け「Indigo-KammannK15」デジタル印刷機を出した。アグフア・ゲバルトも5色のラベル印刷機「Mark Andy」を発表。99年時点で,150のラベル印刷,カード印刷,特殊印刷工場で,デジタル印刷機が設備されているという。以上のように,デジタル印刷システムは,小ロット印刷という一部の市場の域を脱して,印刷業一般が対象とする多様な市場をカバーする技術になってきた。

現実のビジネスで重要な1枚当たりコスト
これらの技術が,今後さらに普及していくための第1のポイントは,コストである。

アメリカンスピーディ日本の資料によると,枚葉式デジタル印刷機,巻き取り式デジタル印刷機,オンプレスデジタルイメージング印刷機,菊4裁枚葉4色印刷機,菊半裁枚葉4色機それぞれの最適ロット範囲(印刷価格面)は,菊4裁両面4印刷の場合,ほぼ40枚,250枚,5000枚,1万枚,3万枚を境に入れ替わる。この境界線は,印刷物仕様などで当然変化するが,要は,各システムの印刷コスト構造が,それぞれのロットごとの最適領域を規定するということである。つまり,デジタル印刷システムが,たとえ印刷スピード,解像度などで枚葉印刷機に近い機能,性能をもったとしても,1枚当たりの印刷コストでの競争力がなければ,現実のビジネスにはつながっていかないことになる。

コスト以外のもうひとつのポイントは,それぞれのシステムで狙う市場(顧客の属性と提供製品・サービス)に合わせたビジネスモデルの最適化である。

ポイントはビジネスモデルの最適化
企業一般におけるコンピュータ利用の普及と高度化がもたらしつつある新しいプリント(印刷)サービス,あるいはその前後に要望されるさまざまなニーズに対応するためには,単に必要な個別能力をもつだけでなく,適切なビジネスモデル,あるいは業態での展開ができるか否かが鍵になる。

例えば,オンデマンド印刷というと,多くの人がプリントショップという業態を思い浮かべるが,ショップ展開のモデルはひとつではない。

ひとつのモデルは,各ショップに必要な設備を一通りそろえるオールインワンタイプである。オフィスの延長としての機能を主体とした市場を狙えば,大きな設備投資が不要で,採算も取りやすい。

一方,自社は,仕事の窓口機能とデジタルデータの処理機能を果たし,デジタル印刷機やオンプレスイメージング印刷機など,数千万円の出力設備が必要な仕事は他社との連携でこなしながら,顧客には,自社に設備があるのと同じレベルのサービスを提供するショップのモデルもある。デジタルデータからのショートランカラー印刷市場を狙う場合に適したモデルである。1点当たりの売上額が小さく,高い設備をそろえていては,採算が取れないからである。

これとは逆に,自社は生産拠点とし,仕事の受け入れ窓口を多様な業種にまたがって設けるモデルがある。製品はハガキやブライダル関係などの個人需要の小さな仕事だが,幅広く張り巡らした窓口ショップから大量の仕事を集めて,集中生産システムでこなしていく。このモデルでは,年商数百億レベルの大きなビジネスの実証が既にある。ただし,製品のイージーオーダー化が前提で,コンピュータネットワークでの受発注の処理能力は不可欠である。

アウトソーシングとFM
もうひとつのビジネスモデルはアウトソーシングである。アウトソーシングとは単なる外注ではなく,委託する内容が明確に規定された上で,契約関係が基本になる業務委託の形である。

米国では,企業内の文書作成施設とMIS(Management Information System)部門が統合されつつあり,減少傾向にある一方,アウトソーシング(狭義の意)やファシリティ・マネジメント(FM:これも広義のアウトソーシングの中の一形態)が年率25〜30%という高い伸びを示している。狭義のアウトソーシングの意味は「必要な作業やサービスの提供を,社外で行う業者に委託すること」であり,ファシリティ・マネジメントは「社内の必要な場所に専門家を引き入れること」である。後者は,クライアントの文書処理に関わる人や設備,その運用までのすべてを管理し,コスト削減とより多くの利便性を提供するものである。

米国のXerox Document Services Groupの年商は既に22億ドルに達し,1万2000人の従業員を抱え,従業員の80%は顧客の印刷施設でオペレーションを行っている。企業は売り上げの6〜15%を文書処理関連に使っているので,支払費用さえ適切ならば,従来自前でもっていた,人,設備,運用のすべてをアウトソースすることを求めている。ただし,対象はかなり規模が大きな企業である。

これ以外にも,印刷データが作られてから使われるまでの,場面全体にわたって必要な多様な業務を,一括して引き受けるアウトソーシング業態もある。

印刷業モデルが適したオンデマンド印刷市場
印刷コンビニのビジネスモデルとして,当初はオールインワンのショップモデルでスタートしたが,結局,印刷業モデル,つまり生産工場があって営業によって仕事を受注するという形に戻って,事業を軌道に乗せる例がみられるようになった。ただし,ここでの営業とは,顧客の印刷物作りの合理化提案,システム構築支援や販促支援などのソリューション提供を核にした,トータルサービスの売り込みである。価格モデルも1枚単位ではなく,プラン全体を1つのパッケージとした価格や,成功報酬としての売り上げなど,従来と異なる選択もあるだろう。

いずれにしても,ひとつの形ができ上がれば,顧客は継続的に仕事を持ち込むことにもなる。

大量の顧客データを使って,ワンtoワン マーケティングのための印刷物を作る場合や,セレクティブバインディングシステムを使うようなニーズへの対応は,印刷業モデルにならざるを得ない。

定着したインプラントモデル
以上,3つのモデルを示したが,もうひとつのモデルがある。それは,インプラントモデルである。デジタル印刷機を使った,マニュアルやテキストなどのオンサイトでのジャストインタイム制作分野では,このモデルがかなり行き渡った。また,データベースとネットワークを組み合わせたネットワークプリンティングも,小売業で広がりつつある。

また,比較的安価だが,ページバリアブル機能をもたせたカラープリントシステムが構築できるようになってきたので,従来のモノクロプリンタのような使い勝手で,ワンtoワン用の販促資料を作ることも確実に増えていくだろう。ただし,ここにも,上記で述べてきたような印刷業としてのビジネスが当てはまる市場は開けてくる。

月刊プリンターズサークル 2000年6月号より

2000/06/21 00:00:00


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